星にねがいを! オマケ小話

#星にねがいを  ⑥北斗日本帰還後、相馬家居候中
北斗とヒヨの小話

※※※

夕方、北斗は一人で公園でバスケの練習中。
ゴールに向かって垂直跳びを繰り返している。

と、そこに学校帰りのヒヨとビヨスケが現れた。

「北斗くーん! みっけた~! やっぱココだったねっ」
「よ。――相馬は?」
「今日はクラブの日だから。真ちゃん、まだパソコンクラブ終わってなくて、さきに来ちゃった! てか北斗くん、一人でこの公園いて、だいじょぶだった?」
「なにが」
「前は、おまわりさんにホドーされそうだったじゃん」
「あー。出くわした。でも留学中って話したら、がんばれよーって応援されたわ。知らねーけど」
「ええーっ、そっかぁ。うふふっ、なんだかフシギだねぇ。ついこないだは、そんなカンジで、この公園でケンカしたりだったのにね。今はわたしたち、おさななじみ一年目だもんねっ」

にぱっと笑うヒヨに、どんな顔をしていいか分からない北斗。
とりあえず二人と一匹でベンチに座って、一休み。

「――ヒヨは、何やってたっけ、クラブ」
「(ひそひそと)天沢北斗っ、やめろビヨ! その話はふるなビヨッ」
「ハ?」
「わたし、お料理クラブだよーっ。そんでね、ぬっふっふ~♪」

 ヒヨがランドセルからいそいそ取り出したのは、

「できたてほやほやの、蒸~し~パ~ン~~ッ! 真ちゃん、先に食べててって言ってたから、食べちゃお~!」
「へー。サンキュ。オレちょうど腹へって……、」

渡された包みに、ピタッと動きを止める北斗。
ビヨスケはげっそりした顔。

「……黒くね?」
「ちょっとコゲたかな? ヨーグルト蒸しパンなんだけど。でもこれね、北斗くんバスケ選手だし、身長伸びたいだろーなって、カルシウムたっぷりにしてみたんだよ。ニボシとひじきと、納豆とチーズと干しエビとぉ」
「……へー…………」
「オレさま、止めたビヨけどな……。止めた瞬間に、ボウルにどさっと入れやがったビヨ……」

☆☆☆

「あっ、これ、けっこうヤバイかもっ⁉︎ うわっ、うわっ⁉︎」
「…………ヤバくなくはねぇよな」

 自分が錬成したものに悲鳴を上げながら食べるヒヨと、無の表情でもそもそ食べる北斗。
 ビヨスケは味見して失神。ヒクヒク震えて転がっている。

 なんとか食べ終えた北斗、この数分でやつれた顔で、ちらりとヒヨを見下ろす。
 ちまちまちまちま、大事に蒸しパンをちぎって食べる姿は、まるでヒヨコだ。
   むらっ。
 衝動に突き動かされ、北斗はガシッと手のひらで、ヒヨの頭をつかむ。
「おわぁっ⁉︎ な、なにっ?」
「あ。いや、ボールみてーに、つかみやすそうな頭だなって……」

 はずした手のひらを、ワキワキ。
 ヒヨは自分の頭を自分でつかんでみてから、彼のヒザのボールに目を向ける。
 ボールをつかんだ北斗の手は、指がグワッと開いていて、ずいぶん大きく見える。

「そうかなぁ? この前わたしね、真ちゃんの手、幼稚園の時よりずいぶん大っきくなったなーって思ったんだけどさ。北斗くんって、男子でも手が大きいほうだよね」
「あー。片手でボールつかめねぇと、コントロールに差が出るしな。けど握力があれば、親指と薬指だけでいけるようになんぜ」

手のひらを広げて見せた北斗に、目を輝かせるヒヨ。
「ホントッ? わたしもダンクシュートできるかなぁっ!? マンガで読んだよっ。リングつかんで、だーんってカッコいいやつ!」
「ダンク? 難易度高けぇぞ。オレでもまだ身長がたん、ね……」

