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ウマ娘新参が牝馬ダート路線にハマるまで ~サルサディオーネとテリオスベルに愛を込めて

 2023年3月1日、大井競馬の名牝サルサディオーネ号がエンプレス杯5着をラストランとして、現役を引退しました。

 気が付いたらnoteにまともに記事を書くのもほぼ2年ぶりですか。この2年間何をしてたかといえば、リアル競馬にどっぷりハマっていました。金欠なので馬券は大して買ってませんが、そのかわり現役馬を追いかけるのはもちろんのこと、競馬史を遡って過去の気になった馬のレースを順繰りに見ていって、当時の記事などを漁ってその競走生活をひとつの物語として追体験していくのが本当に面白い。
 その中でも誰もが認める名馬より、GⅠであと一歩のところで勝てなかった馬とか、ちょっと地味めのGⅠ1勝馬とかが好きです。ウマ娘でもネイチャとかキングみたいなタイプが好きだもんな。GⅠで生涯最高の走りをしたのにバケモノがいて勝てなかった馬とか最高にときめきます。2005年菊花賞のアドマイヤジャパンとか、2006年天皇賞(春)のリンカーンとか、2016年天皇賞(春)のカレンミロティックとか。それと2007~2010年の佳人薄命スプリントガールズの物語に情緒を破壊されました。
 というわけで、過去の馬で特別好きな馬はオースミハルカカノヤザクラです。ナリタ3人組を慕いファインやスイープに振り回されるオースミハルカ(ウマ娘)と、アストンマーチャン・サンアディユ・スリープレスナイトとわちゃわちゃ仲良し4人組してるカノヤザクラ(ウマ娘)が見たいのでサイゲさん何卒よろしくお願いします。

 さて本題。そもそもなんでそんな、名馬より名脇役の物語に惹かれるのかといえば、もともとそういうマイナー嗜好というのもありますが……。そうでなければモブウマ娘の長編とか書いてない。
 沼の底まで沈んだきっかけは、1頭の現役ダート牝馬との出会いでした。

 その馬の名は、サルサディオーネ。

 というわけでこの記事は、ウマ娘新参の競馬ファンが、いかにしてウマ娘から最も縁遠い牝馬ダート路線にハマったかという記録であり、牝馬ダート面白い!!!!!!推せ!!!!!!!という叫びです。

全ての始まりはテオレーマから

 ご多分に漏れず、自分も2021年3月『ウマ娘 プリティーダービー』のPC版配信とともにアプリに入り、アニメ2期を見たことで、底なしの競馬沼に突き落とされました。競馬初心者がいかにしてウマ娘を入口にリアル競馬の物語に触れていったかは、このnoteに書いたサクラバクシンオーやキングヘイローの記事をご参照ください。

 そうしてリアル競馬を追うようになって半年ちょっと過ぎた2021年11月のこと。底なしの競馬沼のさらに底まで沈められるきっかけになったレースが、この年のJBCレディスクラシックでした。

 いやいやいや、2021年に競馬初心者がよりにもよっていちばん地味な牝馬ダート路線にハマるなんていうことがあるとすれば、それはどう考えてもマルシュロレーヌのBCディスタフからでは? しかもお前、サルサディオーネからって、このレースでサルサディオーネ惨敗してんじゃねーか!
 はい、今振り返っても我ながら、ここから牝馬ダートにハマるのは意味がわかりません。でもそれが事実なのだから仕方ない。

 と言っても、このレースを勝ったテオレーマの末脚に脳を焼かれたとか、特別そういうわけでもありませんでした。そもそもこのレースを見る前、ウマ娘のファル子からダート戦線にも関心を持ち始めてはいましたが、いちばん地味な牝馬ダート戦線のことなどほとんど把握していませんでした。
 ただこのレースの前、TLに流れてきたひとつの情報が頭に引っかかっていました。

「人気してるけど右回りだと一度も馬券に絡んでない馬がいる」

 ――それが3番人気だったサルサディオーネのことだとはっきり認識するのは、このレースの後のこと。
 勝ったテオレーマの成績を見て、なんとなく過去のレースを見ていたとき、いつもロケットスタートで逃げている、赤いメンコの馬がいることに気が付きました。テオレーマが惨敗したスパーキングレディーカップを6馬身差で逃げ切り圧勝した馬が。

