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星追い死神のおはなし

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アルビドゥスは昔々から宙をフラフラしている高位霊リッチです。
今宵もあっちへフラフラ、こっちへフラフラ…
すると遠目に、星ではない何かが光ったのを見つけました。
なんだろうと近付いていくと、丁度死神が彷徨える魂を回収したところでした。
何をしていたのか馴れ馴れしく問うと、死神はアルビドゥスを一瞥した後、
「魂を輪廻に還したところだ」
それだけ言い、消え去ってしまいました。

アルビドゥスは自分が何だったか忘れるほど彷迷っているので、自分のような者が救われたことは理解できませんでした。
けれど、直感的に強い憧れを抱きます。
それ以来、自分でも死神を気取り、見つけた魂を天へ迎えはじめました。
しかし悪霊のアルビドゥスが迎えるのは天界ではなく宇宙の天の方で…彼に迎えられた魂は、輪廻できず星となってしまうのでした。

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偽死神の噂はすぐ死神界へ広がりました。
魂の絶対数や人間の運命が変わってしまうので看過できるものではありません。
早速、偽死神討伐部署がつくられました。
ロスマリヌスはたったひとりの現場担当。
強面のアウトローで周囲に恐れられ、よくひとりでいますが根は良い人です。
いつも上司の指示でアルビドゥスを追って戦って報告して…の忙しい日々!

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ロスマリヌスを任命したのは、高位死神シルベストリィス。
どうやら彼がたっての希望でこの部署をつくったそうで、ロスマリヌスはアウトローかつ実力者ゆえに別部署から引き抜かれたのでしょう。
シルベストは元々結社ではなく天界で、集められた魂を輪廻させる仕事に携わっていました。

無題347

天界には、シルベストと恋仲のグラナダムという死神もいました。
彼女も高位死神で、浄化できないほど汚れてしまった魂を消滅させる仕事をしています。
シルベストとは反対の性質を持つ神。
彼らの恋愛は禁じられていました。
露呈したとき、彼女はシルベストより先に私が彼を好いたと罪をかぶりました。

シルベストは輪廻を司っていながら、人間をあまり好いてはいませんでした。
グラナダムは反対に好いていました。
互いに惹かれたのは司るものへの憧れと憂いの近さゆえでしょう。
グラナダムは罰として身体を失い魂だけにされ、天界から追放されました。

運の悪いことに彼女は偽死神と出会い星にされてしまいます。
しかし高位死神の魂。
アルビドゥスは彼女を完全な星にしきれません。
星になってさえ彼女は意思を持ち続け、アルビドゥスに事の成り行きをさめざめと語りました。
感動屋のアルビドゥス、すっかり感銘を受け、彼女を人間に転生させてしまいます。

それを知らないシルベストは、彼女が星にされたことだけ伝え聞き、憤慨して結社にやって来て討伐部署をつくったのでした。

それから数年が経過します。

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アルビドゥスは地球に遊びに来たところ、川原に流れ星を見に来た女の子と出会います。
彼女を見、アルビドゥスはややあってピンときました。
あの淑やかで献身的な死神の転生後の人間が彼女でした。
いかにも元気いっぱいで、雰囲気は真反対。
しかしアルビドゥスは馴れ馴れしく話しかけ、物怖じしない彼女…ミンティーも、日数を重ねるうちにだんだん打ち解け、自分の前世を聞いてロマンチックさに想いを馳せたりするのでした。

ある日、アルビドゥスが帰っていった後。
残されたミンティーの元に、煙姿の死神が現れました。
「あなたはだあれ?」
「……クブスリ。そこらに居る普通の死神さ。奴の腐れ縁と言えばわかるかね」
彼はあの、アルビドゥスが死神に憧れる原因となった死神でした。
その後すっかり懐かれてしまい、困り者の彼の世話を仕方なしに焼いていたのです。
彼がやって来たのは、アルビドゥスに困らされた時、自分を呼べる煙草ののろしを渡すためでした。
使い方を説明すると、ミンティーがお礼を言う前にクブスリは姿を消したので、彼女も家に帰っていきます。
「……出来ればまた会うことのないように」
クブスリは空の上から遠くなる背を見下ろしていました。

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さて、ミンティーが夜な夜な何かと会っていることを突き止めたのは、日系人のハーフでおばけ研究所の所長を父に持ち、自身もおばけ探検隊をしているクラスメイト、タケルです。
唯一の隊員で友達のひとり、ディルが天体観測をしようとした夜に見つけて教えてくれたのです。
早速コンタクトを試みた結果、彼らも馴れ馴れしいアルビドゥスと友達になってしまいました。

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ディルはコンピューターが大好き。
タケルのおばけ見え~るゴーグルも彼の作品。
ミンティーも隊員に迎えて楽しくやっていたのもつかの間、ディルは病気で帰らぬ人となってしまいます。
しかし友達や趣味を急に失ったことに耐えきれず、病死課の死神エリックに頼み込んで助手にしてもらいました。

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ある日、地球でアルビドゥスをたまたま見つけたエリックが、彼を捕らえようとしているときでした。
ディルもとい、周りにバレないよう名を変えたピエールが、この場にやってきたタケルたちと再会してしまったのです。
子供たちに、少し不思議で楽しい日々がまためぐってきました。
エリックは、周囲にバレないか気が気ではありませんが…

