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フェミニズム&アート研究プロジェクト 第1回研究会「アートとアーカイヴ」:イントロ&議論要旨

         フェミニズム&アート研究プロジェクト
      第1回研究会「アートとアーカイヴ」:イントロ&議論要旨

                               北原恵
 
 2021年8月7日、フェミニズム&アート研究プロジェクトによる第1回目の研究会がZoomで開催された。テーマは、「アートとアーカイヴ」である。本プロジェクトが柱のひとつとしているアーカイヴ構築に向けて、同様の取り組みを行なっているグループの経験を学ぶため企画された。
2時間半に及ぶ研究会では、5人の発表に続いて活発な議論が行われた。(各自の発表概要を参照。)まず、中嶋泉(大阪大学・日本学教員)によって、2021年春に設立された「フェミニズム&アート研究プロジェクト」の紹介と、第1回研究会の趣旨説明があり、以下の5人の研究者やアーティストが発表した。司会は、発表時は北原恵(大阪大学・表象文化論)、質疑応答では中西美穂が担当した。

①「IPAMIAの活動」 山岡さ希子(IPAMIA主宰)
②「WAN 1995-2004について」 中西美穂(大阪アーツ・カウンシル統括責任者)
③「Timeline Project」 長倉友紀子&渡辺泰子(Timeline Project主宰)
④「韓国の芸術関連アーカイヴ」 徐潤雅(立命館大学コリア研究センター)
⑤「AWAREの活動」 中嶋泉(大阪大学・美術史)

議論では、アーカイヴの主宰者たちが語った、プロジェクトを始めた理由やきっかけ、参考にした他のアーカイヴ、資金、困難だったこと、著作権、今後の課題など、多岐にわたる発表内容について、質問が飛んだ。
WANやうぱおなど近年の女性アーティスト団体の活動を紹介した中西美穂は、アーティストごとの分類だけでは団体の活動が見えにくくなると述べ、既存のアーカイヴの限界や陥穽を指摘した。情報収集をどのように行うのかは、そのアーカイヴの特徴を決定づける。女性アーティストをめぐる出来事を可視化するため年表を作成しているTimeline Projectの長倉友紀子と渡辺泰子は、どこででも入手できる書籍情報を基に年表化の作業を開始し、さらに一般公募による情報収集へと広げた。そのことによって歴史からこぼれ落ちる人々を取り込むことができるが、基準が曖昧で情報の偏りを生む危険性もはらんでいる。
また、韓国の美術関連のアーカイヴを調査した徐潤雅は、何をアーカイヴとして記録・保存するのか、という根本的な前提を問うた。それは、対象を「女性」に限定するのか? 「女性」とは誰か?――という問題に及ぶ。パフォーマンス・アーティストの山岡さ希子は、自らが主宰するIPAMIAでは扱うアーティストの男女比は半々であり、LGBTも含まれ、特に男女で区別する必要は感じないという。からだを使うパフォーマンスアートは、必然的にジェンダーの問題を考えざるを得ず、インディペンデントでアーティスト自身が主宰し、あえて作品の評価基準を設けないことにIPAMIAの特徴はあると述べた。
一方、中嶋泉によれば、フランスで設立され、世界各地の女性美術家に関するアーカイヴ活動を行っているAWAREの基準は、何を持って女性アーティストとするかという議論に支えられているものではないという。AWAREでは、対象の選出やコンテンツ作りは、統一されたフォーマットで情報を得る仕組みがあるため、大規模なアーカイヴの構築も効率的に作業が進む一方、様々な問題も生む。現状ではアジアや南米・アフリカなどの非西洋圏が手薄である(AWAREの11参加国のうち、アジアからは日本の中嶋泉一人)。
さらに、参加者のアーキビストからは、せっかくアーカイヴを作っても利用者の少ないものも多いので、情報が流通しやすいように国際的なフォーマットを用いて書誌情報の項目を入力する必要があるという具体的なアドバイスもあった。以上のように第1回研究会は、クローズドでの開催であったので、忌憚のない意見交換とそれぞれが抱える問題を共有し検討することができた。

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