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備忘の記:日本の絵師/画家の逸話の探し方

はじめに

絵師の逸話集めをひとつの趣味として、これまでX(旧Twitterっていちいち書かないと通じないんよ、イーロン・マスク!)のアカウント(@artistian_net)で紹介してきました。

たとえば、こんな感じです。

マニアックな趣味ですが、「逸話の探し方を知りたい」という方が少ない数でも需要は一応あるようですので、この際まとめてみたいと思います。

とはいえ、わたしもここで書いていった通りに筋道立てて逸話を集めてきたわけでありません。もっとこうしておけばよかったという後悔を生かすべく、方法論としてまとめています。よって加筆・修正が今後あるかもしれません。

タイトル通り、日本の絵師/画家(主に近現代)の逸話の探し方に絞って書いていきますが、外国人でも絵師/画家以外でも考え方など使える部分はあるので、適宜応用していただければと思います。

「逸話調べるのにそこまでする必要ある?」とドンビキされたことがあるので、覚悟をもって読める人だけ読めるように途中からは有料記事とさせていただきます。。「役に立った」でも「参考にならなかった」でもいいので感想をいただけると、うれしいです。

初級編:基本は「巨人の肩に乗る」

初級編に限らず言えることですが、基本は自分でイチから逸話を探すのではなく、「先人の積み重ねた研究成果から学んで次に生かす」方法を取ります。西洋でいうところの「巨人の肩に乗る」です。

人物逸話辞典

逸話を集めるのに一番手っ取り早い方法のひとつが、先人がすでに集めた逸話を読むこと。そんな便利な辞典があります。森銑三先生編著の『人物逸話辞典(上下巻)』『明治人物逸話辞典(上下巻)』『大正人物逸話辞典』です。

それぞれ江戸期・明治期・大正期の人物の逸話を収録。国立国会図書館のデジタルコレクション(以下、デジコレ)で読むことができます(要ユーザー登録)。
※下記URLのデジコレで「人物逸話辞典」と検索

https://dl.ndl.go.jp/

逸話収集家として嬉しいのは、一次資料(元ネタ)もしっかり記載されていること。辞典のスペースの都合上、カットされた部分も元ネタを追えば拾うことができます(後述する参考文献リスト作成のために、元ネタはメモで残すことを推奨)。森先生は主に新聞・書籍から逸話を集めていらっしゃるようです。

わたしが見た限りですが、絵師/画家に限らず美術関連で載っている人物を挙げておきます(漏れがあるかもしれませんので、下巻の巻末にある索引を参考にしてください)。以下、人物の列記は下記のルールに従って記述しています。
・カッコ付きの人物は、カッコの前の人物の逸話で登場。
・矢印付きの人物は、矢印先の名前で掲載。

『人物逸話辞典』
<上巻>亜欧堂田善→永田善吉、青木木米→木米、歌川広重→安藤広重、池大雅、池玉瀾→池大雅の妻、伊藤若冲、上田秋成(田能村竹田)、宇喜多一蕙、歌川国貞、歌川国芳(歌川芳虎)、歌川貞秀、円空、大田垣蓮月→蓮月尼、尾形乾山、尾形光琳、岡田米山人、岡本秋暉、海北友松、蠣崎波響、嵩春斎、勝川春英、勝川春章、葛飾北斎、金井烏洲、金子雪操、勝間龍水、狩野伊川、狩野山楽、狩野晴川、狩野探幽、狩野常信(狩野尚信)、韓天寿、菊池容斎、岸駒、北尾重政、久隅守景、窪俊満、鍬形蕙斎、桑山玉洲、月僊、恋川春町、高嵩谷、高芙蓉、小島老鉄(山本梅逸)、小林如泥、小堀遠州→小堀政一、酒井抱一→抱一、桜間青厓、佐竹蓬平、式亭三馬、十返舎一九、司馬江漢、松花堂昭乗、仙厓→仙崖、曾我蕭白
<下巻>高久靄厓→高久靄崖、高島千春、建部凌岱→建部綾足、橘国雄、立原杏所、田中訥言、谷文晁、田能村竹田、俵屋宗達、張月樵、月岡雪鼎、椿椿山、鉄翁祖門→鉄翁、董九如、東洲斎写楽、桃水、陶梅里、十字梅厓、長沢芦雪、永田善吉、長町竹石、耳鳥斎、野々村仁清、白隠、長谷川雪旦、英一蝶、羽川珍重、広瀬台山、風外、福田半香、福原五岳、抱一、鳥文斎栄之→細田栄之、本阿弥光悦、松下烏石(池大雅)、呉春→松村月渓、松本交山、円山応挙、三熊花顛、横田如圭→三好如圭、明月曇寧→明月、木米、望月玉蟾、山本梅逸、横谷宗珉、冷泉為恭、蓮月尼、渡辺崋山

