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「子供を殺してください」というケツエグチ(^人^) 第19話「あるいはチーチーエグチでいっぱいの壺」

🤓:中川 乳牛(なかがわ ちうし)
精神疾患者を説得・移送する警備会社「新宿禁止センター」の経営者。
冷静沈着で頼れる男だが、喋り方が変。

(രꇴര):ミオ
違法薬物で破滅しかけていたところを中川に救われ、センターで働き出す。
仕事にはミスが多いが、喋るだけで人を安心させる才能がある。

(^人^):江口先生
今回の依頼者。智一の老母。元小学校校長で体育教師出身の脳筋。
一人息子の智一を男らしく涙禁止で育てて来た矜持がある。

(👁人👁):智一(ともかず)
狂っている。



 小便をしようと便座を上げたら、下水に溶け込んだ糞の臭いが立ち昇って鼻を突いた。新宿は日本一の人口密集地、しかもとびきりの臭い奴等が集まっている。

🤓「(……臭いな。)」

 糞と小便のエッセンスを嗅いでしかしオレは安堵した。精神科の異様に白く清潔な便所に行った後だと新宿の下水に人間味を感じる。ガキのころ近所に「俺は東京のゴミゴミした空気がイヤで吉川市に逃げて来た」なんて嘯いてたジジイがいたが、アレは精神病院に行ったことがないに違いない。
 すべてが清浄に静止した吉川よりも、穢れに満ちたこの坩堝がオレは好きだ。ヤクザ・警察、ホスト・ホス狂、風俗嬢・クソ客、美容外科医・整形狂、トー横キッズ・チー牛……どんな人種も便所と新宿でだけは変わらず同じクソッタレになる。これが神の慈悲でなければいったい何が慈悲なんだろうか?

(രꇴര)「センセ!おしっこしてるトコごめんねー、尻之内病院からおでんわー。エグチ?さんが脱走したってサ。あっ、てかさ、便座上げたらちゃんと下げといてってゆーか蓋しといて。ただでさえ臭いおトイレなのに臭いがこもるじゃんやだもー。」

🤓「(脱走だと?)」

 チャックも上げないまま便所を飛び出し電話をひったくる。

(രꇴര)「手ぐらい洗ってくんない?」

🤓「アッハイ、中川ッス。……スーッ、てかサァ❗智一が脱走したって、禁止カードだろこれェ❗それって何分ぐらい前の話なん哉ぁ❗❓」

 尻之内病院の医師がオレの口調に笑いを堪えながら説明する。オレのこと馬鹿にしてンだろ❓ 智一は昼食後、服薬を拒否して暴れる患者に人員が割かれている隙を突いて脱走したらしい。あの完全に狂っていた智一が脱走を遂行したことに驚きを禁じ得ないが、もしも智一にある程度の理性が戻っているとすると、それはそれでとても危険な事態ということになる。……智一には「悲願」がある。

🤓「警察には通報してあるんだな。わかったよ、今すぐ向かうよ。」

 電話を切り、ジャケットを羽織る。それだけでミオは察したらしく、いそいそと道具を準備し始めた。オレたちは無言で身支度を整え、地下の駐車場に向かった。

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(രꇴര)「エグチさんて確かあの、自衛隊のヒトだよね。壺にいっぱいのウンチ貯めて遊んでる。それにさ、あのウンチ確か……ねぇセンセ、高速使った方がいいよねこれ」

 ミオの駆るハイラックスが滑らかに車線を変更する。オレは車の運転とワイシャツのアイロン掛けだけはどうも苦手だ。立ち上げの頃は自分でも頑張ってみたが、どうにも向いていないので今はミオにやってもらっている。

🤓「マソユコトモアリマス。あのへん田舎じゃん。だからやっぱサァ」

 そう、あの辺は田舎だ。智一の“獲物”はそこかしこにある──オレは脳にこびりついたあの日の臭いを思い出していた。


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(^人^)「どうしても中川さんに、あの子を説得して頂きたいんです。」

 ケツ顔のわりになかなか上品な出で立ち、というのが依頼者の最初の印象だった。なんでも元は小学校の体育教師で、女だてらに校長まで勤め上げた御方だとか。しかし、服だろうか?髪だろうか?なんとも言えない不快な臭いが染み着いてしまっている。そうだ、これは新宿の便所の臭いだ。それも昔の歌舞伎町の臭いだ。オレは変に懐かしい気分になった。……ミオは客の面前なのも構わずに顔をしかめている。

(^人^)「ごめんなさい臭うでしょう……実は、お願いというのは、この臭いに纏わることなんですの。」

🤓「臭い❓部屋にウンチでも塗りたくってるん哉ぁ」

 江口先生が一瞬クスリと笑い、そしてすぐ真顔になる。オレのこと馬鹿にしてんンだろ?

