アンチ・ハッピーエンディング
何の前触れもなく後頭部をぶん殴られた私は人里離れたごみ捨て山の冷蔵庫の中に閉じ込められたものの、試行錯誤を繰り返しなんとかそこから脱出した。
一体何が何なのかまったくもってわからない。ともあれ私はキリちゃんの元へ急いだ。あそこから抜け出すのに随分と時間が掛かってしまった。彼女はきっと心配しているだろう。泣いているだろうか? もしかして怒っている?
けれどそんな私の考えは杞憂に終わった。何故ならキリちゃんの隣には新しい「私」がいたのだ。キリちゃんと「私」は何事もなかったかのように新たな物語を紡ぎはじめる。私はふたりの傍らで為すすべもなくそれをみる。彼女たちの物語には文句のつけようもなかった。いつだって底抜けに幸福な結末を迎えるふたりは、銀河の果てで、雑踏の片隅で、南の島の海岸で、手を取り合って微笑み合う。
キリちゃんの隣に立つのが私ではなくても、彼女が幸福ならそれでもいいのかもしれない。
そんな殊勝な考えが頭をよぎった事もあった。ただ、キリちゃんは私が見たこともないような笑顔を「私」に向けて、私はそれがどうしても許せない。
だから一欠片の躊躇も私にはなかった。ぐっと右手に力を込める。
そして私は「私」の後頭部めがけて思い切りバットを振りかぶった。
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