アーツカウンシルさいたま 令和5年度事業報告会レポート -第3部-
2023年3月31日(土)、アーツカウンシルさいたま(以下ACさいたま)の令和5年度事業報告会-第3部-のレポートを第1部、第2部にひき続きご紹介します。第3部は、「市民サポーター事業」「さいたま文化発信プロジェクト<空想するさいたま>」「調査研究事業<研究アソシエイト>」についてレポートします。
芸術祭から生まれた「市民サポーター事業」
「サポーターミーティング」、「アート資源調査」について (プログラムオフィサー 三浦匡史)
2016年のさいたまトリエンナーレの閉幕後から、芸術祭で生まれた「市民サポーター」のコミュニティを支援する取り組みに関わらせていただいています。2023年度はさいたま国際芸術祭2023が開催され、市民サポーターの活動も非常に多彩で多様な展開をしました。毎月定例の「市民サポーターミーティング」は芸術祭の開催の時期に関係なく開かれていますが、芸術祭の時期になると芸術祭にフォーカスをしていきます。例えば芸術祭に参加するアーティストが市民サポーターの手を借りたいとか、リサーチを一緒にしてみたいなどという活動とマッチングをしました。また「全国芸術祭市民サポーターミーティング2023(*1)」も会期中に実施しました。
さらに「アート資源調査」は日常的に市民サポーターが活動しているプログラムの一つとして柱になってきています。
このアート資源調査は市民の身近な文化拠点になっているアート系ギャラリーやカフェのようなところへ市民サポーターが訪問し、その場所を運営している人にオープンした経緯や動機を聞き、場のことだけではなく ”ひとを取材する”という調査です。レポートは公開していて、多くの市民にその場所の存在価値を見える化し、アート資源相互のつながりと連携を深められるように行っています。2021年度にスタートして、22ケ所をまとめ、22年度は10ケ所、23年度は5ケ所についてまとめています。アート資源調査で紹介している場所はさいたま国際芸術祭2023の市民プロジェクトの会場としても活用されています。
*1 全国芸術祭市民サポーターミーティング2023:全国各地の芸術祭で活動するサポーターが一堂に会し、サポーター活動の役割や意義を共有するとともに、芸術祭開催をきっかけとする全国的規模のネットワークを形成する場。
市民サポーター事業 講評
講評 アドバイザリーボード委員長 芹沢高志さん
<コメント抜粋>
市民サポーターというのは、さいたま市の宝です。2016年のさいたまトリエンナーレの時から市民サポーターの方とお付き合いをしてきて、市民サポーターが自らどんどん活動を行っていって、三浦さんのようなオーガナイザーも出てきて、生き生きとしていて、自身も表現者のようになっていく姿を見ていると本当に頼もしいなという感じがします。この次、4回目の国際芸術祭があるとすれば、どう発展していくのかをとても楽しみに思っていて、市民サポーターが芸術祭を引っ張っていくととても面白いなという風に思っています。
講評 アドバイザリーボード委員 石上城行さん
<コメント抜粋>
2016年の「さいたまトリエンナーレ」で始まった市民サポーター組織の仕掛け人は、アドバイザリーボード委員長の芹沢さんなんです。当初、さいたま市の担当者がサポーターの説明会で、市民が主体的に活動する組織にしていきたいというプレゼンテーションをされていて、私はそんなことできるのだろうか?と思っていたのですけれども、今やもうサポーターはサポートをする存在ではなく前面にでちゃっていますよね(笑)。実際、色々なことをサポーターとしてやりつつ、助成金に応募したり、サポーター自らアイディアをバンバン出したりしています。実はこんなことになるとは夢にも思っていませんでした。
2012年頃、さいたま市文化芸術都市創造条例にかかわる会議の時に、さいたまの人は非常に多様でポテンシャルも高く、それでいて奥ゆかしいけれど、実はやる気があって静かに燃えているので、その人たちを活用していくことがさいたまの特徴を活かすのではないかという話が出ました。それがこういう形で結実していることに深い感慨を覚えますこれからどうなるのかな? とも思いますが、その辺はACさいたまのプログラムディレクターの森さんにお願いしたいと思います!
