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レジデンス日記(17)浅川奏瑛四季シリーズ Spin-off 冬-デイサービス楽らく-


2月6日(火)雲り時々雨

いつも7時30分には職員さんが出勤するけど、今日は9時からと遅まり、10時からの送迎開始に変更になった。
施設に1人でいる雪の朝、キラキラ光る雪が美しく少し施設の周りを散歩してみた。
一面の銀世界。まだ誰も通っていない美しい道に足跡をつけるのはなんとなく後ろめたい気持ちになる。
きっと皆さん大変な思いをしてここまでくるだろうし、着いて少しでも笑顔になってほしいから、中庭に雪だるまを作っておこうかな。
手袋も長靴も何もないから素手でヒーヒー言いながら完成。不恰好な雪だるま。 
霜焼け行きは決定した。
職員さん達がパタパタと施設に来て送迎の確認や雪かき、利用者さんとのやりとりで忙しそうにしている中ブラインドが開けられ、『可愛い〜!!』の声が聞こえた。
隠れて様子を見ていた私。にんまり
一緒に雪かきを手伝った。こんなに雪が降るのは久しぶりだから、雪かきスコップが老朽化してポキっと何本も折れてしまった。
職員さん総出で安全に利用者さんが歩けるように雪をどかす。
利用者さん達が少しずつ集まるのを待つ。
温かい室内、心地よいBGM。
ここは安心を提供する場だから、利用者さんがいつも通り過ごせるように職員さんみんな役割分担をしてテキパキと動き、利用者さんと何気ない会話をし、歌を歌う。
2時間遅れてのスタート。
今日は20人弱ととても少ない。丸いテーブルががらんと寂しくて、何となく今日は静かな日だった。会話のネタに、窓の外の雪だるま。
皆さんたくさん褒めてくれて嬉しいな。
相変わらず97歳のEさんはパワフルにお話しされていて、少し具合の悪い利用者さんを気遣い、周りに気を配り、私と会うのが今日が最後だと知りエールを送ってくれた。
Kさんは、いつも大きな笑い声で周りの人達を笑顔にさせてくれる。今日も笑い声がみんなに伝染して和やかな時間がたくさんあった。
午後は本当は節分祭の予定だったけれど変更し、のんびりとお手玉をやったり、歌を歌ったりしながら過ごした。昔は3個、4個同時にお手玉ができていたらしい。
私は2個ですら危うく、運動神経の悪さがバレた。

職員さんの凄さはレジデンス初期からもちろん感じていたけれど、こういったイレギュラーの日の対応力と、どっしりと構える安心感が半端ない。
"いつも通り"のために本当に細かい気配りとエネルギーを費やし少しの変化にも敏感に対応している。何があっても、"しょーがない!なんとかなる!"とベテランのKさんとHさんの掛け声でみんな一致団結し前に進む。こうやっていつもピンチから施設を守ってきたのだろう。
特に帰りの終礼で、利用者さんの今日の様子やフィードバックを聞くとたくさんの工夫・模索をして毎日を乗り越えていることを知ることができ、心からの尊敬と私がどうここにいるべきなのか、利用者さんと接するべきかを考えさせられる。
介護のことを私は何も知らないし、少し距離を置いて遠くから見ている。
利用者でもない職員でもない中途半端な、アーティストという立ち位置から1日をじっと観察する日々。
アーティストがデイサービスの滞在を通して何ができるんだろう。受け取るものは数え切れないほどたくさんあるが、私から渡せたものは一体なんだ?
利用者さんに背中を押され、職員さんに励まされ、私はいつも貰ってばかりだ。

明日でレジデンスが終わってしまう。

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