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御礼リクエストSS②(矢神くんのお母さまとモモのお母さまがお話しするシーンでどんなやり取りがあったのか)

(@いみちぇん!!9章時系列)

「お嬢さまの御命を、重ねて危険にさらしたこと、お詫びのしようもございません」
 玄関先で、突然の土下座。
 私はあぜんとして、黒いつむじを見下ろした。

 彼女は「矢神タエ」。
 とてもそんな歳には見えないけれど、匠くんのお母さんだと名乗った。
 モモと匠くんは戦いを終えて、今、となりのマンションでぐっすり眠っているそうだ。
 モモには大きなケガはないけれど、また術を使ったって……!

 私はサンダルを履きもせず、家を飛びだした。
 そしてタエさんに続いて、匠くんの部屋へ飛びこむ。

「モモ!」

 ソファにモモの頭が見えた。
 一度茶色くなった髪から、また色がぬけてる。
 私はサッと青くなったけれど……、飛びつくように駆け寄って、ギクッと足を止めた。

 匠くんがソファに寄り添うように座りこみ、モモと手をつないだまま、こんこんと眠ってる。
 そして視線を移すと――、

 モモの寝顔は、……幸せそうに、ほほ笑んでるじゃないの。

 私は全身から力が抜けて、思わずその場に座りこんでしまった。

 部屋を見まわすと、テーブルセットのほうで、見覚えのない男子がココアを飲みつつ、「モモちゃんのお母さん? どもー」とにこにこしている。

 部屋に入ってきたタエさんは、改めて深々と頭を下げてきた。
 そして、これまであった事を説明してくれる。

 ……私だって、ふたたびなにかが起きているのも、そしてモモたちがまた巻き込まれているのも、薄々気がついていた。
 見れば、タエさんもボロボロだ。
 彼女だって、今回は共に戦ってきくれた後なのだろう。
 そしてモモががんばらなければ、矢神家が動いてくれなければ、たぶん、世の中は「大変」で片づけられないようなことになっていたんだろう。

 私は破れたシャツの袖口をじっと見つめてしまう。
「主家へのご挨拶に、このようなナリでご無礼をいたします。一刻も早く報告に上がらねばと考えまして」
 タエさんは腕を引っ込めつつも、まだ顔を上げない。

 ……私は、モモが小学校のころの戦いも、完全に蚊帳の外で。
 娘が危険な目にあい、命の危険にさらされるのを、眺めているしかなかった。
 そして、また今回も。
 矢神家について思うことは、たくさんある。
 許せなくて、匠くんをモモから遠ざけようとしたこともあった。
 今だって「気にしないで」とは、とても言えない。
 ……だけど。

「タエさん、顔を上げて。きっと今回も、あなたの息子さんは……匠くんは、モモを守ってくれたんでしょう。自分の命を投げ出すくらいの覚悟で」
 私は彼女の前までヒザを進めた。
「――そしてあなたも、戦いの場に、大事な息子を送り出した」
 つむじに一本、白髪を見つけてしまった。若く見えるけれど、やっぱり同世代なんだわと親近感がわいてしまう。

「私たち、ちょっぴりだけ、同じよね。くやしいのは、私はあなたとちがって、モモと一緒に戦うことができなかったって事だけど」

 私も正座で座り直し、タエさんに頭を下げる。
「モモを守りぬいてくれて、ありがとうございました」
「い、いけません! 主君が家臣に頭を低くするなんて……っ、」
 タエさんが慌てて身を乗り出し、

   ごちっ。

 私たちはおでこを激しく衝突させる。

「「……ッ!」」

「痛そぉ~」
 さっきの少年が、のほほんと笑う。

 もう、おでこにタンコブを作るなんて、何十年ぶり?
 私とタエさんは おでこを押さえたまま、至近距離で見つめ合う。
 そして、私がフッと笑ってしまったのをきっかけに、緊張しきりだったタエさんの唇も、一緒にゆるんだ。

 二人でくすくすと笑いながら、ソファの娘と息子に目をうつす。
 本当にどっちも……、やり遂げた、イイ顔だこと。
 こんなすがすがしい、満足そうな寝顔をされたら、ほんとに、なんにも言えないわよ。
 その上、ぐっすり眠ってるのに、おたがいにがっちり手を握り合ってるんだから。

「パパが見たら卒倒するかもしれないわ」
「息子が、主さまにご無礼を。ですが、……できれば、今しばらくはこのままに」
「もちろん。モモは、もう『たった一人の人』を見つけられたのよね。親の出る幕じゃないわ」

