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フランス私的色彩帳

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身体を満たすもの

今、わたしの身体は完全に南仏の強い陽射しと、濃い青色の絵の具を何度も重ね塗りしたような空と、透き通る水色のゼリーのような海とでできている。 恵まれた地中海性気候、季節ごとのそれはそれは濃い色が中身にもそのままギュッとつまったかのような味わいの有機野菜や果物、朝獲れの魚、新鮮な肉。地元の旬の食材を食べて暮らすこと、それはこの土地に住む醍醐味である。 春が始まり初夏にかけて、ニースの市場はパチパチとはじけんばかりの水々しい食材で溢れ出す。生で食べるとその甘さが口いっぱいに広がる

欠片、何かを呼び起こす瞬間

ピカリと鈍い銀色に光る冷蔵庫の中にその大きな体ごと中までどんどん入っていくんじゃないかと思うほど、ごそごそと頭を突っ込んでスタンが長い間何かを探している。 料理をするからみんなでワインでも飲もうよと、久しぶりにフランスへ帰ってきたスタンから呼ばれ、気の置けない仲間で集まるまだ日中の明るさの名残が残る夜の始め。 朝の市場で調達してきたという食材をどしどしとキッチンの作業台に並べていくスタンの手つきは、無造作でいてけして乱暴ではなく、心地の良いリズムにのっているかのようななめ