【映画】パラサイト 半地下の家族

●見たのは1月16日、この感想もその直後に書いたもの。

最初はテンポがノロく、なんだこれ? だったけど、家族の面々が豪邸の家庭教師、家政婦、運転手・・・という具合に入り込んでいくにつれ「パラサイト」の意味が分かってきて、おおなるほど、そうなるのか。なんだけど、後半、豪邸家族が息子のキャンプに行ったあたりから話が別の方に転がり始め、最後のパーティの場面では殺人に発展するという荒っぽさ。話が雑になってきてないか、な感じ。もっと静かにブキミに、じわじわ終わって欲しい気がしたのだよね。でもまあ、分かりやすさと面白さは、現状の方かも知れないけど。


キャンプの夜、キム家の面々が居間で飲んだり食ったり。なことしてたら痕跡が残るだろうに、って気になっちゃうんだけど。それはバレずに別の方向から事件に発展。何と、追い出したはずの元家政婦がやってきて、実は地下で亭主を養っていた、という。おお。地下室のまた下にシェルターがあり、元家政婦夫婦がすでに寄生したいたというゾクゾク感。当然いざこざに発展し、母親が元家政婦を蹴り落とし、脳震とう(後に死亡)。元家政婦亭主は、そのままシェルターに拘束軟禁。このあたりは『黒い家』が連想されるよね。


というところに、キャンプを中止して豪邸家族が帰宅すると電話連絡がきて、そりゃあ、あたふたするだろ。息子は庭でテント張るし、夫婦は居間でいちゃいちゃしはじめるし。テーブルの下に、夫と妻と、娘? だったかな。息子も? まあ、夫婦が寝た後、なんとか脱出するけど、外は豪雨。このあたりは、『台風クラブ』の異常さを連想したぞ。


で、翌日は豪邸で客を呼んでパーティ。キム家の4人も参加するんだけど、地下の元家政婦亭主が脱出し、


・元家政婦の亭主が、キム息子を石で殴る。
・元家政婦の亭主が、キム娘をナイフで刺殺。
・それを見てキム妻が、元家政婦の亭主をバーベキューの串で刺殺。
・次にキム父親が、豪邸主人を刺殺したのは、主人が、元家政婦の亭主の臭いに顔をしかめたのを見て、自分に対してした行為と同じ、と感じたから、なのかな。
・キム息子は、頭を手術したが、後に、元に戻った、ようだ。(キム息子のナレーションがあり、嫌疑は不法侵入その他モロモロ、の最後に、傷害致死でも執行猶予になった、と言ってたのは母親のことか)


この騒ぎの間にキム父親はシェルターに逃げ込み、逮捕はされず。ずっと地下生活らしいけど、ではいったい誰が面倒をみていたのか? という疑問がわくよな。で、ラスト直前、キム息子が年月を経てあの屋敷を買い、父親がシェルターから出てくる、というのは息子の妄想なんじゃなかろうか。つまり実際は、キム父親はシェルターで餓死しているのではないだろうか。


さてと。巷間いわれているように、また監督自身も言っているようだけど、韓国内の格差社会が背景にあるんだろう。とはいえ、地理的高低差を描いた黒沢の『天国と地獄』がすでにあるので、そんなメッセージは別に珍しくもない。そもそも、格差の喩えはミエミエすぎるだろ。そんなことは誰でも分かる。むしろ、その裏にある暗喩をこそ、監督は意識しているのではないだろうか。その暗喩を潜ませつつ、大衆ウケするコメディホラーサスペンスに仕上げているところが興味深いと思うのだ。


キム一家が住んでいるのは、半地下の家。便器が地面と同じ高さにあって、家の中では腰ぐらいの高さになる。後半、大雨で家が水浸しになったとき、便器から汚水があふれ、その上でキム娘がケータイを打ってたんだっけか。なかなかシュール。豪邸のシェルターは地下三階ぐらいだけど、高台にあるので、そこですらキム一家の家より上にあるはず。夜は酔っぱらいが近所で立ち小便をするほどで、場末の汚物のたまりそうな場所だ。そこに、這い上がりたくても上がれない4人が暮らしている。彼らはスキルが無いわけではない。一般教養や特殊技能、詐欺的才覚は長けている。にもかかわらず仕事がない。これは、韓国の現状を表しているのかな。


