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陝西八大怪第三怪:唐辛子への愛

「陝西八大怪」は陝西省の八大不思議というような意味です。
郷土の風習を端的に表す8つのキャッチフレーズのようなもの。

第三怪は唐辛子について。
豊かな土地が産んだ唐辛子文化と奥深さを賞賛する言葉で、
第一、第二の不思議に続いて、食文化についての内容です。


陝西第三怪

辣子是主菜
歌谣:虽说川湘能吃辣,老陕吃辣让人怕。
辣面拌盐热油泼,调面夹馍把饭下。

辣子(唐辛子)は主菜、おかずの中心である。
歌謡:
四川省や湖南省でも辛いものが好まれるが、老陝(陝西の人)の辛さ好きは、なんだか怖いくらい。
油泼(唐辛子粉と塩を混ぜて熱い油をかけたもの)を麺に和えたり、蒸しパンに挟んでご飯のお供にするのだから。

 

豊かな土壌でうまれた唐辛子の王様

関中地域は古代から豊かな土地です。肥沃で平坦な黄土平原には、年間を通じて豊富な雨量があり、農作物の栽培に適しています。

そんな関中で栽培される細長い唐辛子は「秦椒」と呼ばれ、別名唐辛子の王様。辛味が強いというよりも、熱したときの香りが高い品種です。

王様は一般的な唐辛子よりも細長い。

果肉は厚く、色鮮やか。一般の唐辛子よりも油分が多いから、柔らかくてしなやかな光沢があります。
羊肉包膜の付け合わせに出てくるのは生秦椒ですが、一番有名なのは天日に干してから加工した、油泼辣子。

油泼辣子

これは日本でいうところの食べるラー油のようなもの。

唐辛子粉に、ゴマなどの香り付けの調味料を混ぜ合わせ、熱した油を注いでから、酢をかけて香りを引き立たせるものです。

油温度が高過ぎても焦げてしまうし、低過ぎても生臭くなる。絶妙な温度加減が必要。


「油泼辣子一道菜」という言葉がありますが、これは「油泼辣子はおかずである」という意味です。

もはやラー油という調味料の枠を超え、一品料理並みの存在感。
麺やパンに、「これだけ」をつけて食べるのは、陝西省人々にとってごく一般的なことです。

ジャムのようにマントウなどにつけて食べます。

陝西省の油泼辣子に似たラー油は中国各地にあります。
でも、他地域のラー油は多くの香辛料を混ぜて複雑な風味を楽しむことが多く、唐辛子の純粋な辛味や香ばしさを直接楽しむ食べ方は陝西省ならでは。

四川省や湖南省も、辛い料理が多い地域として有名ですが、陝西省の頭ひとつ抜けた唐辛子への愛を表す言葉に、こんな表現があります。

四川人辣不怕、湖南人不怕辣、陝西人怕不辣。
「四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くないことを恐れず、陝西人は辛くないことを恐れる」

 

四川省、非常に辛いものを恐れず、辛さに慣れています。

湖南省、辛いものを好むが、辛くないものでも抵抗がありません。

陝西省、辛いものを好み、辛くないことを恐れるほどです。

実は、こういった言葉は陝西省に限らず、各地域にあります。
唐辛子への愛は我が故郷が一番強い!と皆がそう言いたくなってしまうのです。中国では、唐辛子への並々ならぬ想いがあるようです。

陝西省の文化的シンボルとしての唐辛子

中国に中南米から唐辛子が伝来したのは16世紀ごろ。陝西省の他、土壌の豊かな四川省や湖南省でも栽培が始まり、地域に食文化として根付きました。
なぜこれほどまでに陝西省で受け入れられたのでしょう。

首都として長い歴史を持ち、シルクロードの要所として外国の文化を吸収してきたこの土地は、新しいものを柔軟に受け入れ、創造する力を持っていたのかもしれません。ビャンビャン麺や涼皮など、小麦と唐辛子のシンプルな組み合わせから生まれた料理は、その典型です。
また、北西風が吹き荒れる黄土高原地帯では、唐辛子料理が防寒食品としても親しまれてきました。今や地域の料理に欠かすことのできない食材で、おかずはなくとも、唐辛子を食べないとはじまらない、といわれるほどです。

かつては陝西省の伝統的な家々に、串刺しにされた唐辛子がたくさんぶら下がっていたといいます。乾燥させるためですが、一方で鮮やかな赤は繁栄と豊穣の印。人々は唐辛子を飾りや景観としても使い、幸せな家庭の象徴だったのだそうです。

西安で買ったお土産のハガキ。
飾りのように連なった唐辛子と、油泼辣子を作る女の子。


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