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マイクロ法人手続き(サラリーマン黄金期の終了)生存戦略の準備

「サラリーマン。気楽な家業ときたもんだ!」というフレーズは、サラリーマンとして働くことの安定性や気楽さを強調した昭和時代「クレイジーキャッツ・植木等氏」のレコード・映画でのセリフです。
21世紀になり終身雇用のデメリットや、年々増える税負担で、サラリーマン川柳にあるような「増えるのは 税と贅肉 減る贅沢」「また値上げ 節約生活 もう音上げ」が本音になってきました。

会社を設立するのはかつてないほど簡単になりました。また、米国でも単独の創業者が自力で立ち上げるケースが増えています。

近い将来に向けての自己防衛のためにマイクロ法人設立の手続き、メリット・デメリットを整理してみました。実際の設立作業、工程はケースバイケースですので、おおよその流れの確認として参照ください。


マイクロ法人設立の手続

マイクロ法人設立の手続きを各ステップごとに詳細を解説します。ケース的に多いと思われるので、個人事業主から法人成りする場合も考慮に入れた説明になります。

ステップ1:会社概要の決定

商号(社名):

同一住所で同一商号は登記できません。類似商号調査は法務局のウェブサイトや登記情報提供サービスで確認できます。
使用できる文字は、漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、アラビア数字、記号(「&」「’」「,」「‐」「.」「・」)です。
株式会社の場合は「株式会社」、合同会社の場合は「合同会社」を商号の前または後ろに付与する必要があります。

本店所在地:

自宅を本店所在地とする場合は、賃貸契約書などで事業用としての使用が許可されているか確認が必要です。
バーチャルオフィスを利用することも可能。

事業目的:

定款に記載する事業目的は、具体的かつ明確に記載する必要があります。例:「ソフトウェア開発事業」「ウェブサイト運営事業」「コンサルティング事業」など。
将来的に行う可能性のある事業も記載しておくと、後々の定款変更手続きが不要になります。

資本金:

1円から設立可能ですが、対外的な信用力や融資の受けやすさを考慮すると、ある程度の金額(例えば100万円以上)を設定するのが一般的です。
個人事業主から法人成りする場合は、事業で得た利益を資本金に充当することもできます。

決算月:

繁忙期を避けて決算月を設定すると、税務処理などがスムーズに行えます。
個人事業主から法人成りする場合は、個人事業の確定申告時期とずらすことを検討すると良いでしょう。

役員:

マイクロ法人では代表取締役1名が一般的です。
個人事業主本人が代表取締役となる場合が多いです。


ステップ2:法人用の印鑑作成

実印: 法務局に登録する印鑑で、契約書などに使用します。重要な印鑑なので、紛失しないように厳重に保管しましょう。
銀行印: 銀行との取引に使用する印鑑です。実印と兼用することも可能です。
角印: 請求書や領収書などに使用する印鑑です。なくても問題ありません。
印鑑の材質は、柘(つげ)、黒水牛、チタンなどが一般的です。


ステップ3:定款の作成

定款には以下の項目を記載します。

目的(事業目的)
商号
本店所在地
設立に際して出資される財産の価額又はその最低額(資本金)
発起人の氏名又は名称及び住所
発行可能株式総数(株式会社の場合)
事業年度(決算月)
公告の方法

電子定款の場合は、電子署名が必要となります。電子署名を行うためには、電子証明書を取得する必要があります。


ステップ4:定款の認証

(株式会社の場合)
公証役場に持参するものは、定款3通、発起人全員の印鑑証明書、発起人全員の身分証明書、委任状(代理人が手続きを行う場合)などです。
認証手数料は資本金の額によって異なります。


ステップ5:資本金の払い込み

個人口座に払い込んだ後、通帳のコピー(表紙と払い込みが記載されているページ)を保管しておきます。
払い込み証明書は、通帳のコピーを添付して作成します。


ステップ6:登記書類の作成と申請手続き

登記申請書は法務局のウェブサイトからダウンロードできます。
登記申請には登録免許税がかかります。資本金額によって税額が異なります。
オンライン申請の場合は、電子署名が必要となります。


ステップ7:登記完了後の手続き

税務署への届出: 法人設立届出書の他に、青色申告の承認申請書なども提出しておくと、税制上の優遇措置を受けられます。
都道府県税事務所・市町村役場への届出: 法人設立届出書の他に、事業開始等申告書などを提出します。
年金事務所への届出: 健康保険・厚生年金保険新規適用届の他に、被保険者資格取得届なども提出します。


個人事業主から法人成りする場合の注意点

事業用資産の引き継ぎ: 個人事業で使用していた資産(例えば、パソコン、車両、在庫など)を法人に引き継ぐ手続きが必要です。
許認可の引き継ぎ: 個人事業で取得していた許認可は、法人に引き継ぐ手続きが必要です。
取引先への通知: 取引先に法人成りしたことを通知し、契約内容などを変更する必要がある場合は、変更手続きを行います。