 そもそもの話、自分はサイレンススズカを目当てにウマ娘を始めた逃げ馬好きです。ウマ娘のアニメ1期を見る前、オグリキャップやナリタブライアンやハルウララやウオッカの名前は知っていましたが、レーススタイルと生涯まで含めて知っていた競走馬はサイレンススズカぐらいでした。
 いわばサイレンススズカの大逃げこそが自分の競馬の原体験。となれば、逃げ馬好きになるのは刷り込みのようなものです。
 なので当然、ダート入門はスマートファルコン。リアルタイムの競馬ファンからは何かと言われがちなファル子ですが、当時の風潮を知らない後発世代の、サイレンススズカを親だと思っている競馬初心者が2010年東京大賞典や2011年帝王賞を見れば、それは脳を焼かれるに決まっているのです。

 テオレーマの過去のレースによく出てくる、赤いメンコの逃げ馬。サルサディオーネ、というその名前を見て、戦績を調べたとき、上述の「右回りが全然ダメな馬」という情報が繋がりました。
 そして、生産地に記された我が故郷「青森県」の文字と、戦績にずらりと並んだ[1-1-1-1]のコーナー通過順。

これが逃げ馬の生き様だ

 同郷の、7歳の、GⅠ未勝利の、牝馬の、ダートの、逃げ馬。デビューからずっとロケットスタートからの逃げ一本、中央ではそれほどパッとせず地方に移籍してから主戦の矢野貴之騎手と出会って覚醒、ただし右回りになると全然ダメ。
 サイレンススズカを親と思っていてスマートファルコンに脳を焼かれた逃げ馬好きが、こんな馬を好きにならない理由がないでしょう。

 そんなサルサディオーネの競走生活については、ニコニコ大百科がめちゃくちゃ力の入った記事でオススメです。この記事を読めば貴方も今日からサルサ姐さん推しだ。もう引退しちゃったって、今から推してもいいんだよ! サルサ姐さんのその生き様を今からでも追いかけろ!

サルサディオーネとショウナンナデシコ

 というわけで、牝馬なのに9歳まで走ったサルサディオーネの長い競走生活のうち、リアルタイムで追いかけられたのは最後の1年強だったわけですが、なんというか、自分が競馬に求めるドラマが凝縮されたような1年でした。
 中央には牝馬限定のダート重賞は存在せず、ダートの牝馬の一線級の馬は必然的に地方の交流重賞の牝馬限定戦を転戦することになります。その交流重賞も決して数が多いわけでもなく、ダートは牡馬と牝馬の実力差が大きいので混合戦に向かう牝馬も多くはありません。結果、ダート牝馬戦線はだいたい毎回いつものメンバーでやり合うことになります。
 同じ顔ぶれで代わり映えがしないという見方もありましょうが、ライバル対決という物語として見れば、その路線の最強格が常に同じレースでバチバチやり合っているというのは見応えがあるものです。

 サルサディオーネ8歳の2022年。当初の引退予定を撤回して、左回りの盛岡でのJBCレディスクラシックを目指して1年の現役続行を決めたサルサ姐さんの前に立ちはだかったのが、ショウナンナデシコでした。

 テオレーマとマルシュロレーヌが引退したと思ったら、逃げるサルサ姐さんをガッチリとマークして直線で捕まえて振り切る、力強い先行力をもった新・女王の登場。引退を撤回して8歳で悲願の戴冠を目指すサルサ姐さんの前に現れた、最後にして最大の強敵。これがドラマでなくて何なのか。

 そして牝馬限定重賞がない5月と6月、ナデシコとサルサ姐さんはともに牡馬の一線級へと挑みます。かしわ記念とさきたま杯です。

 パワーのいる日本の砂のダートで、牝馬が牡馬の一線級に勝つのは至難の業。中央のダートGⅠを勝った牝馬は現在もサンビスタ1頭しかいません。
 しかし、ダート牝馬の誇りと意地を見せ付けるように、この2頭はこの2レースを勝つのです。ショウナンナデシコは、まるでサルサディオーネのような緩みのないラップでの逃げで後続を完封して。そしてサルサディオーネは、直線で一度はシャマルにかわされながらド根性で差し返して。
 こんなの、脳を焼かれるなと言う方が無理な話だと思いませんか。

 この2頭が秋には盛岡で頂上決戦をするのだと、夏の段階では微塵も疑っていませんでした。
 サルサディオーネ8歳、悲願のGⅠ戴冠を、いちファンとして切に願っていました。

