言う事を聞かす。

明日のご飯の買い物の為、帰りに近くのスーパーに寄った。

一通りカゴに食材を入れ、少しお菓子も買って行くかと、お菓子コーナーに行くと、なにやら親子が揉めている。

「言う事聞かないと、おやつ買ってあげないよ!」

よく耳にする奴だ。

人は、やたらと相手に言う事を聞かせたがる。
「言われた通りにやればいいんだよ。」
「言われた事も出来ないの?」
「1回言われたら、覚えてよね?」

言う事を聞かそうとする人間の放つ言葉は、どれも品がなく、どれも的外れに聞こえてしまう。

それもそのはず。この「言う事を聞かす。」というのは、達成すべき本来の目的をずらしている。まるでマジック。「目的ずらしマジック」なのだ。


この親子の会話でもそうだ。

実は、お母さんが「言う事を…」を発動するキッカケは、女の子がうるさくしていたからだった。すると、この場合、本来の目的は、【周りの人に迷惑が掛からないように、スーパーでは静かにする事】であるはずなのに、「言う事を…」を発動する事によって、【お母さんの言う事を聞く事】が目的になってしまっている。

見事に、ずれている。

もし、ここですぐさまお菓子を女の子に買い与え、食べる事に夢中にさせてしまえば、女の子は静かになっていたかもしれない。

しかし、人はそう簡単に別の選択肢にたどり着けない。何故なら、自分の考え方が正しいと思い過ぎてしまっているからだ。


そう考えるのは、自分自身が祖父に対してそう接していたからだろう。




僕は、祖父をよく怒ってしまう。

4月末に脳梗塞で倒れ、入院し、退院してから認知症がだいぶ進んだ。それでも数年前に亡くなった祖母の時よりかはましで、会話は出来るし、1人でご飯も食べられる。

ただ、「家を出ないで」と言っても、出てしまう。「2階に登らないで」と言っても、登ってしまう。「ゴミを捨てに行かないで」と言っても捨てに行ってしまう。

そんな事が続き、自宅前の段差で転倒したり、階段から足を滑らせたり、この数ヶ月で救急車を4回も呼ぶ程、祖父は家の中や外で転倒し、怪我をしている。

そんな出来事ばかりだから、僕は、心配し、祖父の事を思って、何度も怒ってしまう。

「なんで言うこと聞いてくれないの!?」
「前も言ったよね!?なんで分からないの?」
「もーお願いだから言う事聞いて!」

そんな生活をつい最近まで、ずっと続けてきた。僕は、心も体もだいぶ疲れてしまい、その度に叔母に無理を言って、旅行などに出掛けていた。

しかし、この前、叔母2人が同時にコロナになってしまい、10日間、付きっきりで祖父の面倒を見なくてはいけなかった。これが相当しんどかった。頭が真っ二つに割れそうな程、ストレスが溜まっていた。

療養を終え、僕を心配した叔母は、「少し休んでいいよ。そんな心配しなくても、じいちゃんは放っておいても、案外大丈夫だから。」と長期間休むよう言ってくれた。

その言葉に甘えて、なるべく祖父の面倒を見ない時間をここ最近は増やしていた。

すると、イライラも以前よりかはだいぶなくなり、祖父を怒ったり、嫌味を言う回数はだいぶ少なくなってきた。


そして、今日、先の親子のやり取りを見て、今までの自分の祖父に対する態度について、とても反省した。


言う事を聞かせて何になる?

僕が祖父に求める事は、なんだ?
祖父が求めている事は、なんだ?

怪我をしない事?外に出ない事?2階に上がらない事?僕の言う事を聞くこと?

どれも手段であって、目的じゃない。

本来の目的は、「祖父が元気で居る事」ではないだろうか。

祖父が元気で居れば、僕がとやかく言わなくても、行動しなくても、それで良いじゃないか。

怒らなくてもいいじゃないか。


そりゃイライラするのは、しょうがない。
けど、「言う事を聞かす」という心持ちで祖父と接していたら、ただイライラするだけだ。違う。そうじゃダメだ。

祖父が言う事を聞かなくてもいい。
「元気で居てもらう為に」何をするか考えよう。


そう冷静に考える事が出来たのも、ここ最近ゆっくり出来ていたからなのかもしれない。叔母には、とても感謝している。





会計を済ませ、レジを抜けると、さっきの親子がいた。女の子は買ってもらったお菓子を嬉しそうに抱えている。お母さんもまた、それを見て、ニコニコしている。「今、食べていい?」と女の子が聞くと、お母さんはヒソヒソ声で「いいよー」と答えた。しかし、子供は「やっぱ帰ってからにする!」と元気よく答え、お母さんと手を繋ぎながらスーパーを後にした。



人生において、誰も正解は、分からない。
正しい結婚生活の仕方だったり、正しい子育てだって、「これをやっとけば間違いない!」なんて事は、1つだってない。

僕の祖父に対する接し方もそう。けど、やっぱり正解が欲しいし、不安になる。

そんな時、伊坂幸太郎の小説で読んだセリフを思い返す。「人生みんな初心者なのに、どうして上手く行くと思ってる?お前は人生のプロなのか?」

上手く行かなくて、当たり前。
何度でも、立ち向かって行こうじゃないか。
もちろん、1人でやっちゃダメ。1人でやってる気になっちゃダメ。2人の目標を。相手を第一に。尊重、尊敬。




PS. 今日は色んな出来事に触れ、書かずには居られなかった。皆、僕含め「強い立場の人間が”正しさ”を突きつけてる。」と言った共通点があった。時に、”正しさ”だけじゃ、目的を達成出来ない事もあるのかもしれないな、と。分からないけど。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?