『さよならオルタ』感想 ※ネタバレあり

念願の仲谷先生の短編集が発売されました!!
表題作であり仲谷鳰先生初のオリジナル漫画でもある『さよならオルタ』がはじめて単行本に収録されて、皆様の感想をいろいろ拝見するうちに、もう一度ちゃんと読み直してあれこれ考えたくなりました。

読み手の数だけ読み方があることは大前提として、私個人の感想を書いてみたいと思います。感想というか、漫画のストーリーをなぞりながらの脳内整理用メモとも言う。私はどちらかというと作者の演出手法に意識がいって、メタ的な読み方をしてしまいがちなので、感想にもそういう傾向がありますが……。

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同人誌表紙のカラーリングがとても好きなので、短編集に収録されてよかった!!
タイトルからして何やら重い雰囲気。冒頭から若い女の子の遺影。お葬式からはじまってびっくりした。
参列者の会話から、双子の妹が亡くなったことがわかる。友人の「草太」が「妹」に呼びかける台詞には謎の伏せ字。よくよく見れば「~リ」って書いてあるかなぐらい。背景の葬儀場入り口に掲げてある名前も、うまく隠されて名字の一部と「○璃子」という名前だけがなんとか読み取れる。

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次のページで回想シーン。二人の名前がここで明らかになる。瑠璃子と玻璃子。コインで決められた結果はここでは明らかにされない。小さい頃から日替わりでルリとハリを演じるように生きる二人。

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「本当って?」
母親の「本当はどっちがどっちなの!」という台詞に対する、子どもならでは、ルリとハリならではの純粋な疑問が逆にぞくりとするコマでした…。アイデンティティを確立している大人には理解しがたいことですよね。
二人にとって自分はルリでありハリであるので、そもそも「本当は私がルリで、私がハリ」という概念自体がないのかもしれない。

ナレーションをいれつつ、ルリ・ハリ・草太の関係性、入れ替わりの方法などが描写される。双子のキスシーンは鳰先生がフェチ的なものとして描いたとインタビューで言っているので素直にごちそうさまですと言います!!双子百合キッス!!(*´꒳`*)
キスに対して「きもちいい」という感想はやが君読者なら多少にやにやしてしまうところw

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高校2年の文化祭。
高校ではルリと草太が同じクラス、ハリは別クラス。出し物の劇で草太が主役でヒロインがルリ。演じるキャラの名前までお互いの名前ってなんか照れそうですね笑
好きな草太の相手役だし、注目されるヒロインというポジションなのでこの時は二人ともルリになりたいと思っている。
当日もコインで決定。
「ヒロインのルリ」と「観客のハリ」がこの時にはっきり差別化される。「観客のハリ」は浮かない表情で舞台を見つめている。
対して「ヒロインのルリ」は劇の後草太に告白されてキスされる。
草太も結局どっちがどっちかわからないんだろうね。だから、今日一緒にいたお前を好きになりたい、ルリのままいてくれとキスをする。「ヒロインのルリ」はキスを受け入れる。

その後河原でいつもの情報共有。視覚的にも判別しやすいように「ヒロインのルリ」は頭にティアラを乗っけている。
風の音にかき消されたようにもみえるが、「ヒロインのルリ」は草太とのキスをあえて「観客のハリ」に伝えなかったと考えるのが無難かな。意味深に唇に指を触れるカット。

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でも「答えは決まってるよね」「草太には悪いけどね」という二人のセリフから、キスの事実を隠しはしたものの、「ヒロインのルリ」は草太に言われたようにルリのままいる意思はあまりないようにみえる。ここでは。

翌日のルリ決定のためのコイントスは「観客のハリ」。風に煽られてバランスを崩して落ちそうになる。慌てて追いかけるのが「ヒロインのルリ」
落ちた時の二人の立ち位置からも、コインに血がついているところからも、血を流しているのは「観客のハリ」だとこの時点では読者は思う。

次ページでお葬式会場に時間が戻る。冒頭で隠されていた故人の名前は「玻璃子」。参列者からお姉さんもかわいそうに…と言われていたセリフと繋げて、どうやら瑠璃子が姉で玻璃子が妹ということらしい。
冒頭で消されていた草太の呼びかけは「あのさルリ」。ハリの名前でお葬式が出ているのだから、当然の対応。草太の横にいるのは劇本番を演じた「ヒロインのルリ」と読者は思う。
草太の質問は本当に「ヒロインのルリ」なのかを確認するための意図が伺える。「ルリ」は当たり前だと答える。「ヒロインのルリ」なら答えられるはずのもの。
すらすらとあの日の告白を語る「ルリ」。ただ「ヒロインのルリ」なら知っているはずのこと(草太とのキス)を、目の前の「ルリ」は知らなかった。