『明治人物逸話辞典』
<上巻>青木繁、浅井忠、跡見花蹊、荒木寛畝、淡島椿岳、井上安治→井上探景、大下藤次郎、岡倉天心、岡崎雪声、荻原碌山→荻原守衛、奥原晴湖、尾崎紅葉(武内桂舟)、勝海舟(川村清雄)、加納夏雄、狩野芳崖、川上冬崖、河鍋暁斎、川辺御楯、川端玉章、川村清雄、菊池容斎、岸竹堂、北沢楽天、久保田米僊、黒田清輝、幸野楳嶺、五姓田芳柳、児玉果亭、小林永濯、小山正太郎、小林清親、小堀鞆音、柴田是真、下岡蓮杖、菅原白竜、鈴木鵞湖
<下巻>高橋由一、高村光雲(石川光明)、滝和亭、田口米作、武内桂舟、竹内栖鳳、竹内久一、田崎草雲、月岡芳年、寺崎広業、富岡鉄斎、豊原国周(河鍋暁斎、小林清親)、野口小蘋、野口幽谷、橋本雅邦(下村観山)、濱尾新(横山大観)、原田直次郎、菱田春草、日根野対山、平福穂庵、藤島武二、本田錦吉郎(小川芋銭)、正木直彦(高橋広湖)、松本楓湖、丸山晩霞、三浦乾也、右田年英、水野年方、森川杜園、森寛斎、矢野龍溪(小林清親)、山田寒山、渡辺省亭

『大正人物逸話辞典』
荒井寛方、池田蕉園、石井柏亭、今村紫紅、上村松園、岡田三郎助、岡本一平、小川芋銭、小川未明(竹久夢二、津田青楓)、梶田半古、香取秀真、川合玉堂、吉川霊華、木村武山、倉田白羊、久保田米斎、小出楢重、幸田延子、児島虎次郎、小杉放菴(倉田白羊)、小林古径、小村雪岱、小室翠雲(寺崎広業)、下村観山、竹久夢二、土田麦僊、冨田溪仙、富本憲吉、中川八郎、長塚節(平福百穂)、中村彝、橋本関雪、平福百穂(矢沢弦月、香取秀真)、松岡映丘(水野年方)、南薫造、三宅克己、森田恒友、安井曾太郎、三代安本亀八、山本鼎、湯浅一郎、横山大観(小川芋銭)、吉田博、萬鉄五郎、和田英作

ちなみに人物逸話辞典に限らず、森銑三先生の著作は逸話の宝庫ですので人物ジャンルを問わない逸話好きの方にとってはどれもおすすめです。

雅三俗四

石井研堂先生著の『雅三俗四』にも数は多くないものの、さまざまな逸話が収録されています。こちらもデジコレで読むことができます(要ユーザー登録)。『雅三俗四』には元ネタが書かれていません。なかには関係者から知り得た伝聞情報も含まれていると思われます。

掲載絵師は以下の通り。
守住貫魚、大石真虎、佐竹永海、狩野探真、田崎草雲、喜多武清、酒井抱一、菊池容斎、佐脇嵩之、渡辺崋山、大庭学仙、歌川広重→安藤広重、月岡芳年→大蘇芳年、河鍋暁斎→惺々暁斉、歌川国貞→豊国・五渡亭国貞、葛飾北斎

※デジコレで参照できない『新編雅三俗四』では亜欧堂田善も収録。

本朝画人伝

逸話収集という意味では村松梢風先生の著作『本朝画人伝』(文庫版で全八巻)も使える本です。絵師/画家の生涯が書かれており、逸話も豊富に収録されています。前述した本同様、デジコレで参照可能です。

こちらも元ネタの記載はなく、文献や関係者への取材から集めた伝聞情報も含まれているようです。読み物としても面白いのですが、元ネタとおぼしき文献と内容を比べると、話が少し盛られている場合がいくつかありました。何かで引用する際には但し書きをするか、他の文献に似た逸話が書かれていないか検証が必要かもしれません。

こちらも載っている人物を挙げておきます。巻数は文庫版に従って書いていますが、文庫版以外の場合は巻数がずれる可能性があります。
<巻一>尾形光琳、英一蝶、池大雅、与謝蕪村、円山応挙
<巻二>司馬江漢、田中訥言、酒井抱一、青木木米、田能村竹田、谷文晁
<巻三>渡辺崋山、葛飾北斎、中林竹洞、山本梅逸、安藤広重、宇喜多一蕙
<巻四>冷泉為恭、菊池容斎、狩野芳崖、狩野暁斎、平福穂庵、柴田是真
<巻五>森寛斎、幸野楳嶺、岸竹堂、田崎草雲、長井雲坪、橋本雅邦
<巻六>菱田春草、奥原晴湖、小林清親、寺崎広業、富岡鉄斎、吉川麗華
<巻七>下村観山、山元春挙、平福百穂、土田麦僊、松岡映丘、小川芋銭、竹内栖鳳
<巻八>小室翠雲、上村松園、川合玉堂、横山大観、鏑木清方

その他、逸話だけを取り扱った本は星の数ほど出ているので「逸話」「画人伝」などキーワードから探して見るのも良いでしょう。

中級編:王道よりちょっと近道を行く

これまで書いてきた方法は一見すると早道のようですが、掲載されていない絵師/画家がいますし、掲載されている絵師/画家もすべての逸話を網羅できているわけではありません。

正攻法で逸話を集めるのは、その人自体を知ることと同義。よって経歴を調べるときと同じように調査対象の人物の基本文献を押さえる必要があります。

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