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レジデンス日記(18)浅川奏瑛四季シリーズ Spin-off 冬-デイサービス楽らく-


2月7日(水)

レジデンス最終日
朝5時に目が覚め、近くの川まで散歩し日の出をぼんやりと眺める。
真っ白な雪がキラキラと煌めいている。
いつもの朝が戻った。7時30分から職員さんが集合しパタパタと朝の準備を始める。室内にたくさん設置されている加湿器や空気清浄機が動き出す。
8時過ぎから2時間かけてゆっくりと利用者が集まり、温かいお茶を飲み、身体を温める機械を使ったり、入浴をしたり、色塗りをしたり、脳トレをする等各々の時間を過ごす。
朗らかなBGM。私はこの時間が大好きだ。
誰もいないがらんとしたデイサービスに、少しずつ人が集まり賑やかさが戻ってくる喜びを誰よりも感じることができるのは、滞在アーティストだけの特権だと思う。
私は溶けかけの雪だるまと共に中庭の円をぐるぐると回る、いつもの
「日常の風景にダンスを添えるプロジェクト」
白い地面と全身青い私の組み合わせが可愛かったらしく職員さんが写真を撮ってくれた。
皆さん雪だるまを可愛がってくれて嬉しい。
溶けちゃうからと、職員のKさんが傘をさしてくれた。雪だるまは今日で溶けちゃうし、私は今日でいなくなるけれど、私のダンスが皆さんの中の幸せな風景の一部になれていたら、それだけで嬉しいの。

職員のSさんの元気な声
今日は何月でしょうか?さんはい!
にがっ…?♢○¥#2*☆♯…。
2月7日(水)、今日は故郷の日
午前中は季節の塗り絵、午後は節分祭。
「楽らく日和」を歌い、隣り組体操、ダンベル体操、ストレッチをして(結構辛い)、塗り絵の時間。Sさんはこっそり貰ってきたOさんの龍をお手本にどうやったらこんなに力強く鱗の色を塗れるのか試行錯誤。
Yさんは3日間悩んでいるという間違い探しの10個のうちあと2個がどうしても見つけられないと唸っていた。私も参戦したけど全然分からず。今日中に見つけてやる〜!!と鬼の形相で紙と睨めっこしていた。負けず嫌いのYさん、ど根性精神が大好きな利用者さん。
Hさんはここ数日具合が悪く、奥の畳で寝ている。じいじに似ているHさんは今日はいつも以上にニコニコ。何かいいことあったかな。
姿勢の綺麗なAさん、白い髪が今日の雪のように綺麗なKさん、シャイだけどお話しすると必ず最後に握手してくれるTさん、美にこだわりの強いHさん、歌の上手なAさん、99歳のTさんは今日はちょっと眠たそう。お酒好きのOさんは私の夜ご飯事情をいつも心配してくれる。。。
ここには書き切れない、本当に素敵な方ばかりだ。

お昼前は必ず嚥下体操をして消毒の動画を見る。←私は2日で飽きた。
いつも一緒に利用者さんと食べていた給食、今日は特別に「まつい」というもつ煮が美味しい定食屋さんに連れて行ってもらった。激辛?のゴジラも気になったけれどスタンダードを注文。美味しすぎてぺろっと食べてしまった。
そういえば、全然街のお店を開拓しなかったのが心残り。夜の真っ暗闇が怖すぎて夕方ベルクに行くので精一杯だったもんで。
東松山はやきとりが有名で、"やきとり"なのに肉は豚肉を使い、味噌ダレをつけて食べるらしい。見分け方は、"やきとり"なら豚、"焼き鳥"なら鳥だそう。むずっ

午後の節分祭はみんなで鬼は外〜の歌を歌い、1人ずつカラフルな鬼の帽子をかぶって写真撮影。皆さんよく似合うこと。
チーム対抗戦でのゲームは、豆の代わりに丸いカラフルなモールを箸で同じ色の紙に乗せるゲーム、職員さん手作りの鬼の口にお手玉を入れるゲームをやった。1位のチームは勝利のポーズ🫶(ハート)
おやつは甘納豆だった。

帰りの会で、「また明日も楽らくで」のダンスをいつもと同じように一緒に踊る。
最後は私だけでダンスパフォーマンスをしようかという話もしていたけれど、最後は皆さんと一緒に表情を見ながら踊りたいと思い、やめた。
最後の挨拶、人前で"ハッキリと聞こえやすく"話すことを身につけられた気がする。初日のモゴモゴもじもじしていた自分から、少しだけ成長を実感できた。私が今日で最後だと知り、利用者の皆さんからたくさんのありがとうと、元気でねを頂いた。

18日間このデイサービスに滞在して、
最初の数日間は大変だった。
利用者と職員の日々の活動の中に、知らない誰かさんがポンっと入ってくる。最初だから皆んなの前で自己紹介をしたりするも、その後は別に何かをするわけではない。強制されない場。やりたいことがあったら提案していいし、やらなくてもいい。 
とにかく混乱していた。
利用者さんの隣に座り、とにかく自分を知ってもらおうと話しかけて話を聞いてを繰り返していた時もある(今思えば、必死すぎて皆さん居心地が悪かったろう…ごめんなさい)
馴染みの曲でダンスパフォーマンスをしてみたが、全然しっくりこない。これじゃない感。
アイデンティティクライシスに陥り、必要とされていない事への不安と何もできないもどかしさに勝手に傷ついた数日間。無理に距離を縮めようと頑張るもただ自分が削がれていくだけで空回りしてしまっていた。
何しにここに来たんだっけ?
ダンスって何ができるの?
私って何だっけ? あれ、辛い…。
どんどん自分が透明人間になっていくような気がした。何もできないから、何もしない。
ただただ空間に漂う空気のように過ごす。