(^人^)「塗るんだったらまだどれだけ良かったか・・・」

🤓「どゆことッスか❓」

 江口先生は深いため息をつき、キッと覚悟を決めたような眉をして・・・それからまた疲れた顔に戻って、口を開いた。

(^人^)「あの子は、智一はね、塗るんじゃなくて”煮る”んです。それも香辛料なんかと併せて、料理にして振る舞うんですよ。高円寺に丸眼鏡の男の人たちが集まるブリヤニ?のお店があって、そこに毎週“カレー”として持って行って売るそうなんですの。」

🤓「ウンチをカレーに❓営業停止だろこれェ❗」

(^人^)「”智一にしか出せない神秘の味だ”なんてそのお店では評判で、いろいろと批評もされてるらしいんですの。智一もよくその同人誌を持ち出しては自慢して来るのですが、なにせ材料が材料でしょう。これまでに集めたものを壺に入れて継ぎ足し継ぎ足し作っているみたいなんですが、煮込んでいる間、臭くって臭くって。家にも服にも臭いが染み着いてしまうし、ご近所にも顔向け出来ませんでしてねぇ……」

🤓「”集めて”って、自分の出した糞を❓」

(^人^)「それがね、とても大きな壺で作って毎週飛ぶように売れるものですから、どうも智一の“もの”だけではないようなんですの。まさか変なことをしていなければよいのですが……」

 江口先生がチンツな表情になって押し黙る。

(^人^)「やっぱり、嫌がるあの子をムリヤリ自衛隊に入れてしまったのがよくなかったのでしょうか。……調子のいい日には縁側に出て、昔のように穏やかにポツリポツリと話すのですが、智一は今でも時々、戦場の悪夢を見るそうなんですの。……智一は夢と言っていますが、起きながらその“夢”を見ていることもございます。」

🤓「智一の中では戦争はまだ終わっていないん哉ぁ。妄想の中でも、現実でも──まさかカレーを作る曜日は❓」

(^人^)「お気付きになりましたのね。流石は中川さん。あの子が“カレー”を煮込むのは、決まって水曜日のお昼なんです。」

 どうやらPTSDの側面もありそうだ。駆け出しの頃、よくそういう患者に出会ったが、彼等に多いのは戦時中の異常な行動を夢遊病的に繰り返す症状だった。しかし、糞を煮詰めるなんて一体どこの戦場だろう?

(^人^)「元々内向的な子でしたから、自衛隊ではあまり上手くやれなかったようなんです。それでも昔から手先の器用な子でしたし、子どもの頃から拘って、厳選した本物の食材だけを食べさせてましたでしょう?味覚というのはね、小学生の頃までに食べていたもので決まるんですの。ですから私はあの子には本物の」

 長い脱線になりそうなので、オレはリズムゲームモードになった。相手の発言が切れるまで頷き、切れたら「マソユコトモアリマス」サビでは「禁止カードだろこれェ!」と答えるだけの単調なゲームだ。このモードを使うのは患者と話している時が多い。オレのような役回りの人間が患者と適切な間合いを保つ為には、聞き過ぎない程度に聞くということが最も肝要だからだ。

(^人^)「……そういう訳でしたから、あの子は最終的には糧食班にいたそうです。元々気持ちの優しい子でしたから、自分が作ったものを食べて兵隊さんが喜んでくださるのが嬉しかったようです。しかし、御存知のとおりああいう戦争でしたから、最後のほうは十分な材料もなかったと聞いております。」

🤓「最後はまさかインド戦線にいたん哉ぁ?」

(^人^)「お察しの通りです。それはもう酷い戦争だったと、新聞やらテレビやらで見たりはしましたが、智一はどうも、インドは楽しかったとか、またインドに行きたいとか、言うのはそんなことばかりで、インド戦線での苦しい思い出を口にするのは聞いたことがございません。」

