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コンパウンドなマルチプロダクト組織では人が育つ - CPO月報 2024-09

SmartHR CPOのadachiです。毎月なにかしら書いて公開することを自分に課しています。

先月は組織の課題がふんわりしているという話を書きましたが、そもそもSmartHRの組織がどんな状況なのか、あまりちゃんと説明してないなと思ったので、今月はその話をしようと思います。

コンパウンドなマルチプロダクト組織

ここでは「複数のプロダクトが密に連携し、かつ連携そのものが価値となっている事業形態」のことをコンパウンドなマルチプロダクト、と呼びたいと思います。
コンパウンドってなんやねん、という方は「コンパウンドスタートアップ」で検索してみてください。

コンパウンドなマルチプロダクトと、そうでないマルチプロダクトを比較したとき、組織観点で大きく異なるのが「疎結合にできない」ということです。

疎結合ではいられない

一般的に、企業が多角化していくときは事業ごとに組織を分けるのがセオリーです。組織論の本などでも、だいたいは企業の成長に応じて事業部制を敷くのが大正義、みたいな書き方をされています。(要出典)

事業部制の最大のメリットは、組織を疎結合にできることでしょう。疎結合というのはソフトウェアの用語ですが、要するに組織を適切に区切り、互いに隔離して依存関係を減らすことで、考えることや調整することが減ってうれしいよね、ということです。

ところがコンパウンドなマルチプロダクトを作るためには、組織がある程度は密に結合している必要があります。

どのプロダクトとどのプロダクトが、どのような連携の仕方をすればユーザーは一番うれしいのか。どのデータはどのプロダクトが保持するのが最適なのか、あっちのプロダクトとこっちのプロダクトで機能が被っているが、統合したほうがいいのか、分離したほうがいいのか。プロダクト間で使い勝手や言葉の使い方は統一されているか。

「連携そのものが価値である」状態を作るためには、こういった問題を現場でひとつずつ解いていく必要があり、プロダクト間でたくさんの調整が発生します。
調整というと無駄で面倒なイメージがあるかもしれませんが、コンパウンドなマルチプロダクト開発においては、この調整の過程こそが大変に重要で創造的なプロセスであり、競争力の生まれる場とも言えるのです。

通常の事業部制のようにプロダクトごとに組織を分け、それぞれに売上目標を持たせてしまうと、このような調整プロセスがうまく回らなくなってしまうことは想像に難くないでしょう。人員の再配置にも多くの調整が必要になってしまいます。
これが、開発組織を安易に分割できない理由になっています。

ビジネスとプロダクトの距離

コンパウンドなマルチプロダクトを提供していくと、ビジネス組織とプロダクト組織の連携も課題になってきます。

SmartHRの場合、プロダクト組織は前述の事情から事業部を分けていませんが、ビジネス組織は「エンタープライズ向け」と「SMB向け」で事業部が分かれています。
プロダクトで分けたくないが、可能な限り疎結合にはしたい、という条件下での最適解としてこのような組織体制になっているのですが、結果的に「プロダクトとビジネスで組織のカット軸が異なる」という状況が生じています。

SmartHRには大小20ほどのプロダクトがあり、基本的には1名のセールスがすべてのプロダクトを売り、1名のCSがすべてのプロダクト運用をサポートする、という体制になっています。(実際にはもう少し複雑な分業がありますが)
顧客からすると窓口がひとつなので体験はいいのですが、プロダクトごとに専任のビジネス組織がある体制に比べると、どうしてもプロダクトとビジネスの「ワンチーム感」は薄れることになります。

プロダクトチームから見ると「ビジネス現場での課題を知りたいけど、具体的に誰に聞けばいいのかわからない」という状況になりがちだし、逆にビジネスチームから見ると「個別のプロダクトに対する要望は出せるが、プロダクト全体に対する課題感を誰にどう伝えればいいかわからない」ということになるのです。

もちろんPMやPMMがハブになることで一定の情報流通はできていますし、以前書いたロードマップアライメントのような仕組みでできる限りカバーしようとしています。
ビジネスとプロダクトの関係性もかなりフラットであり、いい関係を作れていると思いますが、今後さらに社員の数もプロダクトの数も増えていくなかで、ビジネスとプロダクトの連携は常に課題であり続けるだろうと思っています。

多数の精鋭という難題

ことほどさように、コンパウンドなマルチプロダクトを作ろうとすると、プロダクト間の連携や、ビジネスとプロダクト間での連携がとても複雑になります。
さらに昨今の厳しい競争環境で生き残っていくためには、かなりのスピードで組織をスケールさせ、プロダクトラインナップを拡張していくことも必須となっています。何年もかけてじっくり組織を育てていくという選択肢は、基本的にありません。

このような難易度の高い要求に応えるためには、優秀なリーダー人材が大量に必要になります。
自分の持ち場だけでなく全体最適も考慮する視座の高さ、複数のステークホルダーをまとめあげるコミュニケーション力やプロジェクトマネジメント力、高い不確実性のなかでも前に進めるネガティブ・ケイパビリティなど、普通であれば上位のマネジメントレイヤーでしか求められないような資質やスキルが、より広い範囲で求められます。

そういう人は本来とても希少な存在なわけですが、少数精鋭ではなく「多数の精鋭」を集めるという難題を克服しなければ、私たちの目指す「従業員データを中心にすべてのバックオフィス業務が統合された世界」には辿り着けないのです。なにせプロダクトが多いので。

人が育っている

おそらく社内では「以前に比べて組織間の連携が難しくなり、調整が多くなった」と感じている人も多いと思います。
それは会社が大きくなったからというより、私たちがそういう戦い方を選択しているからです。言い方を変えると、そういうやり方でしか作れないものを作っているのです。(もちろん改善の余地はたくさんありますが)

いろいろ考えることが多くて面倒そうだな、と思った方もいると思いますが、そういう環境だからこそ人が育っているという側面もあります。
私自身の体感として、メンバーを見ていて「あれ、この人ってこんなに頼りになる人だったっけ?」と思う機会が最近かなり増えました。

全体最適でプロダクトを作るには、必然的により高い視座から、より中長期でものごとを考える必要に迫られます。顧客の課題も、より包括的な視点で把握しなければ筋の良い仮説は作れません。他チームとの調整機会だけでなく、新しくチームを組成する機会も多いので、時にはお互いの価値観に踏み込むような難しい対話をしながら、自らも変化していくことが求められます。

成長することだけが素晴らしいとは思いませんが、仕事を通じて新しいものの見方を獲得したり、他者との関わり方を学んだり、自分に対する理解が深まるのは、豊かなことだと思います。
今のSmartHRは、そういう学びの機会がギチギチに溢れています。

怖い会社ではない

じつはSmartHRは「採用ハードルが高い会社」と敬遠されることが結構あるようなのですが、今回またハードルを上げるようなことを書いてしまった気もします。
確かにゆるい環境ではありませんが、いい人たちの集まるいい会社なので、安心してください。そこは今後も、ぶらさずにいきたいと思っています。

以上、9月の月報でした。

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