Shall we dance?

その赤い靴を履いた瞬間私の両足は自由を失い、世にも美しいステップを踏み始めた。
まるでかの有名なお伽話みたいだ。そうすると私は呪われてしまったということになる。実際靴は足にぴったり張り付いて脱ぐ事ができない。けれど赤い靴を履いた私は無敵だった。
だって、自分で言うのもなんだけれど私の踊りは最高だったのだ。華麗でキュートで情熱的。瞬く間にスターダムへと駆け上がり世界中の人に愛された私は、とある国の王に見染められその寵愛を一身に受けるまでになった。
そうして名声が絶頂に達したある日、私の両足はぱたりと動かなくなった。そう。やっぱり私は正しく呪われていたのだ。世界は呆気なく私を見限って忘れていく。踊れない私に誰も価値を見出したりなんてしない。
王の怒りを買った私は、とうとう宇宙へ追放されることになった。どうやら国外追放だけじゃ気持ちが収まらなかったらしい。いやはや金持ちを怒らせると怖い。死ぬまでひとり宇宙を漂うだなんてまるでクドリャフカだ。車椅子ごとロケットに運び込まれながらぼんやりそんな事を考えていたから、私は介助人が発射数秒前になってもロケットの中に留まっている事に気付かなかった。驚いて顔を上げる。そこにいたのはキリちゃんだった。そうこうしている内にロケットは打ち上げられ、重力から解放された私はふわりと浮かびあがる。空中でバランスを崩した私の手をキリちゃんが取る。私たちはふたりくるくると宙を舞う。
窓の外の果てしない暗闇を、私はもう恐ろしいとは思わなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?