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【僕たちのディベート甲子園2018】ツイッターで見るジャッジの頭の中~2018年ディベート甲子園高校決勝編~創価高校VS開智高校

先日閉幕した第23回ディベート甲子園。ディベートの醍醐味の1つに同じ試合を見ていても人によって判定で異なるところがある。というのがあります。不平等じゃないかと思う人もいるかもしれませんが、教育としてはまさにここがポイントでして、どこで判定が割れる要素があったのかを知る事で議論の構造や価値対立を知る事で次のステージに上がっていけます。

ネット上では様々なディベーターが中高の決勝についてご自身の感想や反応を書いておられます。しかし、ツイッターなどはどうしてもTLで流れてしまいます。それは勿体ないので、Art of Argumentでは、ツイッターで流れた現役ジャッジ達の中高決勝に関する判定や感想などを取り上げてみました。

おかげさまで中学決勝に関して、多くの方が視聴してくださいました。好評につき、今回は高校決勝となります。

※中学決勝は以下より閲覧可能ください。
【僕たちのディベート甲子園2018】ツイッターで見るジャッジの頭の中~2018年ディベート甲子園中学決勝編~出水中学VS開成中

まず、まだ高校決勝の試合を見ていないよという人は下記よりご覧になる事ができますので、解説を見る前にぜひご覧いただき、まずはご自身で判定を出してみてください。

第23回ディベート甲子園 高校の部 決勝
第23回ディベート甲子園 高校決勝 結果発表

なお、はじめてディベートをご覧になるという方は、下記の記事をご参照の上でご覧になることをお勧めします。
ディベート観戦のススメ~試合に出ずにディベート甲子園を楽しむには~

ディベート甲子園高校決勝について
肯定側:創価高校 VS 否定側:開智高校

No.1 うに丼県2018村さん
中学決勝と同様に試合を見終わった後に丁寧に判定をまとめてくれているので、試合後の判定を聞くようなツイートになります。各議論の分かれ目や試合全体に感想などまんべんなく記載されています。

うに丼県2018村さん
議論が様々散らばっていますので少し考えはするものの投票は否定側。否定側が圧倒している論点があるとも言えないのですが、それぞれの論点で否定側が微差で上回っている印象で、議論を整理すると割と否定側に投票しやすい試合という感想です。

実況中もそれっぽくツイートしていましたが、この試合、結果としては事例というよりはシステムに関する判断を求められる展開になったように感じます。その中で肯定側はプラン前後の差分がかなり曖昧だった一方、否定側は少なくとも差分をクリアに出せている点、否定側に入れやすい試合展開です。

メリットは①ねじれなくなる、②短命政権でなくなる、が主な論点ですが、否定側からそれなりに本質的な疑問が呈されており明確に回答しきれておらず、残りはするが小さい ・野党も何でも抵抗するわけでもないし、実例として依拠していた児童福祉法も、単独ではそこまで困っていなさそうな雰囲気

短命政権も、1NRで提示された、「その程度の任期延長で何ができるようになるのか」という論点は割と素通しだし、解決性2への反駁であった、現状でも参議院選挙での投票行動が政権評価である、という観点も一定認められると判断。

重要性1も1NRで受けた松尾への再反論が弱い。結果、
①迅速な行動 → 内因性の児童福祉法と重要性のグローバル化の対応関係が微妙でイニシャルで評価しづらく、児童福祉法事例もインパクト小さく、さらに野党もそこまで足を引っ張る姿勢一辺倒でもないとなれば、優先すべき必要性が強くとれない

②短命政権 → 現状でも参議院選挙がひとつの評価であることを直接的に否定できておらず、またプラン前後の任期の差分で何が変わるのかが示されていないのでメリットとして評価が難しい。財政がよくなる、という事例ベースは肯定側自体が応答で強く打ち出していないのでそれを重くとることも困難。

ということでメリットは無いわけでは無いが、強く評価することは難しい、との整理。つづいてデメリット。

デメリットは要するに幅広く意見を汲み取ることが大事、というシンプルな話。肯定側からのチャレンジは3点あったので順にみていくと:

