天の朱雀に関する一考察

はじめに

 『遙かなる時空の中で4』(以下『遙か4』と示す)のサザキについて、疑問点があった。歴代天の朱雀を並べるとその差は明確であろう。
 彼だけ異様に年齢が高いのである。
 ここで歴代天の朱雀の年齢を確認しておきたい。

1、 イノリ・・・15歳
2、 イサト・・・17歳
3、 ヒノエ・・・17歳
4、 サザキ・・・31歳
5、 チナミ・・・16歳
6、 コハク・・・17歳

 他の遙かなる時空の中でシリーズ(以下「遙かシリーズ」と示す)のキャラクターと比べて、物理的に頭一つ抜けているサザキへ対し、違和感を覚えるのは私だけであろうか。天地の朱雀は揃って年若いイメージがあったため、歴代を並べた際、彼の存在が異例的に思えてしまう。
 しかし、『遙かなる時空の中で』はシリーズごとに踏襲している点や、キャラクターの性格等で共通点が多いため、ここで異種族の彼を年齢が高いという理由で安易に疎外するのは不自然である。
 その違和感を解明すべく、まずは天の朱雀に視点を置き、疑問を独自に紐解いていこうと思う。

天の朱雀と八卦

 遙かシリーズにおける天の朱雀の特徴は次の通りである。

天の朱雀は「離」の八卦の特徴を持ち、五行属性は火にあたる
通り名はカタカナ三文字
イメージカラーは火を示す赤
性格面は離の八卦に由来する

 八卦でいうところの「離」の特徴は次の通りである。

派手好み
気まぐれ
怒りっぽい
芸能学問の才有り
短気で冷静さを欠く
表面は明るいが気が弱い
情熱家…etc

 全てが一人のキャラクターに当てはまるということは無いが、断片的に割り振るとまさしく歴代天の朱雀の特性である。

遙かにおける八卦
 遙かシリーズにおいて八卦はキャラクター作りで非常に重視されている点といえる。朱子学系統の易学における八卦の順序には「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤」と「乾・坤・震・巽・坎・離・艮・兌」の二通りがある。前者を「伏羲八卦次序(先天八卦)」、後者を「文王八卦次序(後天八卦)」という。八卦の配置は次の図を参考にされたし。
 尚、八葉が分かりやすいよう宝珠の色で色分けをしているが、本来八卦が表す色とは異なることを、ここで断っておく。

 この図を見て分かる通り、遙かシリーズで起用されているのは後天八卦である。この後天図の配置は『遙かなる時空の中でUltimate』のパッケージにも示されている。
 先天図と後天図の違いは、先述した通り作者の違いによるもので、まず「伏羲」が八卦をつくり、周の「文王」がこれに卦辞を作ったという。
 先天図は繋辞上伝にある「太極-両儀-四象-八卦」の生成論による「乾兌離震巽坎艮坤」の順序を、伏羲が天地自然に象って作った卦であり、「天」を意味する「乾」が上、「地」を意味する「坤」が下にくる配置となる。一方、後天図は『周易』(易経に記された、爻辞、卦辞、卦画に基づいた占術)における卦の配列、すなわち従来の易伝によって示された次序や方位によって卦を配列した図であり、「南」と「北」を示す「離」と「坎」が上下に配置されている。

遙かにおける五行
 八卦と同様に重視されているのが五行である。『遙かなる時空の中で3』(以下『遙か3』と示す)においては戦闘時の術の発動条件などが五行に基づいており、五行思想における五行相生・五行相剋については既に周知であるため割愛する。
 この五行思想なのだが、『遙か4』では「恵」として甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸の「十干」が加わっている。つまり、五行をそれぞれ陰と陽に分けた「陰陽五行説」を取り入れているのである。陰と陽のバランスと循環を描いたものを太極図で示すと、陰陽思想を五行に当てはめた図が次の様になる。

少年は天を示す
 さて本題に戻ろう。
 何故八卦と五行について改めて述べたかというと、『遙か4』で取り入れられている思想が、歴代の遙かシリーズとは異なるためではないかと、私の中で仮設が立ったためである。
 つまり、従来の遙かシリーズで起用している思想は「後天八卦」と「五行思想」であるが、『遙か4』に限り「先天八卦」と「陰陽五行思想」なのである。
 これに当てはめれば、何故サザキのみ歴代天の朱雀に比べて高年齢であるかが証明できる。
 まず八卦の配置であるが、天の朱雀の八卦である離は、後天図では天の位置にあたる。しかし、先天図では外れる。ならば先天図で後天図における離の位置にあたるのは何か。「乾」である。
 『遙か4』の八葉で「乾」の八卦を司る者は天の白虎の布都彦である。彼は『遙か4』において最年少の八葉である。それこそ冒頭で挙げた天の朱雀と比べても年齢に違和感が生じない。
 ここで何故天の位置に属する人物が全員年若いのかという疑問を解決しておこう。これには「少年=神の使い」という思想が絡んでいるからではないかと予想する。
 『南総里見八犬伝』(以下『八犬伝』と示す)における最年少犬士は齢九にして仁の珠を持つ犬江親兵衛仁である。「仁」とは八徳の中で一番高い徳に位置する。また、親兵衛は、幼少期に神隠しに遭い、『八犬伝』の作中で「神女」とされる伏姫の下で育つ。このことから、親兵衛は神の従属者といえる。
 八犬伝のみならず、日本では少年に美と英雄性が課せられ、壮年の男性も彼らを庇護し愛することによって人格の完成に近づくと考え続けられてきた節がある。日本の物語では、牛若丸と弁慶、豊臣秀頼と真田幸村などである。
 また美少年は揃って短命である。単に「少年である期間が短い」というだけにも捉えられるが、改めて考えると歴史上における美少年は平敦盛、源九郎義経、沖田総司など、揃って短命ではなかろうか。また彼らは時として英雄と称される。
 以前知人からこの様な話を聞いた。

