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◆アロマの本、読みました~『日本の森から生まれたアロマ』稲本正・著

アロマテラピーはヨーロッパで本格的に始まった自然療法ですが、最近では、日本各地で、日本産の精油が採れるようになり、より日本人に合ったアロマテラピーの基材の製造や活用が行われるようになってきました。

そんな中でも、飛騨高山は、森林保全の活動の一環として、早くから間伐材などを利用して、地場産の精油(エッセンシャルオイル)の採取に着手し、日本の風土に根差したアロマテラピー実践の先駆地、といえるでしょう。

この本の著者、稲本正さんは、その飛騨高山で日本産精油および植物油を生産し、「日本産アロマ」を提唱しました。その道のりは決して平坦ではなく、試行錯誤の連続だったとのことです。それでも精油の生産をあきらめなかった、その理由を稲本さんは、

「ひたすら、木が好きで森が好きで植物が好き」

というシンプルな言葉で語られています。

アロマテラピーはたしかに「香り」によって人を癒す自然療法ですが、その「香り」も、原料となる植物の存在がその前提としてあるのは自明のことです。しかしその「自明のこと」が危うくなっているのもまた事実です。

実際に、アロマテラピーで用いる精油として人気の高いローズウッドやサンダルウッドなどの原料である樹木が、乱伐や火災などによって枯渇してしまい、手に入り難い状況になっています。そしてその原因は、いわゆる先進国での需要の高まりに応えるために、生産性や利益を優先した結果です。

この本は、飛騨高山に自生する樹木から採れる、クロモジやミズメザクラなどの精油の成分などの詳しいプロフィールや文化的な背景などが記されているので、日本産アロマの実践を志す人にとっての優れたガイドブックであることはもちろんですが、それと同時に、アロマテラピーを支える自然環境そのものの大切さをあらためて教えてくれるテキストでもあります。

そして日本産精油とその原料となる植物を取り巻く環境の問題や、精油の活用の仕方の具体例、使用方法の注意点、介護や医療の現場とアロマテラピーの関わりまで、日本産精油の可能性だけでなく、日本でのアロマテラピーの新たな可能性を切り開く提言がなされています。

精油を実際に抽出する際の苦労話や失敗談からも、著者の森林環境に対する深い愛情と真摯な向き合い方がうかがわれ、豊かな森林環境に恵まれた日本という国に住んでいることの幸福と、その財産を守る責任について、あらためて自覚を促される内容でもあります。

この本を読むことで、日本産精油を体験し、日本由来の香りの文化を暮らしに取り入れることで、心身が穏やかに整い、身近な自然の恵みを顧みる機会になるでしょう。

今、日本の多くの地域で、日本産精油の採取されるようになってきましたが、本書で語られた飛騨高山の取り組みはその先駆といえます。日本らしい、自然と調和した方法でのアロマテラピー、ぜひ大切にしたい活動です。






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