それっきり

 キリちゃんの占いは必ず当たる。
 例えば、三ヶ月後の木曜日の天気や流星の落下地点。巷を騒がせた連続殺人鬼の潜伏先を当てたこともある。そういえば三つ隣の部屋に住むミスミさんは、二十年前になくした髪留めの在処を教えてもらったのだと笑っていた。
 こういった類いのいくつかの事実が噂となって、巡りに巡った結果、いつしかキリちゃんの元には人々が絶え間なく押し寄せてくるようになった。持ち込まれてくる膨大な量の声に含まれているはずの大なり小なりの好奇心だとか疑念だとか切実さだとかにこれっぽっちも興味を示すことなく、キリちゃんはただ軽やかに、恋人たちの行く末を、年若い娘の死に様を、老婆の脇腹に彫られたタトゥーの意味を、仔猫の行方を、少年の本当の父親を、とある画家の今際の際の言葉を、花嫁の秘密を、二ヶ月前の夕飯のメニューを、まるっきり同じ熱量をもってぴたりと当ててみせるのだった。

 そう。キリちゃんが占いを外したことは、一度だってなかったのに。

 そういう訳で彼女が姿を消した後、私が揺るぎようのないひとつの事実に辿り着くのは、必然以外の何物でもなかったのだ。

 ふざけんな。

ばか、ばか! 占い料金とかなんとか言ってにこやかにぼったくっていった二万九千八百円を返しやがれ、と、とりあえずのところ詰ってやりたいのだけれど、しかし、生憎のところそんな機会は永遠に訪れない。
 ただそれだけの話だった。 
                                              〈了〉 

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