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ドラストールの地に起きうる事ー灰の平原の崩落に関する報告

資料源:“狩人”オストロロフ(Ostrolof the Hunter)

 この文書は、“狩人”オストロロフと言う人物の体験を書き残したものだが、オストロロフや、彼の仲間が何者であり、何をしていたのかについては何も伝わってはいない。

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 私が灰の平原から立ち去ろうとしたとき、奇妙なことに気が付いた。私の後ろにあり、それなりに丈のある全てのものが、縮むか、視界から消えていく。それに気付いて身震いしたのは、松の大木が地中に引き込まれていったのを目にしたときである。その他に、姿が捻じれ、私の方に向かって動いてくるものがあることにも気が付いた。私は耐えられなくなり、オーランスの呪文をこの場で自らに掛け、ただひたすらに、ここから逃げ出して家に帰ることだけを念じて、太陽の向きとは逆方向に、空中に飛びあがった。
 十分な高さに達する前に、私は後ろを振り返った。恐ろしいことに、灰の平原は凄まじい速さで、その範囲を拡げていっていた。それは、邪魔になるものを全て地中に飲み込んでいった。私は高所に上り、全周を見渡せるようになったが、拡大する平原の端は、悪鬼の高原とテルモリの住処である山々の縁まで押し寄せていた。木々の先端程度の高さまで達したら、私は川に沿って東の方に向けて出発した。私は、夜になるだろうが、汚れの谷間までたどり着くのは容易なことだろうと考えていた。しかし、大勢の灰色肌(Greyskins)がおぞましい鳴き声や呻き声をあげている筈の汚れの谷間が消え失せていた。トボロス山脈からロックウッドの森まで、密集した樹木に覆われた、その下を流れている筈の川を見つけることができない。そして、私の飛翔している高さから、自分の左側に見えている木々には、毒々しい赤色の剛毛に覆われた巨大な蜘蛛が鈴なりになっていた。間違いなく、蜘蛛の森が、汚れの谷間一杯に拡がっていた。私は、修羅の森から飛来するハーピーが私を捕らえるのではないかと怯えたが、オーランスは、その夜、私の逃避行に加護を与えてくださったので、私は飛べる限りの距離を飛んだ。私は、蜘蛛に関する恐ろしい話をよく覚えていたので、木々の側に着地することをためらっていた。しかし、幸いに開けた場所を見つけることができたので、それが何か別の恐ろしい罠でないことだけを願いつつ、そちらに向かった。そこは、おそらく周囲半マイルほどの広場だった。あまりに遅かったらしく、その広場には灰色肌達が身を寄せ合うような状態で群れ集まっていた。私が大きな落下音と共に、彼らの頭上に降り立つと、彼らはパニックに陥って、周辺の森に駆け込んだ。彼らの狂ったような叫び声は何時間も続いたが、私に向かってくるような者は誰もおらず、僅かの時間のうちに、私はここに独りになった。陽が昇り、私は近くにある等距離に並んだ赤い岩と青い岩に目をやったが、私は、即座にそれがカナルサ(Canartha)と私で建てた境界を示すための印の岩だと気づいた。しかし、今、その2つの岩は、半マイルほど離れているが、以前はその50倍離して置いた筈だった。私は、どうしてこうなったのかは分からないが、この小さな空間に汚れの谷間が移ったしまったことをを悟った。私は、ヘドロ川の名残も見つけた。川の全てが、今では数十ヤードの幅しかない空間に押し込まれているのだ。その表面には、固体と化した泡立ちのように見えた。黒い毒素の小さなカスが、上流へ向かって逆流していく。私は、なぜそうなったのかは分からないが、灰の平原が、大きく拡大したことで、土地の沈下が起き、膨張した水が底のない灰の方に逆流を引き起こしたのだと推測した。夜が明けて、私は、捕食者のほとんどは、不注意な灰色肌を貪り喰らうことで十分満足するはずだと考え、川沿いに森の中を突っ切る方向に出発した。旅は過酷だったが、数匹の蜘蛛に追われただけで、日が暮れるまでにドラスタの社まで戻ることができた。次の日、私は、隠れ家にしている堰に着いた。私は、悪臭のする溜池の汚泥が流れ去っていることに気付いた。大きな溜池が底の方まで露出しており、滑らかで表面の堅くなった汚物の固まりが残されていた。
 私は、その上にのって周囲を見渡した。今度は、東側の澄んだ水の流れの方が西側の汚泥の溜りよりも高所にあり、それは灰の深みの方に引き寄せらているようだった。そして、私は、堰がエリンフラース川の水を透明にするだけでなく、川全体、そして、おそらくその先のオスリーア河を守っていることに気が付いた! 私は、灰の平原が、澄んだ水を平原に吸い戻すほどに沈下してしまうのではないかと考えている。
 この時、私は、ドラストールを変えようと計画して何を行おうとも、それは精々一時的なものに過ぎないことを悟った。問題の大きさは、我々が未知の世界を守り、導いてくださるオーランスの知恵と時代を信頼して、我々の伝統を受け継いで前に進むしかできないだろう。

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