クリエイターのための経営とお金の話■ 第14回〈特別編〉コロナの時代のクリエイターの働き方 by福島隆嗣(株式会社プラスグラ フ代表)

※アルテスの出版活動を支えて下さる「フレンズ(無料)」と「サポーター(有料)」会員のみなさんには毎月1回メールマガジンを配信しています。今月はその中から、アルテスが日頃財務・経理でお世話になっている株式会社プラスグラフ代表の福島隆嗣さんの連載「クリエイターのための経営とお金の話」を特別公開します。フリーランス/個人事業主/法人として活動するクリエイターは、ウィルス禍のなかで何をどう考え、どう対応したらよいのか。ぜひ参考にしてください。

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今回の新型コロナウィルス感染拡大を受けて、緊急事態宣言が発出されたことによる外出自粛で、さまざまな業種において多くの事業者の売上が減少し、資金繰りに行きづまって経営危機という局面をむかえています。東京商工リサーチによると、感染拡大の影響で倒産した企業件数は、4月末までの時点で109件にのぼるようです。
ただこの数字には、たとえば個人事業主や正式な破産手続き等をおこなっていない事業者は含まれていないはずなので、実態としてはもっと多くの事業者が経営破綻していることが想像でき、その数は今後さらに増加していくのではないかと思われます。
クリエイターにとっても、もちろん影響・損失は大きく、私のクライアントもじっさい数カ月前とはまったく違う状況になっていて、今後どのようにこの危機を乗り越えていくか、私どもも各クライアントの対策に追われている日々です。
おおかたの予想どおり5月末に緊急事態宣言が解除されたとしても、新型コロナウィルスの感染拡大がじっさいに収束するのはまだ先の話でしょう。これからの経営環境は大きく変化し、確実にいままでとは違う状況を迎えます。今回は「特別編」として、この時代にどのような考え、戦略をもって進んでいけばよいか、今後のクリエイターの働き方、経営者としての心がまえについて考えてみたいと思います。

私も20年近く、お金という視点で経営者のみなさんをサポートしてきましたが、正直「このような状況を見るのははじめて」というのが本音です。ですから、いまこの時点で確実に有効な手段を知っているわけではありません。ただ、なにごとにおいても現在の状況を整理して、「このあと何をすべきか」をあるていど明確にする作業が必ず必要になります。そこで取り組むべきことは大きく2つに分かれます。

第1に、短期的に取り組む必要のある「資金繰り」の問題。
第2に、今後の状況を予測して「どのように変化しなければならないか」という、いわばスタイルチェンジの模索です。

まずはいまの状況を一度整理してみようと思います。
まずは第1の課題──目の前にある「資金繰り」の問題から考えていきましょう。クリエイターにとって「資金繰り」というのは、飲食業といった業種の現金商売とは少し性質が違って、資金に影響が出はじめる時期が少しズレることが多いのですが、おそらく3、4月あたりから案件が止まったりして売上請求が減少し、おそらく5月以降くらいから入金が減って、本格的に資金繰りに影響がでてくると思われます。以前の連載でも最低限の貯蓄というものが重要であるとお話ししてきましたが、現状としてはそこまで余裕のある方は一部だと思います。あたりまえのことですが資金が続かなければ経営は終わりです。ですから、まずはこの「資金繰り」の問題を解決することが、短期的にはもっとも大きな課題です。

多少手もとにお金があるとしても、「しばらくはしのげるからいまは大丈夫」「いまのところは案件が止まっていないから大丈夫」とは思わないほうが賢明です。
なぜなら、長期的に見た場合、2つめの課題──「どのように変化しなければならないか」ということがポイントになってくるのですが、おそらくクリエイターだけでなく、多くの事業者がいままでのやり方では生き残ることができず、これまでにない大きな変化を求められることになると思います。先のことはわかりませんが、少なくとも厳しい状況が続くことをあらかじめ想定して、それに対応するべくスタイルを変化させられるように、自身の仕事を見つめなおす作業が必要であり、その作業にはそうとうな時間をかけることが重要ではないかと思うからです。間違っても楽観視だけはせず、厳しく状況をとらえたほうが健全です。
「資金繰り」の問題を解決させることは、経営をストップさせないために優先的に手を打つべき短期的な課題であるというだけでなく、今後の経営環境の変化に対応するために、じっくりと考える期間をもうけるための方策でもあるのです。