東京藝術大学との連携プロジェクト~さいたま文化発信プロジェクト「空想するさいたま」~
さいたま文化発信プロジェクト「空想するさいたま」は東京藝術大学との連携プロジェクトとして東京藝術大学でのガイダンス・レクチャーなどを重ねながら、さいたま市の文化資源である4つの「盆栽」「漫画」「人形」「鉄道」を盛り込んだデジタル作品の完成を目指すものです。ACさいたまはその作品の実現に向けて伴走支援をしていくという事業となっています。
プランのプレゼンテーションを行い、映像作品プラン2つとデジタルキュレーションプラン2つの優秀プランを選出しました。選出されたプランは以下の4作品となります。
【A】デジタルコンテンツ制作プラン
第1位:徐秋成「夢をみる、さいたま(仮)」
第2位:Zvolinsky Leonid「オーディオビジュアル作品 “Sleeping Memory” −盆栽の知覚を通してさいたまの都市の記憶を人々に伝える−」
【B】デジタルコンテンツキュレーション(展示・発表)プラン
第1位:西山夏海「memories of “life”」
第2位:吉岡雄大「SAITAMA HEARTRAIL」
今後、上記の作品の実現に向けてACさいたまが伴走支援していく予定です。事業報告会では当日出席された3名からプランのプレゼンテーションがありました。
完成した作品のお披露目の際は、ACさいたまのwebサイト、SNS等でお知らせいたしますので、どうぞお楽しみに!
さいたま文化発信プロジェクト講評アドバイザリーボード委員 講評
講評 アドバイザリーボード委員長 芹沢高志さん
<コメント抜粋>
デジタルコンテンツ作品プランは二人とも夢や眠りに興味を持っているようですが、先日、アピチャッポン・ウィーラセタクン(*2)というアーティストと話をしていて、VR(バーチャルリアリティ)と夢は割と相性がいいのではないかと思いました。なので是非作品として作って欲しいなと思います。キュレーションプランについては、場所を移動して動いていくと、位置情報に併せて音が聞こえてくるなどの再生ができる新しい形のサービスを積極的に取り込んで、まちを再発見したり、新しい物語を感じさせる、そういうツールを使っていくと、今後の可能性を感じました。ですのでこちらもぜひ作って欲しいと思いました。プレゼンテーションは非常に面白かったです。
*2 アピチャッポン・ウィーラセタクン:1970年タイ・バンコク生まれ。現在はタイ・チェンマイを活動拠点とする。1994年から短編映画やショート・ビデオの制作を始め、2000年に初の長編作品を製作。国際的な映画作家、ビジュアル・アーティストとして知られている。彼の作品は、記憶、アイデンティティ、欲望、歴史をテーマにした非直線的なストーリーテリングを特徴とする。さいたまトリエンナーレ2016参加アーティスト。
講評 アドバイザリーボード委員 石上城行さん
<コメント抜粋>
2012年頃、さいたま市文化芸術創造都市条例にかかわる会議の中で、さいたま市の特徴的な文化とは何ぞや?ということが話題となりました。その時出てきたのが「盆栽」と「鉄道」と「漫画」と「人形」でした。今回、ACさいたまの取り組みとして、若い人たちにさいたま市の4つの文化をモチーフとした、作品プランや展覧会の企画案をプレゼンテーションしていただきました。さいたま文化にかかわるレクチャーやフィールドワークを行った後、4つの企画が出てきたのかなと思いますが、厳しめな話をすると、モチーフに対する読み込みが浅いという印象です。作品を豊かに楽しむための練り込みがもう少し必要と個人的には感じています。今回はプランのプレゼンテーションなので、これからどんどんブラッシュアップしていかれると思いますけれど、そのことを心に留めて取り組んでほしいです。より質の高い作品、人の心に残る作品にするにはもう一ひねり、二ひねりいると思います。辛口で恐縮ですけれどコメントは以上です。
調査研究事業「アーツカウンシルさいたま・研究アソシエイト」がスタートしました
今年度より、さいたまの文化芸術について調査研究をする「アーツカウンシルさいたま・研究アソシエイト」がスタートしています。市民と一緒にリサーチを行うものとして、研修アソシエイトを公募をしました。令和5年度は研究テーマの決定までを行いましたので、「研究アソシエイト」として選ばれた2名から発表を行いました。
「市民コラボレーターが作るさいたまアートネットワーク調査」(研究アソシエイト 西田祥子さん)