 私は母の顔で、タエさんに目をもどす。
 タエさんも矢神家の文房師の顔から、母の顔になって、小さく笑う。

「……またがんばったのね、モモ」

 起こさないように、そっと、薄い色になってしまった髪をなでる。

 親としては、胸が痛いどころじゃないけれど。
 モモが自分の人生の時間をどう使うかは、私が決められることじゃない。
 ……それに、思うの。
 もしもミコトバヅカイに目覚める世代が、あと一つ早くて、私が戦うことになっていたら。
 たぶん私も……、モモと同じようにしただろう。
 モモが経験した苦労は、わたしには分からない。この子はもう、私のずっと先を歩いているのかもしれない。
 だからこんなことを考えるのも傲慢かもしれないけれど。

 それになにより、小学校高学年から、学校がしんどそうだったこの子が、ウソみたいに友だちが増えて、人を、そして自分を信じることを覚えて、毎日を大事にして、生き生きと暮らしている。
 ……やっぱり、私にはなにも言えないわよ。

「ねぇ、タエさん? もしも私がミコトバヅカイの力に目覚めていたら。タエさんが、私のパートナーになっていたのかしら」
「……そうかもしれません。いえ、きっと、そうだったと思います」

 タエさんは突然の「もしも」の話に、ぱちぱちと目を瞬き、不思議そうに私を見つめてくる。

「そうしたら、私たちが親友になっていたかもしれないわね」

 タエさんは目を真ん丸にした。
「わたくしたちが……」
「そう。一番のパートナーに」
 にこっと笑ってみせると、彼女は少女のように、ふふっと声を立てて笑った。

「畏れ多いことを申しあげますが、それは、今からでも遅くないのでは?」
「でしょう? 私もそうかもしれないって思ったところなの。ところで、やっぱりタエさんも書道が好き?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、文通から始めましょう?」
「まぁ……、うれしい! どうしましょう。この歳になって、新しいお友達ができて、しかもそれが主さまのお母さまだなんて。里で漉いた特製の紙を、たくさん用意しておかないと」

 タエさんの頬が、バラ色に染まっていく。
 そうすると本当にあどけなくて、可愛らしい人だ。 

「タエさんとは、子育ての話もできるわね。ハジメさんに史さんに、匠くんに、依ちゃんと樹くん。五人も育てているのよね? うちは一人娘だから、すごいなぁと思ってたの」
「あと一人、きょうだいは六人でございます。真白という元気で可愛い子がおりますよ。でも下の子たちは、上の二人が育ててくれたようなものなのです。私はお役目で山にこもってばかりで、母としては失格ですので……」

 タエさんの笑みが、ほのかに翳ってしまった。
 直毘家が、お役目から遠ざかっていた数百年。
 矢神家の人たちには途方もない苦労があったのだろう。

「……タエさんの子どもたちを見れば、わかるわよ。絶対に失格なんかじゃない」

 私はタエさんの手を取った。
 彼女はハッとして私を見つめ、そして確かな力で、私の手を握り返してくれる。

「実は、ずっとお会いしたいと思っておりました」
「私も、匠くんのお母さんはどんな人なのかなって、ずっと気になってたの」

 私たちはもう一度、モモと匠くんを眺めて、うふふっと笑った。

「ところで、桜さま。初孫が産まれたら、お宮参りは東京でということになりそうですが、直毘家の氏神さまはどちらで?」

 孫!
 おっとりして見えて、話が早い!!!

「ちょ、ちょっと待って。そそそその前に、結婚式とかやるんじゃないかしらっ?」
「それもそうですね。東京と里で、やはり二回はと思うのですが……、できればわたくし、モモさまの和装も見とうございます。きっとそれはそれは愛らしくていらっしゃるだろうと……、」

 へくしょっ、へくちっ。

 熟睡してるはずの二人が、連続でくしゃみする。

 私たちはシッと人差し指を立てて、起こさないようにソファの前をじりじり離れる。

「その結婚式、オレも呼んでね~」
 モモの新しい友だちから、さっそく予約が入った。
 本人たち抜きに、私がうなずいていいものかしら。
 私が反応しそこなった瞬間、
「へくちっ!」
 モモが、絶妙のタイミングで、いい返事。

 私たち三人、今度こそエンリョなしに大笑いしてしまった。

~了~

 

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「2000フォロワッさん御礼 & いみちぇん!!読んでくれてありがとう御礼」
以上、2本お送りさせていただきました~!
(SS①はnoteの過去記事を見てね!)

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