① 意見を汲み取ると悪い法案になる → あくまで一例で、否定側が掲げているシステムの価値を崩せていない、また、スピーチの早さも影響してか、多くの意見を汲み取ることがなぜ悪かったのかもよくわからない(少なくとも、多くの意見を汲み取ることがシステム的によくない、とまでは評価できない

② 安保法案は参議院通過後も納得していない → 否定側のストーリーは国民の納得という点にあまり価値をおいていないので、この反駁があったからといって否定側のストーリーへの影響は小さい

③ プラン後は慎重に運営するようになる → 一定話はわかるが、ここは2NRの再反論が丁寧だった。「与党の緊張感というようなものに頼るのではなく、システムで止めるべき」という主張は、否定側の立論からのスタンスとも一貫しており、デメリットの価値を損なうものではないと判断するには十分

④ 結論、肯定側からのチャレンジは、参議院の存在により、全部の法案が良くなるとは限らないという留保は付与したが、デメリットのストーリーを大きく削らない。 また、重大な問題は与野党の枠組みを超えた多数党の合意があるべきというスタンスもそのまま残っており、システムを維持する価値はある

メリットとデメリットを比較して、システムとしても具体的に何が変わるのか不透明、かつ取り返しがつかない状況も生み出しうるメリットよりは、具体的な法案ベースでどう機能しているかまでは明確ではないが、多くの意見を吸収しやすいシステムを維持することを優先すべきと判断、否定側に投票。

オフセットよりは若干否定側よりのNeg、という感じなので、デメリットもそこまで大きくは評価できないが、それ以上にメリットが小さい、というところです。

試合全体の感想としては、よりシステムに振り切り、自分たちがすべき話をわかりやすく、シンプルにした分、否定側がメッセージをきちんと伝えきり、システム同士の比較にも時間を使えたあたりが、双方の差になったと見ています。

肯定側は、システム押しとしながらも、実例的な話もアピールしたそうな雰囲気もありましたし、また反駁含めた試合運びが、否定側と比べて少し一貫性に欠いていた気がします。特に、相手の議論の肝が事例ではなくシステムであることを想定した反駁になっていたか、という点は気になりました。

否定側は最初から枠組み一本で勝負するつもりと見えました。質疑で解決性2は個別の事例に着目するものではないとの応答を引き出し、反駁は事例にも触れつつ枠組み部分も適切に疑問を提示し、2NRの再反駁も「システムとして」という方針で一貫していた。全員が方針をよく理解しているように見えました。

この論題はシーズン途中まで、とりあえず道路特定財源の事例が出る試合ばかりだったところ、決勝はお互いがシステムに中心に据えた議論を構成していたのは非常に印象的でした。未完成の部分もあったと思いますが、あと1ヶ月後、せめてあと2週間後の彼らの議論を見てみたかったと心から思いました。

決勝戦は中高ともに、印象に残るポイントこそ異なるものの、「これは決勝戦だなぁ」と感じるにふさわしい、良い試合だったなぁと思います。普段とは全く異なる緊張感だったと思いますが、その中で、素晴らしいパフォーマンスを発揮された選手の皆様には頭が下がります。ありがとうございました。

No.2 匿名アカウントさん
鍵垢なので、匿名となります。端的に一言で述べられている点が特徴です。ストーリーとして否定側が分かりやすかったという点は、さらりと書いていますが、これはこの試合のみならず、非常に接戦、拡散した試合で焦点がぼやけた際には重要な投票理由になる考えであり、判定における一つの定石ともいえる気がします。

ディベート甲子園中高の決勝を今更聞いたけど、自分ならどちらもNeg投票。中学の肯定側は解決性やアタックの議論が相手をどう上回っているか丁寧に説明できれば勝機がありそうな試合でした。高校はネガの慎重に合意を得る必要があると言う価値観にアタックできておらず、1反まででほぼ投票が決定。

