効果音まで再現してくれる
ある日、身体がむくむくと膨みはじめて、私は家よりもビルよりも城よりも山よりも大きくなってしまった。元に戻る気配は一向にない。
正座したまま、私は考える。もし、このまま「駆逐」されてしまったらどうしよう。巨人ってこわいもんな。ミサイルとか、飛んできたら絶対死ぬ……あっ、そうか。このままじゃ私、あの漫画の最新刊も読めないんだ。
そんな心配とは裏腹にいつしか私は町の——ひいてはこの国の人気観光スポットになっていた。昼夜を問わず、人々は私の膝の上でくつろいだり、私を背景に写真を撮ってSNSにアップしたり、私を囲んでフェスを開催したり私の姿を象ったグッズを展開したりする。特集番組が何度も組まれたし私をモデルにした小説だって書かれた(これは最近実写映画化された)。
スカイツリーなんて目じゃない! 私の生み出す経済効果は、いまや活動休止を前にした「嵐」にも匹敵するのだ。国からの援助も受けて私は概ね元気に生きている。もちろんミサイルは飛んでこない。
でも私はうっかり元のサイズに戻ることができなくなってしまった。ある時期、世間では私を元の身体に戻そうとする動きもあったけれど、いつの間にか立ち消えていた。仕方ない。お金って、とても大事だからね。
キリちゃんは時々ヘリコプターで私のもとに遊びにくる。つい最近も、私の耳元で発売されたばかりの漫画の最新刊を読み聞かせてくれた。拡声器越しの語りが妙に上手いのがおかしい。
時々、気の済むまで泣いてしまいたくなる。だけど、涙で世界を沈めるのはこの漫画の結末を知ってからでも遅くはないかなと思いながら、今日も私は鼻水を啜る。
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