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御礼リクエストSS①(ハジメさん類くんのお話+お役目メンバーが出てくるSS)


「類とハジメ @秋キャンプ」
※公式HP「きずなの短編 その三」を読了後にどうぞ~🌟
https://tsubasabunko.jp/trial/entry-13266.html
(↑ こちら23/12/31まで期間限定公開です)

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「あれ、そのTシャツ」
 今日のキャンプは、初心者に優しい、山小屋のお風呂つき。
 大浴場でパジャマに着替えてきたボクに、コーヒー缶を飲んでたハジメが指をさした。
 そしてボクも、パジャマ姿のハジメに、「あ」と指をさし返す。
 ボクが着てるのはレッサーパンダのイラストに動物園のロゴが入った、クソダサTシャツ。
 そしてハジメが着てるのも、まったく同じもののサイズちがい。
「う、うそ」

 ペアルック……!?

 そんな言葉を口にするのもはばかられて、ボクは絶句する。

「まさか、類くんが着てくれるとは思ってなかった」
「ボク、着がえはコレしか持ってきてないよ」
「アハハ、おれもだよ」
 ボクらはどっちも苦笑い。
 いや、ハジメのほうはビミョーにうれしそうに見える。

 知らない通りすがりのおじさんが、「兄弟仲よしだね~」とか言って通りすぎて行った。
 待てよ。ボク、さっき女湯から出てきただろ……。

 ボクは逃げるように山小屋を出て、テントに引き返す。
 その後ろを、まったく気にしてない調子でハジメがついてくる。
 
 このTシャツ、このまえ匠の家に行ったとき、みんなで着るのが……っていうか、ハジメともおそろいだって気づいたら、急に恥ずかしくなって、あの日は着なかったんだ。
 でも家に帰ってから、「せっかく買ってもらったのに、ノリが悪かったよな」って後悔して。
 せめて一回でも、人前で着ておこうと思ったら、こんなことに。
 まだ、みんなと一緒のときに着たほうが、恥ずかしくなかったよ……!

「……ハジメ。写真撮って」
 ボクはテントの前までもどってきたところで、ハジメにボソッと告げた。
 一応、考えてきたことは実行に移さなきゃ。
 スマホを渡すと、「撮っていいの!?」って、ハジメは大喜びでシャッターを切る。
 ボクはその写真を、「着た」って一言だけメッセージをそえて、薫に送信した。
 これで、この前の義理は果たしただろ。
「あとで印刷して、おれにもちょうだいよ」
「やだ。アナログめんどくさい」
 っていうか、このまぬけなTシャツすがたでハジメの部屋に写真が飾られるのが、めちゃくちゃイヤだ。
(この人、きょうだいの昔の作品やら写真やら、机の前にいっぱい貼るタイプなんだ。ボクは自分のぶん、毎回行くたびに全部はがして帰ってるけど)

 ホットココアを渡されて、ボクは両手でくるむ。
 さらに分厚いブランケットを、頭にかけられた。
「過保護」
「夜は冷えこむ季節になってきたよねぇ」
 ハジメの横顔をちらりと見て、ボクはココアを一口飲む。
 こんなお姫さまあつかいみたいなの、正直こそばゆい。
 同級生の男子にされたら、冷ややかになじってやると思うのに……。
 やだなぁ。
 ボク、ハジメに大事にされるのは、うれしいような気がしちゃうんだよ。

「今度、またあの動物園に行こうよ。で、匠とモモちゃんにも同じTシャツ送り付けてやろう」
「ええ? モモはスナオに喜びそうだけど、匠は困惑するだろ。……着てたらおもしろいけど」
「でしょ?」
 ハジメは、仏頂面でレッサーパンダTシャツを着てる弟を想像したのか、勝手に一人で笑ってる。

「ハジメって、なんでもおもしろがるよね」
「そりゃあさぁ」
 あきれ顔をするボクに、ハジメは小さな笑みを浮かべる。
「みんな、ここまでたくさん頑張ったんだから。たくさん、楽しんでほしいよ。……類くんもね」

 ハジメの声が、夜の空気に優しく響いた。
 そしてその声のつぶは、耳からボクの胸のなかに転がり入ってきて、ちかちか、あったかい光をにじませる。
 ボクは体育座りのヒザにあごを乗せ、ブランケットをギュッとかきよせた。

「ハジメもだろ」
「ん?」

 ボクの声が小さすぎたのか、聞き直されてしまった。
 どうせ暗くて見えもしないのに、ボクは熱くなった耳たぶを、ブランケットにうずめて隠す。

「がんばったのは、ハジメもだろ」

 ハジメはしばらく、ボクの横顔を眺めていた。
 そしてなんだかすごく大事なものを抱くような声色で、「そうか、そうだね」ってつぶやいた。

「でも類くん。おれは今すでに、めっちゃ楽しんでるよ」
「ウソつけ。どうせ、なんだかんだボクのためなくせに」
「そう思う?」

 ぐしゃぐしゃっとブランケットごしに髪をかきまわされた。
「やめてよ」って、大きな手を払いのけて、ハジメをにらみつける。

 ――そしたら。
 目の前にあった顔が、「みんなに優しい、みんなのお兄ちゃん」じゃなくて。なんだかホントに、楽しそうに笑ってる。
 ボクはグッと息をのみこんだ。

「…………スマホのカメラって、タイマーがついてるんだ」
「うん?」
「だから、………………二人で一緒に撮れるよ」
「へえ! すごい時代だね。さっそく撮ろうよ。あ、ちょっと寒いけど一瞬ブランケットはずしてね。せっかくおそろいだしさ」

 パアアッと目を輝かせて、ほんとこの男、何歳だよ。
 知ってるよ。どうせ、今度ミコトバの里に行ったら、ハジメの部屋の机のまえに、二人でマヌケなペアルックの写真が飾られてるんでしょ。
 それでボクはたぶん、依にからかわれるんだよな。

 ……でもきっとボクだって、わざわざプリントして、こっそり自分の机のまえに飾っちゃうんだよ。


(おわり)

 

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