フリージア
夢を見た。猫と心がいる夢だ。
ねえ、心、もう少し、私の言うこと聞いても良いと思うんだけど
猫は言った。心は意固地になって、石のようにだんまりを決め込んでいる。
ねえ、ねえっえば
猫は心を揺すってみた。心は相も変わらず、ぴくりともしない。
はあーっ
猫はため息を吐いた。つもりだったが、そのため息はどういうわけか心から吐かれていった。
しくしく
猫は涙を流してみた。やはりその涙は心から流れ出た。
にゃー
猫は笑ってみた。しかし心は、泣いたままだった。
にゃははは
今度はもっと大笑いしてみた。それでも心は泣き止まず、涙が落ちるたび、少しずつ萎んでいるように見えた。
猫はどうしたらよいかわからなくなって、心を引っ叩いた。心は石のようにかたいまま、臓器のように柔らかくなった。流れる涙は赤く染まっていった。
心を引っ叩くたび、猫は自分自身の体にも痛みを感じた。それでも、どうしても心を叩かなければいけない気がして、手を止めることができなかった。
もうこれ以上小さくなれないくらいに心が小さく萎んだとき、ジェット機のような轟音の叫びが空から降ってきた。
ほんとうは寂しいだけだったんだ
その瞬間、猫はすべてを理解した。
引っ叩き続けた手を止め、心を精一杯抱きしめてやった。
猫の腕の中で心は鋭く赤く光り、刹那の後、猫もろとも消えた。
ふたりはようやくひとつになって、そしてゼロになった。
夢から醒めた私は、花屋へ向かった。
黄色い花を一輪ください
部屋に戻ると、青い花瓶にそっとその花を挿してやった。フリージアは、猫と私を弔うように凛と香っていた。
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