田中さんは死んだ。

田中さんは死んだ、ことにした。
実は田中さんは生きている。
ピンピンしている。
不謹慎でごめんなさい。

田中さんは会社の先輩だ。
私が仕事でしんどいとき、毎日電話で話を聞いてくれた。
気持ちわかるよと共感してくれた。
好きになった。

私と田中さんは綺麗な関係じゃない。
土曜日にデートをした。
仕事終わり、ごはんを食べに行った。
キスもしてそれ以上のこともした。

初めは優しくて面白い先輩、くらいに思っていた田中さんのことを
私は好きになっていた。
付き合いたいと思うくらい、好きになった。

好きになったから、会いたいと思った。話したいと思うこともたくさんあった。

気づいたら、田中さんから誘われることはなくなった。
電話したいと言っても飲み会を理由に断られることが増えた。
前は飲み会終わりでも電話してくれたのに。

田中さんに、「付き合ってくれないんですか。」と聞いた。
「彼女と別れたばかりでそんな気分じゃないからごめん。」と言われた。

悲しくなった。
最初は軽い気持ちだった。
けれど、好きになった。
好きになったから、田中さんに喜んでほしくてハンバーグ作ったりしたのに。
好きになったから、キスをしたのに。
それ以上のこともしたのに。

付き合いたいくらい好きだった。
でも田中さんは私のこと、付き合いたいくらい好きではなかった。

田中さんは悪くない。
むしろ、はっきりと気持ちを伝えてくれて優しいと思う。

私が勝手に好きになってしまったのがいけなかったのだ。

振られたのにいつまでも連絡をするのは迷惑だと思い、
何より、振られたあとに田中さんとごはんに行ったら悲しい気持ちになってしまったので、
田中さんと関わらないほうが良いと思い、
田中さんにLINEをするのはやめた。

私から送らなければ、田中さんからLINEが来ることはなかった。

LINE来ないかな。
なぜ田中さんはLINEしてくれないのかな。
田中さんにとって女であれば中身は誰でも良かったのだろうか。
そういう風に考える時間が増えた。

だから、田中さんは死んだことにした。
田中さんは死んだから、LINEは来ない。

答えのない問いについて考えるよりシンプルで、
うじうじ考えることもなくなる。

私は今も田中さんが好きだ。
一番つらいとき、話を聞いてくれたことには今でも本当に感謝している。
そういう風に親身に接してくれる人が社内にいるというだけで、どれだけ救われたことか。
けれど田中さんは死んだのだ。

(補足)
テレワークが続き、
田中さんとは会ってもいないし話もしていない。
また、田中さんとは一緒に仕事をするわけでもないので、仕事に支障もない。
もともと田中さんと接点はなかったのだ。
田中さんは偽名である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?