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レジデンス日記(12)浅川奏瑛四季シリーズ Spin-off 冬-デイサービス楽らく-

1月26日(金)晴れ

今日はいつも話せなかった人と話した日。
車椅子に座り、ボンベから繋いだチューブをつけているKさん。今までKさんのいるテーブルに行くことはたくさんあったけれど、2人で話す勇気が出ずにいつも遠くから様子を眺めているだけだった。なんとなく、厳しい人なのかなと思って話しかけに行くのを躊躇っていた。
お昼休み、テーブルの他の皆さんがストレッチに行っていた為1人で塗り絵の紙を選んでいたから、(少し背中が寂しげだったような気がする)そっと隣に座って一緒にクロッカスの絵を眺めていた。
綺麗な花ですね。
そうだねぇ、本当に綺麗だよね。ここは前は青色に塗ったんだよ。その前はこれ(ピンク)
今までもたくさん塗ってきたんですね………

…Kさんの若い頃の話を聞いた。
配給制だった頃、大きなお鍋で街に行った話。お酒を飲んで酔っ払っているお姉さんの話。
梅干しや切り干し大根の作り方。
花粉症が多くなっているのは受け止める木々が減っているから、と言う話。
お姉さんの真似をする時は少し舌っ足らずに、花粉症の話をする時は少し怒りながら、表情豊かに1つの話を4回くらい繰り返しながら楽しそうに過去の話を私に聞かせてくれた。
こんなに話してくれる人だとは思わなくて、誤解していた今までの自分を殴りたい。

そろそろお昼休みが終わる。
「私、これからどうすれば良いかな?」
思考より先に言葉が出てびっくりしたが、Kさんの言葉が聞きたかった。若者のちっぽけな悩み。
「今何をしたらいいのか悩んでるんです。」 
帰ってきた答えは明快だった。
「結局自分なんだから、自分の好きなことをやった方がいいよ。周りがあーだこーだ言うけどさ、本人だから。周りは言うだけだよ。誰も責任持たない。自分の良いようにやれば良い。それなら悔いが残らないから。あん時にこうやっておけばよかったなってなっちゃうから。自分のやりたいことは自由でしょ?やるのは本人なんだから。」

力強い言葉で何度も何度も、私の目を見て話してくれた。繰り返し鼓舞するように、頷きながら、Kさんの過去を思い出しながら、今ここにいる若者の心に深い言葉を送ってくれた。
今までKさんにどんな過去があって、どんな子供時代を過ごしてここまで生きてきたのか私は知らない。だけどこの言葉に全てが込められているようで、喜びも後悔もたくさん経験して咀嚼したからこそ今があり、自分らしくここにいるのかなって。ブレない軸を持ちながらたくましく生きるKさんはかっこいい。ありがとう。

3年前に亡くなったひいおばあちゃんが、亡くなる少し前に病院で私の手を握りながら
「かなちゃんは好きなことをしてね。たくさん好きなことをして、頑張るんだよ。」
と言ってくれたことを思い出した。

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