「アートを介して日常のコミュニティを形成する」 ソーシャル・ダイブ・スタディーズ 学環創出フォーラム01 伊藤達矢氏

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学環創出フォーラムは、有識者4名が持ち回りで東京ビエンナーレに関する研究発表をおこなうフォーラム(公開討論会)である。アートだけではなく認知科学、公民連携、美術教育などの諸分野を横断しながら、東京ビエンナーレ2020/2021について考察していく。

東京藝術大学特任准教授の伊藤達矢は大学と社会をつないでいく専門家として、アートを介してコミュニティを作っている。2012年外部設備に100億円を投じて東京都美術館(以下都美)がリニューアルオープンした際、「アートの入口となること」を掲げて美術館の中身もリニューアルした。都美が創造と共生の場となり、来訪者がアート・コミュニティを築くことで「心のゆたかさの拠り所」となるという狙いである。

美術館のあり方について、アートの専門家だけではなく様々な人たちが一緒に考えていく時代になっている。伊藤のリードで都美と藝大が連携して行っている「とびラプロジェクト」では、多様なバックグラウンドを持つメンバーが3年任期で入れ替わる。「とびラー」呼ばれる130名のアート・コミュニケーターは、毎年40名の枠に対し応募倍率9倍の人気ぶりである。アートの専門家でなかった人々は、任期満了後も独自にアートを介してそれぞれコミュニティを作り活動している。

かつてのコミュニティの中心地は1980年代に日本中に建てられた公民館だった。その結果、街が文化的になったものの、次第に活動していくグループが固定化してしまった。今や何もない畳の部屋が使われることは少ない。当時の、地縁・血縁型のコミュニティー =「誰もが誰もを知っている大きく強固なコミュニティ」は現代にはそぐわないという。

ホワイトキューブ(美術館)は非日常であり、ドキドキする情動的なものを象徴する。一方、コミュニティ(公民館)は、日常の安心を確認しに行くという役割で対照的である。アートは非日常を演出するのか、日常のコミュニティの媒介となるのか。「とびラプロジェクト」は、非日常の都美の中で、アートを介して日常のコミュニティを形成するという、これまでには見られなかった新しい活動であると感じた。これは社会の変化に伴い、進化したアートの形ではないか。

それでは東京ビエンナーレのプロジェクトはどうか?アートがどのジャンルでなんの役割をはたしているのかメタな目線を持って、70を超えるプロジェクトをできうる限り鑑賞/参加したい。

佐藤久美


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