短歌50首【自選】




〈以下、テキスト〉


いい感じに行方不明になりたいね 蜜蜂の風ぐるまの顔して

人影が人より多い東京の幻想振動症候群

ポッピングシャワーみたいな笑い方 キャラメルリボンみたいな泣き方

遠雷が遠雷じゃなくなるとこでショートケーキの苺をあげる

ピクニック(産まれるときの断末魔、死ぬときの産声)キスせよ

ぎゅっとしてぎゅっとされてからは記憶にない 百万円と苦虫女

詩語としてコインランドリー使用中 2008年頃の空気感

行きつけのBARなどなくて行きつけのLIBRARYが2軒ほどある

芸人がアベンジャーズで例えている、それを無視して暮らしがあった

急速に冷めちゃう感じが永久に続くとします アヤナミブルー

リサイクルショップのにおい 思い出す妊娠中の親戚の顔

いらすとやのような笑顔でできるだけ祝いごとには現れていた

ロマンチストだけどそれだけ 官能小説用語表現辞典

匂わせが世界をつくる ずっとこわい若者たちのてろてろの服

ぼくたちのアーティスティックスイミング 等間隔で人は死なない

白濁は続いていくよ、薄暗いマクドナルドでなにかを食べた

生まれつき死のうと思う(カルテット)ひとりぼっちの合奏形態

朝が来る発想がない子供部屋 プラトニックなアダルトグッズ

歯磨き粉の白さによってぼくの歯の白くなさがはっきりしていく

フランシス・ベーコンに似た色調の生活感を大切にした

彼の死に際に放った一言は人々を海へ駆り立てたけど

お互いを尊重すればいい話 サラダチキンのにおいが嫌い

ハダカデバネズミのことを創作のネタにしたいが浮かんでこない

死んでから考えるから大丈夫 コピーバンドをやっている意味

こんな世の中に言いたいことなんかないけどしいて言うならHello

青白いカプセルトイの専門店 出生率を無視して暮らす

世界中の廃墟を想像してごらん(ついでに想像されてごらん)

かわいいと思われたくて描いた絵のファンタスティック・プラネットっぽさ

言語化がすべてなのかな 幸福な朝食 退屈な夕食

ちょうどいいところはなくて日常に膨らんでいく殺し屋1

空白のでかさを競う大会が開催される予感がしている

わいわいと奨学金を運びだす 落とし穴から落とし穴まで

約束と違うところで生きている金木犀のお香を焚いて

おはじきの光のなかにおんなのこみたいなおとこのこみたいなこ

新品から中古になるまでありがとね、きみはきみだけのカルトコミック

似たような語彙で笑った127046文字くらい

今はまだ収録曲がわからない新譜のように愛されたくて

変じゃないことは忘れてしまうからバールのようなものでキスした

毒林檎(いつものようにおちゃらけていいよ)詩的で、私的で、史的

傷口に傷口を塗るブルーベリーソースのような夜の公園

ぽっかりと心に穴が空いたのを午前3時のおやつにしている

大きさで言ったらドーナツ 切なさで言ったら青木ヶ原の樹海

全身を黒で統一した演者 じゃんじゃん増えていい気はしない

痛みとは話し相手がいないこと クリオネみたいな鼻くそがとれる

それっぽい作品ばかりでごめんなさい…そして、青木まりこ現象

お別れがあるから楽しい デモテープみたいだねってからだのなかで

空調の音だけになった東京でピースサインをできるだけでかく

ゲーセンの光と音が舌をだして、きみのかたちになったところで

椅子なのかテーブルなのかわからないそれに座った ノストフォビア

参加者は80億人 さよならのワークショップはまだまだ続く


遠雷が遠雷じゃなくなるとこでショートケーキの苺をあげる