資金繰り安定の手段としてとるべきは、具体的には融資一択でよいと思います。ご存じの方が多いとは思いますが、このタイミングで、自治体や日本政策金融公庫による新型コロナウィルス関連の特別貸付、経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)などが比較的よい条件で充実してきているので、それらを活用することをおすすめします。
また、フリーランスで最大100万円、中小企業では最大200万円という「持続化給付金」をはじめ、給付金や助成金を得られる支援制度もあります。このあたりも定期的にチェックして活用すべきです。とはいっても、基本的には「国や政府は何もしてくれない」と思っていてください。アテにするのは危険です。経営のすべての責任は自分にあります。日常から「自分でなんとかする」くらいの気持ちでいてください。こういった給付金や助成金は、「もらえればラッキー」くらいの半身の体勢で待ちかまえるくらいのスタンスでいることが大切です。

まずは「資金繰り」の問題を解決するためにどれくらいの金額を工面したらよいのでしょうか。具体的な金額はそれぞれの事業規模にもよりますが、最低でも1年は何もしなくても維持できるくらいの資金を手もとに用意することが大切です。それはとりもなおさず、2つ目の課題──今後の状況を予測して「どのように変化しなければならないか」を考えることに精一杯の時間をかけていただきたいからです。じっくりと思考すべき時間に、片方でいつも「資金繰り」の問題に頭を悩ましているようでは、どうしても集中して考えることができません。人はそこまで器用ではないはずです。融資でも給付金でもよいですから、できるだけ手もとの資金を多くすることにまず注力してください。

では次に、「今後の状況に合わせて、自分がどう変化していくか」という課題を考えます。この問題を考えるにあたって、経営者として何を心がけるべきでしょうか。
現在、予定していたさまざまな案件が中止になったり延期になったりして、経営に多大な影響がでていることでしょう。おそらく「今後いつまでこの状況が続くのか?」「普段どおりの仕事ができる時期がまた訪れるのか?」といった不安や疑問、あるいは「いまの業種で大丈夫なのか?」と経営の根本にかかわる危機感をもっている方も多いと思います。
明確な答えではありませんが、私はこの危機に対しては、まず「プラスに考える」ことが大事なのではないかと考えています。

クリエイターなら直感的にわかっておられることだと思いますが、どんな業種でもまったく変化をしないでいれば、いつかは淘汰されていきます。ましてやこのご時世、そのサイクルも早くなっています。この機会に、いままで仕事をするうえで抱えてきた問題や、断ち切れなかったしがらみ、できればやめたいと思っていたこと、先延ばしにしてきた問題などを整理してみてはいかがでしょうか。ピンチはチャンス。ビジネスをいったんリセットするきっかけをいま与えられたと考えてみてください。危機をチャンスとして「自分がどのように変化しなければならないか」に前向きに向き合ってみてください。それこそが、スタイルチェンジが成功するかどうかの重要なポイントなのです。

繰り返しになりますが、直近の課題である「資金繰り」は、融資や給付を受けることでできるだけ短期的に解決してください。それよりも大切なのは、長期的な視点で考えることです。「自分が今後どのように変化しなければならないか」を考え抜くこと。その作業に時間をかけること、前向きに向き合うことが大切です。
具体的にどういったことを考えていくべきか、私自身も考えてみたいと思います。

◎福島隆嗣(ふくしま・たかつぐ)
1976年大阪府生まれ。2000年大阪芸術大学芸術学部卒業。会計事務所、広告制作会社を経て、2007年に株式会社プラスグラフを設立。
デザイナーや編集者、ライターやカメラマンといったクリエイターの会計サポートやプランニング、専門家への代理対応など、 お金関連のディレクションをおこなうマネージャー&エージェントとして 数多くのクリエイターのマネジメントを支援する。
WEB: http://www.plusgraph.co.jp
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