臭いが重要な要素になっている。最初に気づくのは豪邸の少年で、キム息子のあとから寄生したチム父親、母親、娘ともに、同じ臭いがする、と簡単に嗅ぎ当てる。といっても、その裏の事実までは感づかないのだけれど。もっと強烈なのは、キム父親に対する豪邸夫婦の反応で、ともに「臭い」と顔をしかめる。ゴミだめに住むオヤジにしみ込んだ貧乏人の臭いは、どうやっても抜けないのか。


同じ反応を、ラスト近くのパーティに乱入した元家政婦の亭主に対してもして、それを見たキム父親はとっさに豪邸主人を刺殺する。それで主人を刺殺? なんかなあとは思うけど、虐げられ、蔑まれたオッサンの、反射的な対応なのだろうか。


そして、水。住んでいる半地下の家は、日頃から立ち小便をかけられている。その小便野郎にかけるのは水。キム息子が友人からもらうのは水石。キャンプの夜の雨。瀧のような階段。洪水。あふれる水。半地下の家は水浸し。トイレから汚水が吹き上がる。そういえば、パーティの日、息子は水石を持って地下に向かったんだけど、あれはなんで? でも石を落として元家政婦の亭主に気づかれ、逆にその水石で殴られるのはアホすぎ。


モールス信号も登場する。シェルターに軟禁された元家政婦の亭主が、頭をスイッチに打ち付けながら室内の灯りを点滅させるのだけれど、気づいたのは豪邸少年だけだったかな。彼はボーイスカウトやってて知ってた、はず。その豪邸少年は、キャンプが中止になったからなのか、庭にテントを張ってしばらく遊ぶ。そのテントはインディアンのテント。彼はインディアン大好き少年で、家の中でも弓矢で遊んだりする。インディアンは、白人に土地を奪われ命を奪われ、居留地に隔離された存在。そんなインディアンが好きなのは、昔の西部劇のせいなのか? 豪邸少年が騎兵隊側なら分かるんだけど、なんでインディアン側なの? いやむしろ、住んでいた土地を奪われて抑圧された民族、という暗喩があるんじゃなかろうか。もちろんここでいう征服者はかつての日本で、抑圧されたのは朝鮮人だ。だから、インディアンに与する、と。


元家政婦が結核を理由に解雇される件は少し無理があるかな。奥様が「あなたは結核だから」と言ったなら、元家政婦にとっては事実ではないし、桃のアレルギーを証明することで反論できる。もし理由をあきらかにしていないのだったら、それに対しても反論できるはず。別の暗喩があるのかどうか、まだ分からない。

キム妻が北の放送の物真似するのが、笑える。ああいうのが日常的なんだろう。でも、あんな場面を映画で観たのは初めて。北を怒らせないように、気を使っているのかね、日頃は。


豪雨で、キム一家は体育館に避難した模様。翌日、古着が支給されてはいたけど、3人は風呂に入ったのか? そうとう臭かったんじゃないのかな。
冒頭で、近所のWi-Fiが入らず、ネットが使えない、とかぼやいていて。カカオトークがどうのといっていたけど、何なの? 調べたら韓国のSNSらしい。分からんよ、そんなの。


※追記(2020.02.11)。

米国アカデミーで作品賞、監督賞、脚本賞、外国語映画賞をかっさらった。改めていろいろ考えての読みを。まず、シェルターのある豪邸を青瓦台に喩えると、主人は文在寅大統領で、そこにはすでに北の工作員が潜入し、操られているいるよ、という政府批判になっているように読めるんだよね。