 しかし、秋。盛岡のJBCレディスクラシック。
 勝ったのはショウナンナデシコでも、サルサディオーネでもありませんでした。

 勝ったのは3歳馬ヴァレーデラルナ。2着も同じ3歳馬のグランブリッジ
 ショウナンナデシコは3着。サルサディオーネは……9着でした。

 このJBCレディスクラシックのレース内容については、上記のニコニコ大百科のサルサディオーネの記事と、同じくショウナンナデシコの記事によくまとまってるのでご参照ください。

 引退を1年延ばしてまで掴みに行った夢が儚く散ったサルサディオーネと、女王の落日を印象付けられたショウナンナデシコ。この年バチバチにやり合い、共に牡馬を蹴散らしてダート女王の頂きを争うはずだった2頭が、共に3歳の新星2頭に蹴散らされる――。
 ハッピーエンドが約束されていない、リアルタイムで追いかける競馬のドラマの容赦のないビターエンド。
 正直、JBCレディスクラシックで力なく沈んでいくサルサ姐さんを見たときには立ち直れませんでした。ハッピーエンドが見たかった、せめて勝てなくても、ナデシコ相手に誇り高く逃げ粘るサルサ姐さんが見たかった……。

 そんな忸怩たる思いを最後に救ってくれたのが、サルサ姐さんの引退レースとなった2023年のエンプレス杯でした。

 ショウナンナデシコは一足先にフェブラリーステークスで引退し、生涯55戦の締めくくりに、南関東の左回り牝馬限定交流重賞で唯一勝てていないこのレースを選んだサルサディオーネ。
 最後まで変わらぬロケットスタートからハナを切り、捲り逃げのテリオスベルが迫ってきてもハナを譲らず逆に突き放す、その誇り高き逃げ馬の姿に、勝敗を超えて思いました。

 サルサディオーネ姐さん、ありがとう。
 貴女がいたおかげで、競馬がもっともっと好きになりました。

2023年の牝馬ダート戦線を推せ

 さて、サルサ姐さんとナデシコが引退しても競馬は続きます。
 姐さんとナデシコが去った現在の牝馬ダート戦線を牽引するのは、4歳となった前述の2頭。JBCレディスクラシックでワンツーを決めた、ヴァレーデラルナグランブリッジです。

 片や天下のノーザンファーム産、現在の日本競馬を席巻するドゥラメンテ産駒、セレクトセール1億円というバリバリのエリートであり、若手の岩田望来騎手とコンビを組むヴァレーデラルナ。
 片や日高の小さな個人牧場産、テーオーケインズと同じシニスターミニスター産駒とはいえ地味牝系で、セール落札価格は341万円という格安馬ながら、福永祐一騎手から川田将雅騎手という歴戦の名手が手綱をとるグランブリッジ。
 この対照的な2頭が、3歳からバチバチのライバルとしてやり合っているというだけで充分に楽しめるわけですが――。

 この牝馬ダート戦線を引っかき回す馬がもう1頭。穴男・江田照男とコンビを組む捲り逃げの6歳馬テリオスベルです。

 これまたニコニコ大百科が良記事なので詳しくはそちらを参照してほしいのですが、「逃げ馬なのにスタートのダッシュ力が無さ過ぎて逃げられないので、道中で捲って途中から逃げてスタミナでゴリ押す」という、あまりにも破天荒なレーススタイルの個性派。自分もその捲りを最初に見たときは「なんやこいつ」と思いましたが、過去のレースを見て、これが模索の末に編み出された最善手だという経緯を知って俄然好きになりました。
 しかも今年に入ってから、TCK女王盃→川崎記念(連闘)→エンプレス杯(中3週)→ダイオライト記念(予定・中1週)というタフすぎるローテ。普通なら繁殖入りする6歳牝馬やぞ……。
 どう考えてももっと注目されるべき馬です。テリオスベルを推せ。

 というわけで、エンプレス杯でも1~3着だったこの3頭と、フェブラリーステークスで6着に頑張った南関東の女王スピーディキックの4頭を中心に2023年の牝馬ダート戦線は回るものと思われます。

 芝に比べて注目度の低いダートの中でも、さらに注目度の低い牝馬ダート路線。しかし、一線級の馬同士のライバル対決を中心とした物語として追いかけるならば、これほど面白い路線もないのではないかと思います。
 みんなダート牝馬を推せ!!!!!牝馬ダート路線は面白いぞ!!!!

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