<コメント抜粋>
私は、アートマネジメントやキュレーションなどアートに関わる企画を支援する立場で活動しています。また、同業の友人とともに結成した「アートマネージャー・ラボ」というグループでも活動しています。その仲間と以前から話していたのが、「市民サポーターの人たちって面白いよね」、「すごく濃くない?」ということです。今回そういうサポーターの皆さんの活動を掘り下げたいと応募しました。
研究タイトルは「市民コラボレーターが作るさいたまアートネットワーク調査」です。市民サポーターの皆さんの活動がさいたまの芸術を変えていっている感じがするということでサポータ―ではなく「市民コラボレーター」として、コラボレーションしているという考え方ができるのかと思っています。もう一つこの言葉に重要な気持ちを込めていて、アーティストであっても、それ以外の協力者であっても、皆さん全員が市民コラボレーターと言えるのではと思っています。こういう人達のそれぞれの思いによる活動がさいたまの文化芸術にどのように作用しているか、更に皆さんの生活と市民コラボレーターの活動がどのように繋がっているか、ということを研究したいと思います。形としてはワークショップとヒアリングの調査をしたいと思っています。
市民一人ひとりの相違や関係性の豊かさ、それがいかに地域社会に寄与しているかを検証し、示していきたいと思っています。今後もどうぞよろしくお願いします。
「さいたま市におけるオルタナティブスペースの意義とその現状」(研究アソシエイト 温盛義隆さん)
<コメント抜粋>
テーマは「さいたま市におけるオルタナティブスペースの意義とその現状」で基礎研究を考えています。さいたまの場合、アートコミュニティだったり、市民サポーター活動が盛り上がってきて、新しいアートスペースが生まれてきています。その理想の形を検証することで、新しいさいたまのアートの形が出来ていくのではないかと。オルタナティブスペースの定義も考えながら、それが生まれる時の仕組みだったり、関わるプレイヤーだったり、運営方法だったりを研究したいと思っています。具体的には現在進行形のオルタナティブスペースの事例を研究し、スペースの現状と課題、持続に向けたキーファクターの抽出・検証、これに加え、今後の新たな仕組みや運営方法を探っていきたいと思っています。期待する成果として、さいたまでオルタナティブスペースを実践していく時の参考資料となるようにと考えています。スターターキットや、ガイドを作れないかなとの思いも視野にあります。そしてこの調査研究の中で、さいたまを盛り上げていく人との新たな出会いも期待しています。よろしくお願いします。
講評 アドバイザリーボード委員 小林桂子さん
<コメント抜粋>
どちらも市民の方々の活動を調べて記録に残そうという調査研究なので、とても有益性が高いと思います。この研究アソシエイトの報告会も、沢山の方が聞きたいのではないかと思いました。一方、市民サポーターないし、ボランティアの方がどんどん自分でやっていくのは、もう自分でやっていくしか心の持ちようがないというようなこともあるでしょうし、属人性も非常に高かったりします。Aさんは出来てもBさんは出来ないというようなことも当然あると思うので、調査をされる方は大変だと思いますが、是非そういう影のある部分も拾っていただけたらと思います。拝見するのを大変楽しみにしております。
事業報告会の終わりに…
事業報告会の最後に事業報告会を終えての感想を短くいただきましたので、その一部をご紹介いたします。
プログラムオフィサー 三浦匡史
<コメント抜粋>
今年度は当初からこういう事業報告会・交流会をやりましょうと半ば決意して進めていました。というのはACさいたまを通じて活動をしてくださる方同士が横に繋がっていないなと以前から思っていて、このような機会に自分が活用した助成事業やプログラムを別の視点で活用している人たちがさいたまにいる、もしくはさいたまを外に発信しようとしている人がいるということを知る機会が刺激的な時間になるのではないかと思っていました。長時間にわたって最後まで多くの方がお話を聞いてくださったこと、本当に嬉しく思っています。
プログラムオフィサー 屋宜初音
<コメント抜粋>
発表を聞き、こんなに沢山のことをやっていたのかと改めて知るというような機会にもなりました。事務所のあるさいたま市文化センターからACさいたまが動いていく、外に出ていくということも重要なことだなと思いました。(今回はACさいたまの事務所がある文化センターではなくGAFU -gallery & space-を会場に開催した)