豪邸にパラサイトするため、あの家族はいろいろ工作する。まずは娘が画像処理で兄の学生証を偽造する。兄が潜入すると妹を呼び込み、父親も以前の運転手を追い出して自分がその座に座る。母親も、それまでいた家政婦をまんまと失脚さる。こうした一連の行動は、北の工作員を連想しないだろうか。そう。韓国政府内には北の工作員がどんどん入り込み、官僚やスタッフとして活躍している、と。

パーティで主人が殺害され、家は家主を失う。最初の持ち主は、家を建てた建築士。その後も主が次々と変わるけれど、家は存続しつづける。主を大統領と見立てると、家は青瓦台ということにならないか。


主が変わっても、家政婦(使用人=官邸のスタッフ)は前の主人のときから同じ、というのは大統領官邸も同じだろう(運転手も同じだったかは定かではないけれど)。で、使用人あるいは部下どうしで抗争し合い、利権に預かろうとしているのは、主亡き後の大統領官邸内の権力争いのようにも読める。もしかしたら、北の工作員が、韓国出身のスタッフを追い落としているのかも知れない。


日本関係では、水石がいわくありげ。そもそも水石は中国から日本に伝来の文化で、日本で花開き、その後に韓国に普及したらしい。日本文化の象徴である水石を息子は友人からもらう。そのおかげで一家が豪邸に寄生できるのだけれど、豪雨によって半地下の家は水没。翌日、息子は水石を手に豪邸に行き、元家政婦の夫を殺害しようとし、失敗。逆に、元家政婦夫に水石でボコボコにされる。元家政婦やその夫は、韓国歴代の大統領に寄生する関係者に喩えているような気がしないでもない。そして水石は、たとえばロッテのような、日本で地位を成した企業の、韓国へのリターンにも見て取れそうだし、つねに中国・日本という周辺国とも見立てることができる。韓国を翻弄しているのは、この両国だ、と。

元家政婦の、桃アレルギー。韓国の桃は、実は日本原産という話もある。日本のものは何でも嫌い、という風潮が、このエピソードにあてはまらないか? そういう考えをもつスタッフが、官邸にいる、と。

(※追記:元家政婦夫妻を、はるか以前に潜入した工作員とみることもできるかも。北の体制が変わり、新たな工作員が入れ替わろうとしていた、と。そのために、新たな工作員であるキム妻は、化学薬品を使った。それが桃だった、とか深読み)

モールス信号も、古い工作員の通信手段、と読めば理屈が通じる。


息子の西部劇かぶれ、とくにインディアンへの興味は、アメリカ人による先住民族の虐殺をどうしても連想してしまう。アメリカに支配されている韓国の現状・・・。そして、すでに述べたように、韓国に屈辱を与えた日本が読み取れる。


庭で発生した事件が過ぎ去って、主を失った豪邸=大統領官邸は、長い期間を経て、息子が買った? 買えるほどの収入は得られないと思うんだけど、もしかしたら口八丁で資金を稼いだのかも知れない。で、手に入れて、地下のシェルターで隠れていた父親が出てくる。というのは、潜り込んでいた北朝鮮の工作員出のスタッフが、ついに韓国のトップに登りつめ未来、とも読める。


などと、暗喩=メタファーがいろいろ埋め込まれているような気もしないでもない。


※追記(2020.03.16)。

その後、どこかで、半地下の家が水没したとき水石が浮いていて、あれはニセモノである、と書いているのを読んだ。そうだったっけ。見返してないので分からないけど、そうであるとすると、どうなるか。本来は日本由来の文化を有り難がっていたけれど、その文化自体がニセモノだった、ということになる。日本文化がニセモノ、という解釈もあるだろうけど、さらに言えば水石を有り難がり、自分の国でも同じようなモノをつくりあげてきたけれど、それがニセモノだった、とも読めるように思う。自国の文化を大切にせず、日本文化もどきを有り難がってきた人(息子の友人)=韓国民に対する、監督の皮肉と読めるように思うんだが、いかがか。

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