その他

税理士・社会保険労務士への依頼: 税務・社会保険の手続きは複雑なため、税理士や社会保険労務士に依頼することを強くお勧めします。特に法人成りする場合は、個人事業と法人の税務処理の違いなど、専門的なアドバイスを受けることが重要です。

不明な点があれば、専門家(司法書士、税理士など)に相談するようにしましょう。


マイクロ法人を設立した場合の税制上のメリットを、サラリーマンと比較


マイクロ法人を設立した場合の税制上のメリットを、サラリーマンと比較して具体的な例を挙げながら解説します。マイクロ法人の場合、個人事業主と比較してメリットが生まれる部分もありますが、ここではサラリーマンとの違いに焦点を当てます。

前提:所得の種類と税金の仕組み

サラリーマン:給与所得

給与所得控除:給与収入に応じて一定額が控除されます。
所得税:超過累進課税(所得に応じて税率が変動)。
住民税:所得に応じて課税。
社会保険料:給与から天引き(健康保険、厚生年金、雇用保険など)。

マイクロ法人:役員報酬(給与所得)、法人所得

役員報酬:給与所得控除が適用。サラリーマンと同様に所得税、住民税、社会保険料が課税。
法人所得:法人税が課税。
消費税:課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が発生。

具体的な例:年収700万円の場合

以下の前提で比較します。
サラリーマン:年収700万円(給与所得のみ)
マイクロ法人:売上700万円、役員報酬400万円、法人所得300万円

1. 所得税

サラリーマン:

給与所得控除:約190万円
課税所得:約510万円(700万円 - 190万円)
所得税額:約40万円(概算)

マイクロ法人:

役員報酬:400万円
給与所得控除:約124万円
課税所得(役員報酬):約276万円(400万円 - 124万円)
所得税額(役員報酬):約15万円(概算)
法人所得:300万円
法人税率:中小法人(資本金1億円以下)の場合、所得800万円以下の部分は軽減税率が適用され、実効税率は約20%程度。
法人税額:約60万円(300万円 × 20%)
合計所得税+法人税:約75万円

この例では、合計の税負担はマイクロ法人の方が高くなっています。これは、役員報酬と法人所得の両方に課税されるためです。ただし、これは役員報酬の設定によって大きく変わります。

2. 住民税

住民税は所得に応じて課税されるため、所得税と同様の傾向になります。マイクロ法人の方が、役員報酬部分の住民税は低くなりますが、法人住民税が別途発生します

3. 社会保険料

サラリーマン: 給与から天引き。会社と折半。
マイクロ法人: 役員報酬から天引き。会社(法人)と折半。

社会保険料の計算方法は複雑ですが、役員報酬額によって保険料が決まるため、役員報酬を低く設定すれば社会保険料を抑えることができます。ただし、将来の年金受給額にも影響するため、適切な水準で設定する必要があります。

4. 経費計上の範囲

マイクロ法人の方が、サラリーマンよりも経費として計上できる範囲が広くなります。この部分が一番のメリットです。例えば、

自宅の一部を事務所として使用する場合の家賃や光熱費:
按分した割合で経費計上可能。
出張手当:
規定を作成することで、日当などを経費計上可能。
生命保険料:
一定の要件を満たせば、法人で加入する生命保険料を経費計上可能。
役員社宅:
一定の要件を満たせば、法人名義で借り上げた社宅を役員に提供し、家賃の一部を経費計上可能。
自家用車:
カーリース料金、保険料のほかガソリン代含め経費計上可能。

これらの経費計上により、法人所得を圧縮し、法人税を抑えることができます。

5. 消費税

サラリーマンは消費税を納める必要はありませんが、マイクロ法人(課税売上高が1,000万円超の場合)は消費税を納める必要があります。


マイクロ法人設立のメリット(税制面以外も含む)

  • 節税効果(役員報酬の設定、経費計上による法人所得の圧縮)

  • 社会保険料の調整(役員報酬の設定による)

  • 社会的信用の向上

  • 資金調達の選択肢の増加

  • 事業承継の円滑化

マイクロ法人設立のデメリット

  • 設立・維持コスト

  • 事務手続きの増加(確定申告、社会保険手続きなど)

  • 赤字でも法人住民税の均等割が発生

重要なポイント

  • 役員報酬の設定は、所得税、法人税、社会保険料に大きく影響するため、税理士と相談しながら適切な金額を設定することが重要です。

  • 経費計上は適切に行う必要があり、税務調査で否認されないように証拠書類などをきちんと保管しておく必要があります。

  • 消費税の納税義務が発生するかどうかを常に把握しておく必要があります。

上記の例はあくまで一例であり、個々の状況によって最適な選択は異なります。マイクロ法人設立を検討する場合は、必ず税理士などの専門家に相談し、自身の状況に合わせたアドバイスを受けるようにしてください。