「神に愛された人物は、天の使いとして地上へ下ろされ、役目を終えると同時に天へ帰る」

 人伝に聞いた話のため出典は定かでないが、印象に残っている言葉である。
 神の寵愛を受ける人物は、神から愛され過ぎるが故、早く手元へ帰されてしまう。そのため短命である。確かに現代で英雄と呼ばれる人物は、自らの役目を終えると同時に時代から姿を消している。知人が指していた人物は坂本龍馬だが、私が思い浮かべたのは『遙か3』の源九郎義経である。
 源九郎義経は主人公に「戦場は自身の居場所」と言い、戦いが終われば自分の生きる場所は無くなると吐露していた。実際に戦いが終われば、その先の時代に彼の生きる場所は無い。彼の頼朝へ対する依存ともいえる敬慕は、兄を憧れると同時に「生」への強い執着でもあったといえる。
 そして壇ノ浦の戦いに勝利し役目を終えた彼が迎えた運命はやはり「死」である。だからこそ彼は執着していた「生」ともいえる源氏を捨て、いずれ「天」へと帰る主人公を選ぶ。八艘飛び伝説を模したあの場面が遙か3における「源九郎義経の死」である。そして神の子によって天の使いであった彼は現代という神子の住む天上界へと導かれるのである。
 ところで、天の使い、所謂「天使」は何故「少年の姿」を模しているのであろうか。これは旧約、新書いずれの聖書でも、天使が男子・青年の姿とされていた影響である。天使には元来、二種類があり、現代ではあまり知られていない怪物のような姿をした存在と、人間の青年に翼が生えているような姿の存在がある。当初は翼の無いものであり、少なくとも初期キリスト教などでは、天使=翼と云うイメージはなく、後に他の地域の宗教や神話を取り込む際に発生した特徴である。
 閑話休題。翼と青年で想像するのはやはり天の朱雀である。
 『遙か3』ヒノエは翼を模した耳飾りを身に着けている。更に術にも「火翼焼尽」という技がある。加えて神職である。遙かシリーズの天の朱雀は神や天に近しい人物なのかもしれない。それについてはまた別で述べることにする。
 少年はいずれ天に帰する。この思想から、神子(=神)の従属者であり、最も天に近い位置に属する八葉は皆年若い未成年ばかりであると推測する。

最後に

 以前「無知承知」とこの非常に適当な考察をTwitter上で掲載した際、やはり八卦に対する理解が不足しているとの指摘が入った。ごもっともである。
 本来この様な考察は専門的に勉強してから書くべきなのだろう。しかし、所詮これは「自己満足のお遊びこじつけ論」である。真に受けないで欲しい。
 ただ、これが切掛けで八卦に興味を持ち、私の適当な論を覆す人間が現れたら、それはそれで面白いではないかと思い、今回は手直し無しで掲載していることを、ここに断っておく。
 そして、ここまで読んで下さった貴方に、改めてお礼申し上げる。
 お付き合いくださり、誠にありがとうございます。

おまけ


 以下、別項に示すと述べた「天の朱雀は天や神に関するのではないか」という考察だが、こじつけにも程があると判断し、執筆を中断しているため、この場で「おまけ」として記載したいと思う。
メモ書き程度の文である。鼻で笑ってくれて構わない。

イノリ
職業は鍛冶師見習い。日本神話に登場する鍛冶の神は天津麻羅(アマツマラ)という。

イサト
僧兵見習い。僧は仏道を進む者である。仏教と神子の関係については「八葉の蓮」の考察で『八葉と八犬士』に述べた通りである。神ではなく仏だが、天には関係する。

ヒノエ
先述の通り、神職。言うまでもない。

サザキ
まず名前の由来が大鷦鷯尊(オオサザキノミコト)である。仁徳天皇の名から来ている時点で天に近い人物とみなせる。加えて翼がある。

チナミ
『天空ノ糸~光芒~』というキャラクターソングがあり、身内に死者が出る。身内に死者が出るといえば、遙かの兄弟は大抵死に別れるが、その多くは天の位置に属する者ではないだろうか。「天=死」の関係性も考察すると面白そうだ。

コハク
異形者。特別な存在であることは確か。また身内に死者有り。ごめんまだルートプレイしてないから深く語れない。


……非常に浅過ぎて申し訳ない。天と死との関係性については、今後思い付きで書くかもしれない。

おまけのおまけ
今回、『遙か4』のみが先天図に当てはまると述べたが、それぞれの八卦と声優さんを当てはめたら次の図が出来た。


なんと、8人中4人の声優さんの位置が全く同じ場所なのである!

・・・・・・。

それがどうした。

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