【映画】罪の声

グリコ・森永事件を下敷きにしたお話。自分の声が事件に利用されていたことを知った男性が、始めは独自に、途中から刑事とともに、その謎を解いていく。…というわけで評判が結構よくて、映画賞をたくさん獲りそうな映画である。のだけれど、どーもスッキリ話に入れなかったというのが感想かな。

芋づる式に人をたどって、意外な人物関係と流れで真相が解明されていきはするのだけれど、何だかあらすじを手短にまとめてみました、なお話なんだよね。人物が多い割りにはいろいろ交通整理されてて分かりやすいけど、映画としては色気がなさすぎな気がする。だいたい、訊ねていく先々のみなさん、口が軽くてペラペラ教えてくれるのは何なんだ? そんなことを知っているのだったら、報道内容にビンと来て自分で謎解きに参加するとか、あるいはマスコミに御注進するとか、「俺、知ってるんだけどさ」なんて漏らして噂話で広がってるような気がするのよね。いま、やっと分かりました、的な展開はご都合主義的に思えて仕方がない。

でまあ、流れを振り返るに。個人の私生活をあばくような取材方針に嫌気が差して、文化部に移った阿久津。そんな阿久津が過去の事件を担当させられることになる経緯が、アバウト過ぎだろ。で、先輩記者の過去の情報からロンドンが鍵、と飛ぶが、目当ての中国人にはたどり着けず。の、のち、あれこれ人を伝って行くと、目的は金銭授受ではなく株価操作だと分かってきて、人脈も見えてくる…。というのがひとつの縦糸。


もうひとつの縦糸はテーラーの曽根で、天袋に押し込まれていたテープを再生し、自分の声が事件に使われたことを知り、死んだ伯父を手がかりに個人捜査を開始。小料理屋で働く板前から、事件グループの存在にたどり着く。
阿久津も同様に小料理屋にたどり着き、曽根の存在を知る。ここから、2人の詮索行脚が始まっていく。

という流れなんだけど、冒頭の、かつての経緯の説明から人づての遡行が、説明のためのカットの連続で、ちっともドラマチックじゃなくてワクワクしないんだよ。証言者の話、人の名前、昔の写真と、ヒントは断片的で、覚えきれないところもあるけれど、そこそこ整理されているので迷うことはないけど、整理されている分、ああそうですか、な感じになってしまっていて、話に引き込まれないんだよね。そして、人物キャラはW主演の2人しか掘り下げられていない。脇の人物は、記号的に役割を果たすだけ、な扱いなのももったいなさ過ぎません?


人のつながりは、分かった。でも、なぜその連中がひとつのグループになったのか? が、よく分からない。そもそも、元過激派の曽根達雄が元警察官の生島とつるむのは、なんで? さらに、ヤクザの青木がなぜ加入する? 釣り仲間からとか、なんか唐突なんだよね。そういうひと癖もふた癖もある連中が、株価操作で1人あたま1億円入るからどうだ、と誘われて、はいはい、となるもんかね。仲間は多いほどほころびがでるものだ。あんなグループ、いい加減すぎだろと思ってしまう。


録音の声にしても、そもそも生島が自分の娘・息子を使うか? そんな危ないことをするかねえ。そして、突然、生島が青木に殺されたという。生島の家族を達雄らが救うんだけど、いつのまにか青木の建設会社の飯場に軟禁されてしまう。なんでなの? 経緯がよく分からない。まあ、生島母子から情報が漏れる可能性は、ないわけではないだろう。でもだからって、延々と拘束しつづけるってのは難しいんじゃないのかね。だって子供は成長するんだぜ。現実的に見て、いろいろ「?」が多すぎて、話に没入できないのよね。


たぶん小説なら、筆力で説得できてしまうんだろう。でも、映像にしてしまうと、え? と思うようなことがよくある。この話も、その類ではないかと思うのよね。


で、最後にたどり着くのは、英国で古書店を営む達雄のところ。それはいいけど、阿久津が問いただすと「外を歩こう」といいつつ、発端から経緯まで、すらすら話してくれてしまう。わざわざ逃亡し、隠れていたのに、フツーあり得ないだろ、そんなの。で、阿久津が記事にすると、早速警察は達雄に逮捕状を発行する。海外にいた間は、時効にならないからだ。それで阿久津はさっさと雲隠れしちゃうんだけど、そうなるのは分かっているのだから、あんなペラペラしゃべったりしないって。


・阿久津は、最初に英国に行ったとき、謎の中国人の行方を捜していた。けれど、最終的にそれは日本人・達雄だと分かって再訪するんだけど、最初に行ったとき韓国人や日本人を想定しないのはトンマ過ぎるだろ。


・阿久津は、すらすらと核心に迫っていくんだけど、株価操作の可能性ぐらい、当時の警察も考えたと思うぞ。


・トラックの運ちゃんが聞いたというCB無線が最初のきっかけだっけ。あれは、誰からのどういうヒントだっけ? そっから小料理屋だったかな。忘れたけど。それにしても、そんな店の座敷で作戦会議はないだろ。事実、板前は脅迫川柳をつくったのを覚えてるんだし。情報ダダ漏れ。そんな杜撰なグループが、牛島の家族を軟禁するって、バランスがとれんだろ。牛島は家族もろとも殺してしまった方が、楽だったんじゃないのかとさえ思う。


・青木。牛島の家族には厳しかったのに、達雄の親族にはゆるいのは、なんで? いやいや。狐目の男も含め、烏合の衆だったのに、情報が漏れなかったのが不思議。小料理屋の板前なんて、あんなに知ってるのに、これまで漏らさなかったのが不思議すぎる。


・新聞で発表後、達雄の存在が明らかになったんだから、その親族にも警察やマスコミが押し寄せるはず。なのに、テーラー曽根は平穏そのもの。あり得んだろ!


・曽根の母親が、天袋に脅迫テープと達雄の取材ノートを隠し保存してる、というのも、おかしな話。あんなもの、さっさと捨てるだろ。いくら彼女がむかし達雄と関係があったとしても、そんなことで、証拠になるようなテープを取っておくとは思えない。懐かしさ? アホかといいたい。


・エンドロールに、ベタで出てくる役者名に有名どころがゾロゾロ。佐川満男は、ああ、あれか、と思いつくけど。浅茅陽子(教師? 同級生? そういえば、この2人が並んで登場する場面があったんだけど、似すぎていて、とても変だった。)、桜木健一、塩見三省(予告編見たら分かった)ら、分からず。

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