だけど、透明人間が"何もしない"ことを選択すると、今まで見えていなかった、考えられていなかった部分が見えてくるようになった。
視界が開かれて職員さん達の動きや空間がゆっくりと、でもしっかりと動いていく、人の温度の流れのようなものを感じるようになった。
自分を実験台に"いかた"のリサーチを開始し、空間への馴染み方や自分の在り方を少し俯瞰しながら観察し、利用者さんとのコミュニケーションの中でどんな"いかた"をすればお互いに心地よいのか、話に花が咲くのかを試した。

レジデンス1期はそういった人と空間との距離感を測るような期間を経て、自分の中で咀嚼できた部分も多くより自分らしくその場にいることを選択できるようになった。
レジデンス2期でソロ公演をしようと決めてからは、"記録"を軸におきながら、何度も繰り返される会話について興味を持ち、なぜその記憶が繰り返されるのか、そして聞き手の在り方を模索した。どんな聞き方や答え方をしたらその人の記憶の断片が広がっていくのか、みたいな。その人の人生の中での点になるような重要な出来事でありその人らしさを表すエピソードを、第3者が記録し語り継ぐ。
ダンスという形に残らない手段を使って。
"記憶の循環と引き継ぎ"をテーマに会話を記録していった。何度も同じ方と同じ話をする中で、その人の生き様みたいな部分が垣間見え、勝手にジーンときては涙を堪えていた。

レジデンス2期のダンスの在り方としては、花火のような瞬発的なパフォーマンスをするのではなく、いつもの風景に踊りが共存するような時間を作ること(過ごす)が1番しっくり来た。
アートに興味があってこの施設を利用しているわけではない利用者の方に、何気なくアートを届ける。ぼんやりと眺めてもらうくらいが丁度いい。そのくらいが自分としても心地よく、
精一杯の贈り物だった。
一緒に作った「また明日も楽らくで」
どこかで手を眺める瞬間があったら、
どこかでハートを作ることがあったら、
前にどこかでやったことがあるような
と思い出してくれたらいいな。

前にピアノでセッションしようねと約束していたYさん。色々な事情で実現が難しく、レジデンス2期まで時間も空いたからもう忘れてしまったなぁと思ってこれまで過ごしていたけれど、帰りの会の後、
「あなたとした約束忘れてないからね。絶対また来てね。」と言われた。覚えていたんだ…嬉しい。ちゃんと言わなくてごめんなさい。帰り際、「こうやって出会えたことは何かの巡り合わせなんだから、ここでサヨナラじゃなくてまたいつか絶対に会うんだから。自分を大切にね。頑張ってね!」とエールをもらい涙がポロポロ2人して涙目になって別れた。必ずまた会いに行きます。その時は一緒に、
さくらんぼの実る頃/加藤登紀子
カチューシャ 
セッションしましょうね。

99歳のTさんは玄関で、こたつに入って目の前に食べ物があるとついつい食べちゃうんだよねぇ。毎日食べ物のことを考えちゃうのよ!
と笑いながら話していた。
長生きの秘訣は、食欲と大笑いだって。
最後にいいこと聞いた。
柳のおじさんが嬉しそうに、お手製の雪かき道具を見せてくれた。(昨日、雪かきの時にほとんどの雪かきスコップの柄が折れてしまったの)職員さんからはそれじゃ短すぎて腰が痛いよぉ!と少し文句が
送迎のおじさん達は利用者の送迎が終わると次の日のために色鉛筆を削ったり、ゴミ箱の新聞紙を折ったりと色々と作業のお手伝いをしている縁の下の力持ち。あまりお話しできなかったけど、送迎に一緒に乗せてくれた時はここら辺の有名な場所や美味しいお店を教えてくれた。ありがとうございました。

最後の利用者が帰るまで、いつものようにテレビを見て過ごし、入り口まで見送る。
空っぽになった室内。温かい残り香。
帰り支度を整え、レジデントルームを出る。
朝日と反対側に太陽の端っこが沈んでいく。

淡々と過ぎていくように見えて、じんわりと移り変わる季節のように毎日が"新しい"の繰り返し。絶対に忘れないぞと思っても、人は忘れてしまう生き物だ。日々の新しさには勝てない。
でも、いつかまたどこかで記憶の引き出しを開ける時があったら、大きな窓の外で踊っている人がいる風景を思い出すことがあったら、どこの誰かもわからない1人の若者はあなたのその姿にその心に救われ、励まされ、背中を押されました。
またいつか、会いましょうね。

心から、ありがとうございました。


レジデンス日記をここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
今回は過去最長です。
拙い文章で申し訳なかったですが、レジデンスで感じたことを感じたままに自由に記録し咀嚼するための良きツールでした。
思ったことを伝えたり文章にしたりするのは得意じゃないけれど、自己満足日記だと思えば気が楽で続けられた。
「楽に楽しくその人らしく」
デイサービス楽らくのあり方のように
18日間、日を追うごとに迷走していく浅川が面白いです。読んでるよ〜、面白いよ〜という声に何度励まされたことか。
後半サボっていましたごめんなさい。

最後まで読んでくださった方に特別に、公演のお知らせです。
公にするのはもう少し先になりそうです。
ソロ公演を7月13日、14日に祖師ヶ谷大蔵の
カフェムリウイにて行います。決め手は大きな窓。

浅川奏瑛 四季シリーズspin-off冬として進めていたこのレジデンス、夏に上演するという少し意味のわからないことになっているけれどまぁいいか。
公演タイトルは考え中です。

それでは


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