高校の方は元々ぼんやりとしていた内因性が1NRによってかなり削られていたのも痛いかなと思いました。その分デメリットの慎重に合意を形成すべきという話の方が、肯定側のアタックを受けつつも相対的にストーリーとして分かりやすくなったのかなと思います。

NO.3 いちご姫さん
こちらも公開アカウントです。試合に関しての詳細な解説は、いちご姫さんの知り合いの方が中学に続いて、blogで書くそうですので、ここでは質問箱で高校決勝に関して、いちご姫さんに寄せられた質問とその回答を一問一答形式で紹介します。

Q:否定側質疑への感想
A:どう思うかと言われても困るところはありますが、うまく議論を確認できているところもあって仕事をしていたと思います。こうすれば…というのは傍目から見ると色々ありますが、質疑は実際やってみると難しいですからね。

Q:否定側第1反駁への感想
A:ねじれの頻度など意味の薄い反論はあったものの、それなりにプレッシャーをかけていて、決勝進出しただけのことはあると思います。決勝については実際審判をした知り合いが別のところで感想を書く予定だそうです。

Q:否定側第2反駁への評価
A:あの試合でのベスディベは彼だろうと思います。もちろん改善の余地はあって、例えば、今後日本で課題となるのは何で、そこでどんな議論が期待され、一院と二院でどう議論が変わって行くのかをより丁寧に整理して欲しかったです。が、十分機能した2NRでした。

No.5 はぐれひさりん純情派さん
公開アカウントです。非常にコンパクトかつ濃密にまとめてくれている講評です。ここでもストーリーという言葉が使われています。議論が拡散したしまい、焦点がぼやけてしまった際における重要な視点である事が、改めて感じられます。

高校1)自分なら否定側に投票。まずメリットについて、反駁の応酬も加味して考えていくと、特定の政策が通らなくてすごく困っているとは判断しづらい。一方で、重要性1の反駁、デメリットスタンスなどで言われているような即断しない方がよい領域というものはありそうなので、投票理由にし難い。

高校2)政権の長期化は、立論段階で「ある程度やってみて、それから判断する」というモデルであることはわかったが、そのモデルがなぜ望ましいのかの説明が今ひとつなく、ねじれもまた政権選択だという議論にも応答仕切れていないので乗りづらい(2ARの、「この道しかない」に乗れないのも同理由)。

高校3)デメリットについて、立論段階から、なんとなく少数派の意見は採用されていそうなものの、実際どういう風に反映されているかなどは見えにくいところはあるが、ストーリーは理解できる。

高校4)派遣法の事例のアタックについては、「ダメな時もある」ことはわかったものの、頻発していることや、否定側のシステムに潜む構造的要因の指摘もないので、デメリットのストーリーを否定するには至っていない。

高校5)まとめると、否定側が何らか幅広い合意を生み出し(スタンスで言うような)「コロコロ変わりにくい」システムが現状あり、望ましい側面があるのに対して、肯定側はなぜ速さが必要なのか、政権交代を通じた政権評価サイクルが望ましいかが分からず、だとすれば現状維持で良いのでは?という判断。

同じサイドへの投票でも色々な考えがある

今回は同じサイドに入れたジャッジであっても、微妙な違いが出ている事がツイートからも明らかです。よりディベートが上手になりたいと思っている方であれば、中学の記事でも記載しましたが、この微妙な違いがどこから起因しているのか、どうすればその論点で評価が割れないようにできるのかといった点について考える事が重要になるかと思います。

教材としての試合

今回、中学と高校の決勝における様々なジャッジの見解を紹介しました。このように良い試合はそれ自体が非常に優れた教材となります。オフシーズンにおいては、このような良質な試合を教材として、じっくり時間をかけて分析し、どのようにすればよかったのかを検証する、将棋でいうところの感想戦を実施し、そこから得られた教訓を他の試合でも展開可能なレベルにまで、自分のものにしていく事は極めて有益なトレーニングになります。

こうした1つの事例を抽象化させて、ある程度普遍的な枠組みとして捉えるというのは、まさに今回の一院制の議論展開に通じるところがあるでしょう。ぜひ、選手の皆様は実践してみてください。

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