目元のあたりがよく似てた

バイトに向かうべく玄関のドアを開けると、そこにはサンタクロースの幽霊が立っていた。聞くところによるとこの季節はずれのサンタクロース、二十年近く前に死んでしまったのだという。そのせいで君にプレゼントを渡しそびれてしまったんだと申し訳なさそうに眉を下げた彼の顔にどことない既視感を覚えながら、はてさて子どもの頃私は一体何を欲しがっていたのだっけと記憶をまさぐっていると、大きな手が白い袋の中から黒々と光る拳銃を取り出した。そうして私が驚いているうちにメリークリスマスとにこやかに告げてサンタクロースは引き金を引く。
私を目覚めさせたのはけたたましい玄関のチャイムだった。どうやらあれから丸一日眠っていたらしい。やってきたのはキリちゃんで、私は彼女の口から私のバイト先で起こった火事について聞くことになった。なんでもその火事のせいでバイト先は全焼し、少なくない死傷者も出ているらしい。
当然のように、目覚めた後部屋の中にサンタクロースはいなかった。サンタクロースが助けてくれたんだよという私の言葉にキリちゃんが頷いてくれたおかげで、私は自分の身に起こった夢のような出来事を信じられるような気がした。
それが確信に変わったのはそれからすぐのことだった。顔を洗おうと思って洗面台の前に立った私は、そこでようやく自分が子どもの頃欲しかったものを思い出す。鏡に映る自分の顔を見つめて私はただひとこと”おとうさん”と呟いた。

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