死者の記憶は高値で売れる

とある昼下がり、私は悪魔と行き逢った。
悪魔は一枚のポイントカードを差し出し「すべて貯まればあなたの願いは叶いますよ」とウインクをひとつ残して去っていった。
けれど具体的に何をすればいいのかわからない。私は取り敢えず悪行に励んでみる。けれど困っているひとを無視してもパンを盗んでもマクドナルドを襲撃しても駄目だった。まっさらなポイントカードを手に私はすっかり途方に暮れてしまった。
そんなある日、とうとう私は記憶の売買に手を出した。近頃はスマホひとつで簡単に取引ができる。勿論違法行為だ。それでも自分の他愛のない記憶に存外良い値がついたことには素直に驚いたし件のカードのポイントが貯まったことには尚驚いた。私は次々と記憶を売り払う。
そうしてポイントがカードの半分に達した頃、私は道端で刺された。犯人は以前襲撃したマクドナルドの元店長だった。どうやら事件のせいで店を解雇されたらしい。多分私は助からないんだろう。地べたを這いずりながら私は文字通り決死の思いで記憶を売る。思った通りキリちゃんにまつわる記憶は高く売れ、ポイントも一気に貯まる。
薄れる意識の中、自分の身体が温かな腕に包まれたことがわかった。知らない声が私の名前を何度も呼んで、それが何故だかひどく嬉しかった。ほんと、おかしな話だけれど。

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