3月24日

 同居人のフミちゃんが、春一番に飛ばされて我が家のベランダに流れ着いてから今日でちょうど一年になる。

 女の子が生湯葉みたくペラペラになって物干し竿に引っかかっている光景を目の当たりにしたわたしはたいそうたまげた(あろう事に、おや見慣れないタオルだと思って伸ばした私の指先に、彼女は噛みつきやがったのだ)(がり)(のちに彼女は「お腹が空いていてつい」と笑いながら言ってのける)。
そうして私がたまげている間にフミちゃんは我が家に居ついていた。

「今日はごちそうをたべる日ですよお」と、フミちゃんは早朝からキッチンで動きまわっている。彼女が身体を翻すと水色の細かな種がこぼれた。試しに水をやってみる。するとみるみる膨らんでレインボーカラーの豆になった。「これたべていい?」ときくと「もちろん」と返ってきたので、わたしは豆ご飯をこしらえることにした。ご飯が炊き上がるのと同時に、フミちゃんがテーブルに料理を並べ始めた。以下お品書き。わけぎとホタルイカのぬた、なめこの味噌汁、インゲンとごまの白和え、鯖の生姜煮、柴漬、バナナとベリーのチーズケーキ。よくもまあこれだけ作ったものだ。前に買っておいた日本酒を見せると、フミちゃんの頭上でパァンと花火が咲く。
 
ごちそうはべらぼうに美味しかった。夕方頃、全身が虹色になった互いの姿をみてわたしたちはけらけら笑った。

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