形見

ある朝起きた大爆発に不運にも巻き込まれたキリちゃんは木っ端微塵に吹き飛んでしまってあとには右腕が一本残ったきりだった。そういうわけで私は自分の右腕を切り落とし、現場から持ち去った彼女のそれとすげ替える。初めの頃は腕の長さが違うのでバランスが上手くとれず、歩くだけでも難儀した。
それにキリちゃんの右手はとても不器用だったので私は以前より化粧も絵も下手になってしまった。砂糖と塩を間違えるなんてベタなことをしょっちゅうしでかしてしまう手に、ハンドクリームを塗り込んだりキリちゃんが好きだったミント色のマニキュアを塗ったりしながら私は日々をやり過ごしていく。
それから数年。私はとうとう件の大爆発を起こした人間を特定した。
どうするか? 決まっている! 
私は大ぶりの包丁を携えその人物の元へ向かい、呆気なく復讐を完遂した。
全てが終わった後、両の腕で私は私の身体を抱いてみる。左肩に触れる右腕に、私はもうだいぶ前から懐かしさを感じることができなくなっていた。
いつの間にか私は思い切り走ることかできるようになっていたし化粧も絵も料理も以前と同じようにできるようになってしまった。砂糖と塩を間違えることもなくなった右腕はゆるやかに、そして確実にキリちゃんの不在を証明し続けている。
こんなはずじゃなかった。身体にきつく食い込む腕に縛られて私は一歩も足を踏み出すことができない。

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