 ヒヨにペタッと手のひらを当てられて、北斗は一瞬言葉を失う。

「あれぇ。やっぱくらべてみたら、わたし全然だねぇ?」
「ちっせぇ手……。あかんぼみてぇ」
「なんですと! わ、わたし、成長期これからだもんねっ」
「どーだか」

 いきなり立ち上がった北斗は、ベンチ前からボールを放り、見事ポストにゴールイン。

「すごぉい! わたしもやりたいっ! 真ちゃん帰ってくるまでに、わたし、かっこよくゴール決められるようになるよっ。そんで真ちゃんに『すごい!』って言ってもらう!」

 妄想の国に突入したヒヨは、北斗コーチの熱血指導により、バスケプレイヤーとして急成長。
 この公園にいつの間にかギャラリーがぎっしり集まり、敵プレイヤーはなぜか英一郎。
 ヒヨは手の大きさまで急成長して、ヨユーで片手でボールをつかみ、見事なドリブルからの、ダンクシュート!!
 満足げにうなずく北斗コーチ。
 大歓声のギャラリーの中から、真に冴子、ハルキたちが感動の涙で手を振っている。

 ――そして、現実世界。
 やる気まんまんに大きな瞳を輝かせるヒヨに、北斗、イヤな予感。
 ひくっと顔をひきつらせ、足もとに転がってたビヨスケを、つま先でこづく。

「(小声で)おい、ビヨスケ。保護者呼んでこい、保護者」
「ビヨォォッ⁉︎ めんどくせービヨッ」

「「だーーんくしゅーーーーとぉーー」」

 北斗の肩までよじのぼり、両手をプルプル伸ばすヒヨ。
 ギリギリのところでゴールリングに届いた腕で、両手でかろうじてボールを放りこむ。

 ぽすっ。

「…………えっ」

 そこに、ゼェゼェしながら駆けつけた真。
 足もとに転がってきたボール。
 状況を呑み込めず、真はアゼンと二人を眺める。

「あっ、真ちゃんっ! おかえり! 今の見た⁉︎ ダンク決めたよ!」

 ヒヨは北斗の背中からブンブン手をふり、そのヒヨをのせた北斗は、目がすわっている。

「ビヨスケ、ヒヨと天沢が緊急事態だって……」
「ケケケケッ。まちがいなくキンキュー事態ビヨォ? 相馬真にとっては」

 べしっと真の手刀で地面に叩きつけられたビヨスケ。

「保護者、やっと来たかよ。これ、返却」
 まだ息切れのおさまらない真の前に、北斗が背中を向ける。
 ヒヨはシュタッと着地。
「ダンクシュートって難しいねぇ。北斗くんと協力して、やっとだったよ」

 ヒヨのキラキラ笑顔と、北斗の疲れた顔に――。
 真は思わず、ふっと笑ってしまう。

「真ちゃん、走ってきたの? ずいぶん急いだんだね?」
「……そうだね。そんな急ぐ必要もなかったみたいだけど」
「急げや」
 北斗はハーッと大きなため息をつき、荷物をおろした肩を回す。

「つか腹へった。帰ろーぜ」
「さっきの蒸しパン、まだいっぱい残ってるよ?」
「相馬が食いてぇんじゃねぇの。今日の夕飯当番、相馬だろ? なに作るか」
「今日、真ちゃんごはんの日っ? しかも、北斗くんも作んの?」
「イソーローだしな」
 ボールを地面に突きながら、歩きだす北斗。
 その後をヒヨと真がついていく。
「ヒヨも食べていきなよ。ヒヨの蒸しパンに合うおかずにしようか」
「それは……難易度高すぎんだろ」
「ええーっ、そんなことないよ。なんかこう、パンチの効いた料理なら」
「パンチ……? ヒヨが作ったの、蒸しパンなんだよね……?」
「「たぶん」」
「――たぶん」

 そんな他愛もない話をしながら、北斗は二人を振り返る。
 メニューの選定に盛り上がる、十年来のおさななじみ二人。
 この二人の笑顔も、ひさしぶりだ。
 北斗は自然とくちびるがゆるむ。

 その二人と、夕暮れの日に伸びる影を一つにして歩く自分も――、もうたぶん、少しくらいは、おさななじみなんだろう。

~了~

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