自治研究第98巻第2号「処分性の定式に関する疑問ーー最高裁昭和三九年十〇月二九日判決はリーディングケースか」(興津征雄著)

司法試験で行政法の論文式試験を解くに当たって、「昭和三十九年定式」は最重要の暗記事項といって差し支えないと思われます。

私自身、司法試験受験生時代は、行政法の論文式試験で処分性が問題になれば、「昭和三十九年定式」をそのまま大前提として記載し、問題文に現れた事実を当てはめて結論を出す、という作業を何の疑いもなく行ってきたので、本論説を興味深く読みました。

「本稿の主張は、昭和三十九年最判を『確立した判例』『リーディングケース』と呼んで権威化するのをやめること」(90頁)という記載は、個人的にはかなり大胆に思われました。ただ、本論説の内容には説得力があり、確かに何の考えもなしに「昭和三十九年定式」を引用すればよいと考えるのは、実務家としてはむしろ危険だろうと感じました。

本論説が述べるとおり、教育、特に司法試験の論文式試験に関しては、ひとまず「昭和三十九年定式」に頼らざるを得ない場面もあると思われます。仮に学説上、「昭和三十九年定式」とは異なる処分性の新しい定義について通説が形成されたとしても、少なくとも出題趣旨や採点実感において新定義に言及されない限り、受験生としては新定義を大前提に持ってくることにはかなり勇気がいるでしょう。

しかし実務的にも司法試験的にも、本論説の上記主張を前提に、処分性の定義がちゃんと見直されていくのが望ましいのかもしれません。


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