レジデンス日記⑨浅川奏瑛四季シリーズ Spin-off 冬-デイサービス楽らく-

12月6日(水)晴れ

レジデンス第1期最終日
いつも通り、まったりと少しずつ利用者さんが集まる。朗らかなクラシックがデッキから流れ、昨日の雨が中庭に光る。私は97歳のHさんからの教えを守り、6:00に起き顔を洗い髪を整え化粧水をかかとまで塗った。
9:30〜中庭でラジオ体操を終えアリの観察をし珈琲を飲みながらレジデントルームで昨日の日記の文字修正をする。
10:00に部屋に入ると殆ど全員が集まっていて、塗り絵や雑談で時間を過ごす。
職員のSさんの元気な声で1日が清々しく始まる。「今日は何日でしょうかー?」
Yさんが自信満々に「15日!」と答える。
クイズ問題は当たらない。それでいいじゃない。朝の体操も立っている人、座っている人、やらない人がいる。それでいいじゃない。
Yさんは2日後のピアノの発表会に向けて文字通り死に物狂いで練習しているそう。始めたものは諦めない強い精神力を持ち昼休みもイヤホンで発表する曲を繰り返し聴いている。職員さん曰く、彼女の音楽に対する情熱は週3日のレジデンスアーティストらしい。
塗り絵の絵はクリスマスツリーやスキーに変わり、職員さんは1月のお正月に向けての飾り作りをはじめていて、(デイサービスの玄関や室内の至る所に職員さん手作りの季節の装飾が飾られている)午後の季節のカレンダー作りでは1月の2月のカレンダー制作をしている
すっかり季節が変わる。
なんでもない、日常。

お昼のメインは揚げ出し豆腐のそぼろ煮。
私のだけ溢れんばかりによそってくれている。
今日からデイサービスに来た方と隣で食べる。美味しいですねと(黙食なのでジェスチャーで)伝えるとニコッと笑いかけてくれた。
今日のは特別においしかったと、HさんとTさんが話している。最後にもう一度、Hさんに長生きの秘訣を伝授してもらう。

昼休みは何人かと中庭を歩く。1周、2周、3周とそれぞれのペースでのんびりと日向ぼっこ。
最初に来た日と変わらない、なんでもない、日常。

職業柄、日々変化していかないとと自分で自分の背中を叩き無理を重ねて生き急ぐような毎日を送ってしまっていた。変わらない日常の尊さと、それを維持するための並大抵ならない職員さんの努力に触れて、今日の天気について何度も語り合い、季節の変化を身体いっぱいに取り込み、人と人のかけがえのない繋がりを教わるデイサービスの毎日。
忘れてしまうことへの寂しさは皆が持ち合わせているけれど、今日の"楽しい"が何よりも大事なんだ。先のことに囚われて今の喜びや今対話するべき相手のことを私は蔑ろにしてしまっていた。
ダンサー・振付家等の肩書きを取っ払って、人間として、これから生きていく上で忘れてはいけないことをたくさん教わっている。

「今日もデイサービス楽らくをご利用頂きありがとうございました」

私はここが大好きだ。
また1月、会いに行きます。

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