 インド帰りの男、食糧難、スパイス、カレー、そして壺にいっぱいの糞……何かが繋がりそうな感覚がしたが、しかしそれを確固として捕まえることは出来なかった。……後から考えてみればそれは、常人が思いつくには余りにナンセンス過ぎたからかもしれなかった。

(以下、ChatGPT)

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(രꇴര)「センセ、ここだね。」


 ミオの声で我に返った。ハイラックスは古びた建物の前に止まっていた。仮設公衆便所が並ぶ一角だ。夜の帳が降りる中、その中から微かに漏れる光が、不気味な雰囲気を醸し出している。


🤓「マソユコトモアリマス。行くか。」


 オレはジャケットを整え、車から降りた。ミオもすぐに続いた。公衆便所に近づくにつれ、鼻を突く悪臭が一層強くなってきた。まさに新宿の便所の臭いだ。ドアを開けると、中に智一がいた。


(👁人👁)「あぁ、中川さん……待ってたんだよ。」


 智一は目を見開き、狂気に満ちた表情で笑っていた。傍らには、大きな壺が置かれている。その中には、まるで煮物のような異様なものがぐつぐつと煮え立っている。


🤓「智一、何をしているん哉ぁ?」


(👁人👁)「見てよ、このカレー。これは僕の”作品”だ。僕だけが作れる、特別なカレーなんだよ。」


 智一は壺をかき混ぜながら、嬉しそうに語った。その匂いは、便所の臭いそのものだった。


(👁人👁)「これを食べれば、誰でも僕の”神秘の味”を体験できるんだ。」


🤓「智一、それは糞だろう?こんなものを食べさせてどうするつもりなん哉ぁ?」


(👁人👁)「わかってないなぁ、中川さん。このカレーはただの食べ物じゃないんだ。これを食べた人は、僕の内面、僕の”神秘”を感じるんだよ。丸眼鏡の男たちがそれを求めてやってくるんだ。」


🤓「お前の内面って……智一、お前は戦争の後遺症でおかしくなっているんだ。これは正気の沙汰じゃない。」


(👁人👁)「戦争……?いや、中川さん、戦争なんてもう終わってる。でも、僕の中ではまだ続いているんだ。だから、これが必要なんだ。」


 智一の言葉は支離滅裂だったが、彼が本気でそう信じていることは明らかだった。オレは彼の目を見つめながら、どうすれば彼を説得できるのかを考えた。しかし、彼の狂気は深く、その根源は簡単には揺るがないだろう。


🤓「智一、こんなことを続けても、君自身も周りの人も不幸にするだけだ。お前には治療が必要なんだ。だから一緒に病院に戻ろう。」


(👁人👁)「いやだ!僕はこのカレーを作り続けるんだ。これが僕の使命なんだ。」


 智一は壺を抱きかかえるようにして、狂気の笑みを浮かべた。その姿は痛々しく、同時に恐ろしかった。


(രꇴര)「センセ、どうするの?」


 ミオが不安そうに問いかける。オレは彼女に一瞬視線を送り、それから再び智一に向き直った。


🤓「ミオ、準備してくれ。」


 オレの指示でミオは手際よく鎮静剤を取り出し、智一に近づいた。智一はそれに気づき、警戒の目を向けた。


(👁人👁)「何をするつもりだ?」


🤓「智一、落ち着け。これはお前のためだ。」


 智一が逃げようとした瞬間、ミオが素早く動き、注射を打ち込んだ。智一は抵抗しようとしたが、徐々に力を失い、やがてその場に崩れ落ちた。


🤓「これで大丈夫だ。病院に戻ろう。」


 オレとミオは智一を車に運び込み、病院へと向かった。車内では、智一が再び正気を取り戻せるよう、彼の過去や苦しみについて話し合った。彼が再び正常な生活を送れるように、全力で支援する決意を固めた。


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 数週間後、智一は治療を受けながら、少しずつ回復の兆しを見せ始めた。彼が再び社会に戻れるようになるには時間がかかるだろうが、その道筋が見えてきたことに、オレたちは安堵した。江口先生もまた、息子が再び正常な生活を取り戻せる日を待ち望んでいる。


 新宿の臭いも、彼にとっては過去のものとなりつつある。彼が再び明るい未来を歩めるよう、オレたちは引き続き彼を見守っていくつもりだ。


 夜が明け、新たな一日が始まる。オレたちは次の依頼に向けて、再び歩みを進めるのだった。

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