さて、友達が出来たアルビドゥスは、地球にばかりやって来るようになりました。
それを面白そうに見ていたのが、いたずら好きの死神ペトルシカ。
彼はアルビドゥスに近づき、『生きている人間も刈って魂を沢山天に送れば、本物の死神として認めてもらえる』と吹き込みます。
アルビドゥスはすっかり本気にしてしまいました。
その日からアルビドゥスは子供達の前に姿を現さなくなりました。
その代わり、夜寝ている人間がひとり、またひとりと消えていく事件が、街で起こりはじめたのです。

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おばけ研究所の所長、タケルのお父さんアカルは、事件をいち早く聞きつけ『おばけの仕業だ』と行動開始。
友達であるディルのお父さんも発明品で協力します。
警察でも捜査がはじまっていますが、犯人の正体はさっぱり掴めていません。
アカルは警察署に乗り込んで、力を合わせて事件を解決しようと持ちかけますが、相手にしてもらえません。

一方、偽死神討伐部署…
地球で起きている怪しい事件を知ったロスマリヌスが、シルベストにそれを報告しています。
シルベストは、すぐに『調査を』と命じました。
ロスマリヌスは地球に出向き、アルビドゥスの仕業に違いないとは思ったものの、事件の起こる場所が予測不能で困りました。
ロスマリヌスは考えます。
人間と手を合わせてはどうか?

さて、ゴネにゴネて業務執行妨害で取り調べ室に入れられたアカルと、彼をどうしたものかと呆れる警察官達のもとに、ロスマリヌスが姿を現しました。
驚き慌て、銃を向ける警察官。
やっぱりおばけのせいだと騒ぐアカル。
ロスマリヌスは事情を説明しようとしましたが、場は混乱し、誰も話を聞いてくれません。
やはりだめか、と思ったその時。
「その声…もしかして、ハリー先輩ですか?」
銃を構えたまま声をかけたのは、ロスマリヌスの元部下、ビルでした。

ビルをきっかけに話がまとまり、死神と、警察署と、おばけ研究所が手を組みました。
警察は人海戦術で街に包囲網を。
アカルは、怪しい道具で犯人の出現場所を探ります。
そしてついに、寝ている人間の魂を刈ろうとしているアルビドゥスが見つけられ、ロスマリヌスは現場に直行しました。
ロスマリヌスを見たアルビドゥスは一目散に逃げ出します。
追うロスマリヌス達。
沢山の追っ手から逃げまどう中、アルビドゥスは、クブスリののろしが上がっているのを見つけました。
(クブスリだァ!きっと助けに来てくれたんだァ!)
アルビドゥスは期待と望みをかけて、のろしの方へ急ぎました。

アルビドゥスが逃げ着いたのは、あの川原でした。
そこにクブスリの姿はありません。
しかし、別の人影がありました。
タケル、ピエールもといディル、ミンティーです。
彼らは彼らで、探検隊としてこの事件を調査していました。
そしてアルビドゥスなら何か知っているかもしれないと、ミンティーの提案で、クブスリを呼ぼうとしているところだったのです。
再会を喜ぶタケル達にうろたえるアルビドゥスの元へ、ロスマリヌス、アカル、ビル達警察官が追いつきました。
逃げ場を失ったアルビドゥスをロスマリヌスが問い詰めると、彼は事件を起こした理由をもごもごと話しました。
ロスマリヌスは『それは嘘だ』と諭します。
アルビドゥスはすっかりしょげて、泣き出してしまいました。
そんな彼を連行しようとするロスマリヌスに声をかけたのが子供達。
『アルビドゥスのやったことは確かにいけないこと。でも、こんなに反省してるんだもの。星にした人達を元に戻したら、死神にしてあげてよ』
ロスマリヌスは、う~むと唸ってしまいました。

その時、上空にまばゆい光が走り、シルベストが現れ出ました。
「よくやった。仕事は終わりだ、ロスマリヌス。あとは私が、このグラナのかたきを八つ裂きに処す」
ロスマリヌスが、それはさすがにと言いかけたとき、
「やめて!」
ミンティーが飛び出します。
彼女は、アルビドゥスから聞いた自分の前世のことを、必死にシルベストに話しました。
シルベストは、彼女から感じるグラナダムの魂に、構えた武器を下ろしました。

さて、皆に謝り、星になった人々は必ず元に戻すと約束し、アルビドゥスは死神結社に連行されていきました。
偽死神討伐部署ではなくなった部屋で、シルベストはため息ひとつ、自分の武器を流れ星の鎌に改造しアルビドゥスに手渡します。
「これで星にした魂を一人残らず回収しろ。魂を元に戻すまでは、通常業務に携わってはならん 。ロスマリヌスには監視役を命ずる!」
今度はロスマリヌスが盛大にしょげる番でした。

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時は少し遡り…アルビドゥスが連れられていく前に、シルベストはピエールに気付きました。
それは、タケル、ミンティーと、ディルのお別れを意味しました。
三人は、許された少しの時間いっぱい喋り、抱きあい、最後は握手を交わしました。
「天に昇ったら、また会おうね。それまで、うんと長生きしてね」
そう言ってディルは笑顔を見せ、エリックに連れられていきました。
今度はちゃんと成仏して、新米の死神になるのです。

そして、エリックとペトルシカですが…ふたりには大量の始末書と、シルベストの長いお説教が待っていました。
それを尻目に、処分を逃れたクブスリは『次からは頭を使うんだな』と、自分の帽子を指でコンコンとやってみせたのでした。

~おしまい~

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