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御手洗潔シリーズ 覚書1

私にとって島田荘司氏の作品は、物語はもとより紡ぎ出される文章の圧倒的なパワーに魅了されてしまうものがほとんどだ。ぐいぐいと物語に引き込まれ、時間を忘れて読んでしまい睡眠不足に陥ることも多かった。
島田氏の作品に初めて触れたのは吉敷刑事の「奇想、天を動かす」で、トリックの大胆さや壮大な仕掛けに非常な感銘を受けた。しかしその後御手洗を知るにつれ、吉敷刑事の地道で隙のない捜査、背景の昏さを思うと、これが同じ人物の書いたものなのか?と驚いた。
御手洗シリーズでももちろん、犯罪や人死にを扱っているのだから基本は暗くて陰惨な物語になるのは避けられない。しかし、あの御手洗なのである。いや、御手洗と石岡くんの二人なのである。
このシリーズのほとんどは石岡くんが御手洗の関わった事件を本にするというよくあるパターンで、我らが石岡くん(カズミストです)は徹頭徹尾読者目線であり、時に御手洗の自己チューな振る舞いに腹を立て、時にこの友人は正気を失ったのかと心配し、何日も食事を摂らないことを憂い、彼の意外なモノマネの才能に大笑いをしたり、要するに石岡くんの視点、存在こそが事件の陰惨さを打消しているのだと思う(カズミストです)

短編集「御手洗潔のダンス」を最近読み返したが、私は「舞踏病」という作品がとても好きだ。短編の中ではマイベストである。依頼人となる陣内巌さんというキャラが、とにかく良いのである。チャキチャキの江戸っ子で、語り口調がまるきり落語を聞いているようにスッと入ってくる。一本気で人情に篤い人柄が覗く、何とも愛嬌のある人物で、この一作にしか登場しないのが惜しいくらい。
物語は島田氏の真骨頂とも言える二層仕立てになっており、現在と過去の隔たりが深めていた謎を御手洗が見事に解いてみせる。ちょっと手荒ではあったけど。

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