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「…うん、そうか」と草太は何かに気づいた様子。ここで読者もミスリードに気付く。
「玻璃子」の名前でお葬式が出されているが、死んだのはおそらく「ヒロインのルリ」だった。草太の目の前の「ルリ」は「ルリ」として生きていこうとしている「観客のハリ」。でも草太はそれに気づいていることを告げるつもりはなさそうで、俺がいてやると言う。

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最後も冒頭と同じように消された名前。
素直に読めば、「ヒロインのルリ」が死んだことに気づいた草太の発言なので「さよならルリ」になるのだと思う。
でも「観客のハリ」が「ルリ」になったことで「ハリ」の人格も消えている。ここの考察は難しい…。

冒頭1回目の文字消しは読者の意表をついて興味を持たせる演出で謎かけの一種かなと思う。実際このセリフの答えは最後にでてくる。
2度目の文字消しは、あえて曖昧にして読者に考えさせようという意図か。もしくは堂島も今までのルリとハリどちらに対してもさよならと言ったとか…。ここはまだまだ考察の余地あり。考察求む。

ここからはやが君ガチ勢恒例の深読み書店(笑)
◎深読み書店その1
ほっぺたの絆創膏。冒頭で「残された姉のルリ」は右の頬に絆創膏を貼っている。落ちた時に怪我したところ。
ただ中学の同級生に左の頬に「るりこ」落書きされたのを隠すように絆創膏を貼っているシーンがある。左の頬が「るりこ」だから、右の頬の絆創膏は実は「はりこ」だという暗喩?

◎深読み書店その2

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血に濡れたコイン。血に濡れて表(もしくは裏)しかなくなってしまったから、オルタナティブ(選択肢)を失ってしまったという暗喩?
ガン見すれば冒頭で父親が持っている時に描いてある表の星マークが見える。「表ならハリ」というセリフが何度かでてくるので、表に血=玻璃子が死んだと読める…?これはちょっと深読みしすぎか。

◎深読み書店その3
生き残ったのは「観客のハリ」だったという前提で…、ハリは実はルリが羨ましかった。できることなら自分が草太と付き合いたい。でもはじめに告白を受けたのは「ヒロインのルリ」で、羨む気持ちも多少あったのでは?「ルリとハリが二人」と言いながらもルリの方がいいと思う気持ちはなかっただろうか?「ヒロインのルリ」が死んだが、両親含め周りに「玻璃子」が死んだと言ったのは「観客のハリ」だと思う。例えば「私が瑠璃子」と言ったとか。
「ヒロインのルリ」の死をきっかけに「観客のハリ」は「ルリ」でいることを選んだ。「観客のハリ」が本当の玻璃子なのかどうかはこの時点では問題ではないんだと思う。「本当の自分」という考え方は作者の仲谷先生もあまり好きな表現ではないというし。
この後「ルリとして生きるハリ」や草太はどういう選択をして生きていくのか、とても気になるところ。そもそもこの「ルリ」を「ハリ」と呼ぶのもおかしな話……あ……わからなくなってきた。自己同一性に関してはもっと知識が必要である……。

◎深読み書店その4
深読みというか自分がツボった話。Twitterにも書いたけど、瑠璃と玻璃はどちらもガラスを差す言葉で瑠璃が青いガラス、玻璃が透明なガラス。
カタカナで書くと「ルリ」「ハリ」で文字消し演出も1回目は完全に一文字目が消えてるんだけど、2回目はルorハの1画目の払いがちらっとみえる気がするんだよね!細かすぎますか!?
よーーーくみたら一画目みえるじゃん!と思ったけど2画目見えないと結局わからないw…ってなったのが面白くて。
双子キャラ、文字消し演出に使う名前としてこれ以上ないほど的確なネーミングだと個人的にツボったのであります。

とりいそぎ、今の時点での感想でした。
さよならオルタの考察もっと読んでからまた追記するかもしれないです。電撃大王にも載るしね!!みんなの感想もっと聞きたい!
考察に対する感想とかも言いたいんだけど!その考察を読み込む時間がもうちょっと欲しい!

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