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「ミステリと言う勿れ」は 田村由美の●●●という性癖を楽しむための作品

【この記事の目的】
最近映画化もされて話題になっている「ミステリと言う勿れ」という作品を正しく楽しむために一つの視点を紹介しています


第一話の概要


作品の魅力について語る前に最初のエピソードのあらすじを紹介する。100ページ程度で読み終わる導入編だが、最初から型がバッチリできあがっているためだ。

・主人公がいきなり殺人事件の容疑をかけられて警察から取り調べを受けるところから話が始まるのだが、ここはどうでもいい。大事なのはここからだ。

・主人公は取調べしている人の話を聞いていく中で、会話しながら警察一人ひとりの人柄を洗い出していく。そして、その中で少しずつ「アレ?この人ちょっとやばい人なのでは?」というのを浮かび上がらせていく。

例えばこんな感じだ。

ただしこれはミスリード。あれこれ話が進む内に犯人が見つかり、その犯人の内面を暴いていくターンになると、「上のメガネのヤバさが可愛く思えるくらいにやべーやつだった」というのがわかる。

こういう構成になっている。

こうやって「久能整という変なやつがいる」というところからスタートして、「会話劇の中から登場人物のやばい人間性が浮かび上がってくる」というのがこの作品の王道パターンである。犯行方法の推理はメインではなく、「やべーやつを描くこと」がメインなのだ。「最初は普通に見えてた人の中に実は異常者が紛れていました」というゾワゾワっとする気持ち悪さがこの作品の醍醐味だ。

普通のミステリ作品として読むのではなくて三谷幸喜の「12人の優しい日本人」(元ネタは十二人の怒れる男たち)みたいに会話劇を転がしていったら思わぬ結末が転がり出てきた感を楽しんでほしい。

4巻まで期間限定無料です。

・・・と、ここまでがまともな作品紹介です。
ココから先は田村由美厄介オタクの感想です。


田村由美という作者の作家性=人の被ってる仮面を剥がすのが作者の性癖なのではないか

田村由美という作者は、この「やばい人間」を描くのがとても上手な人間である。この作者には明確に「人には多面性がある」という強い信念があると感じる。そして人の仮面を暴き、精神を裸にさせることが田村由美の性癖なのだろう。

前前作「BASARA」は二人主人公制でであるが、二人の主人公はお互いに己を偽っており、その二人が決定的な場面で仮面を剥がされるシーンがクライマックスとなっている。多分このシーン描いてる時の作者は心のなかで絶頂していたと思われる。他にも最初味方だと思ってたやつが変態サディストでしたとか、逆に余裕ぶってたやつが実はヘタレでしたとかのオンパレードである。

前作「7SEEDS」でも一人ひとりが自分のアイデンティティや信念を丁寧に壊されていく姿を描く。アイデンティティが変わらない人物は作中でどんどん死亡させられるからその徹底ぶりがすごい。


田村由美のちょっと特殊な性癖が最大限詰まった作品がこの「ミステリと言う勿れ」


「人の心の仮面を剥ぎ取っていく」という性癖が過去からずっと変わっていない。ただし、今まではそれ以外の要素もたくさんあった。どちらの作品でも仮面を剥がした後それで終わりにするんじゃなくてその人間が成長していく姿を描いていく必要があったから、面白いけれど話が冗長だった。

しかしミステリなら仮面を暴いたあとの犯人はただ退場させるだけでいいからその後を描く必要がない。コンパクトに性癖部分だけを詰め込むことができる。人のやべーところを覗き見する下世話な快感だけを味わうことができるというわけだ。これは一種のイノベーションであろう。QBハウスが散髪屋の常識を変えたような話だ。

推理なんかそっちのけで「インスタントに異常な人間博覧会を楽しめる作品」として今作品は非常に面白い

人間は、自分の身の回りに異常者がいるのを嫌うが、一方でネットの向こうやフィクションの中では異常者が大好きである。特に個性がない我々凡人はこれがないと生きていけないほどに異常者を求めている。

なぜなら異常者を見て、そいつを嫌ったり見下したり嘲笑したりすることで初めて自分が普通で良かったと安心できるからだ。下劣な精神性と言われればそうかも知れないが、それをフィクションで消費するのに何の問題があるだろうか。

そうやって毎日やべーやつが晒し者にされているのを見て喜んでる我々下劣なネット民にとって、この作品はそういう欲求をインスタントに、しかもネットよりも高いレベルで満たしてくれる逸品であるといえる。

更にいうとまともな人間を探偵役にしてしまうと、あまりにも悪趣味であることがバレるから、ツッコミどころ満載の変なやつを主人公にする周到なケアがなされている。至れり尽くせりというやつだ。

間抜けなオタクはその煙幕にまんまと引っかかってこの作者の性癖に気づかないし、極上のB級グルメを味わうこともできていない。大変にもったいないと言える。

というわけで、この作品を楽しむ時、久能整の方に視線誘導されている間抜けなオタクたちは、この作品が「負の性欲」とでもいうべき、人間が密かに持っている下劣な欲望をこれでもかと満たしてくれる性癖もりもりのマンガであることに早く気づくべきであろう。探偵役は探偵役で面白いが、一話単位で見るなら犯人の異常性こそを楽しむべきである。

というわけで、みんなもこの作品を読んで楽しむといいよ。

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