Love letter from

友人が金星へ旅立った。なんでも一目惚れをしたらしい。
たったひとつの恋で四千数百万キロメートルもの距離を飛び越えてしまえるのってすごい。たぶん私には生涯できない。
彼女が金星へ辿り着いた後、私たちは時折手紙でやりとりを交わすようになった。文明的なのか前時代的なのかいささか微妙なところではある。
ただ、どうやら彼女は徐々に地球の言語を忘れつつあるらしい。
十年が経つ頃には、送られてくる手紙はすべて金星の言語で書き記されるようになっていた。私はそこに何が書かれてあるのかもうわからない。それでも、添えられたイラストから友人の恋がめでたく実ったのだろうということを窺い知ることはできた。彼女はもうこの星には戻ってこないだろう。
 そう確信できた私はようやく、ここまできてようやく「愛してる」とひとこと手紙に書くことができたのだ。

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