プログラムディレクター 森隆一郎
<コメント抜粋>
長時間に渡り、お疲れさまでした。こうやって顔を突き合わせることで、書面では伝わらない、熱量や現場の感覚などが伝わっていくのではないかなと思っていますので、今後もこういう報告会をやっていきたいなと思っています。ありがとうございました。
アドバイザリーボード委員 石上城行さん(埼玉大学教育学部 教授)
<コメント抜粋>
色々なアートがあって自由にアートに触れあえることが、アーティストやアートに関わる人達だけではなく、普段アートとの関わりが少ない人にとっても、間接的に豊かな日常を醸成する力になっている。
この事実を何とかして伝えられないか、といつも考えていますが、今回のような報告の機会を定期的に持つことによって、多くの活動が広がっていくことに大きな期待をよせています。本日は長時間ありがとうございました。
アドバイザリーボード委員 小林桂子さん(日本工業大学先進工学部情報メディア工学科 准教授)
<コメント抜粋>
色々な方の話を沢山聞けたことに御礼を申し上げたいと思います。行政にいたことがある立場で考えますと、運営側、特に行政側の人がこういう報告会に参加して、こんなにハッピーな人が沢山いるんだよということをご覧いただくのが重要だと思います。
一点、さいたま市の方針として、盆栽・鉄道・漫画・人形を含めたプロジェクトをやってくださいというのもあったと思いますが、必ずしも繋げなくてもいいのでは?アートにはさまざまなものがあるので、最初から繋げなくとも、あとから繋がってくるようなこともあるのかなと思いました。引き続きこういう場でお話を伺えると嬉しいです。ありがとうございました。
アドバイザリーボード委員 小沢剛さん(東京芸術大学 美術学部先端芸術表現科 教授)
<コメント抜粋>
ACさいたまができて、このように対面で報告会のできる時間が設けられたことはこの数年ではありえなかったことなので嬉しく思います。継続することがとても大事だと思っています。またこれから出来上がる作品のプレゼンテーションも聞けて、それを今後見られることにドキドキするし、現在進行形で研究していることも楽しみでなりません。
アドバイザリーボード委員長 芹沢高志さん(さいたま国際芸術祭2023 プロデューサー)
<コメント抜粋>
さいたま市に住んでる人は何もないって言うんですが、ある意味何でもある、何かやろうと思えば何でもできるポテンシャルを持っている所だなと思って、それがどういう風になっていくのだろうと思ってました。10年ほど経って、今日のような集まりで熱心に話し合っている姿を見て、やはりやりつづけると変わるんだなという実感をとても持ちました。そしてますますACさいたまがやらなければいけないことは多いとも思ったので、ACさいたまに期待するというか、とにかくやってくださいという思いです。実現させる手助けをするACさいたまというところがあるとなれば、市民にとっても、表現者、鑑賞者にとってもありがたい話になる。大きな期待を伝えさせていただきます。ありがとうございました。
アーツカウンシルさいたまはさいたま市の文化活動の発展を応援します!
ここまで3部構成にて、令和5年度の「アーツカウンシルさいたま・事業報告会」のレポートをお送りいたしました。当日、お集まりいただきました皆様には長時間に渡り、ご協力をいただき、本当にありがとうございました。
また令和5年度にはさいたま市民のみなさまや、アーティスト、識者の方々など様々なお立場の方からご協力をいただきましたことに改めてこのレポートの最後に感謝の言葉をお伝えしたく存じます。本当にありがとうございました。
引き続きACさいたまでは、あらゆる人に文化芸術を創造・享受する機会を提供し、心豊かに生活できるまちを創出するというビジョンに向かって、さいたまの文化活動の発展のために事業を展開して参りたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
なお、ACさいたまには、生活と文化芸術活動の橋渡し事業の一環として、相談窓口も設けております。
こちらの相談窓口フォームよりどうぞご活用ください。
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