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◆ただそこに在る香りを楽しんで…

秋も深まりつつある週末、朝起きたら窓の外が真っ白になっていました。

ここ島根県松江市では、宍道湖からの放射冷却?の影響で、年に何回か、こんな霧の朝を迎えます。特にわが家はマンションなので、白い霧に包まれて、まるで天空に浮かんでいるような感じがすることもあるのです。

そんな日はベランダに出て、朝の空気を思いきり吸い込んで、この浮遊感を存分に楽しみます。すると秋のこの時期は、どこからともなくかすかに甘い香りが感じられるのです。

何の香りなのか…金木犀ほど強くなく、バラやそのほかの花の香りでもない、樹木の香りとは少し違う…わが家の狭いベランダにある限られた数の草花の中に、このような控えめだけれど存在感のある、たしかな個性のある優しい香りの花があっただろうか…としばらくは分からなかったのです。

それは、洗濯物を干しながら、唐突に分かったのですが、藤袴(フジバカマ)という秋の七草のうちの一つの草花の香りでした。。。この藤袴、ほんとうに控えめな花で、どこにこんな良い香りの元が潜んでいるのか、不思議なくらい地味な花です。

それなのに、朝の空気の中で、おしろいのように、かすかに甘い、花と同様、控えめな香りで、ふわっと穏やかな優しさを届けてくれていました。

今は、香りの溢れた時代で、ドラッグストアに行くと、様々な人工的な香りに満ちていて、人はこんなに香りを求めているのか…と驚かされますが、わが家のベランダの藤袴のように、期待していないときに、期待していないところから、ふっと届けられる香りにこそ、心が惹かれ、嬉しい驚きとともに、心地よい記憶として残るのかもしれません。

攻めの香りよりも、ただそこにある香り。そして、季節の移り変わりとともに、いつか儚く消えていく香り。しかしやがてまた、どこかで思いがけず出会って、その香りとともに、忘れかけていた美しい風景や、平凡だけれど穏やかな日常、そしてそこに居た人のことも、鮮やかに思い出させてくれる香り…。

そんな香りを、好ましく思うのは私だけでしょうか。アロマテラピーで使用する精油も、濃縮されていることもあり、強く感じる香りのものや、普段の日常ではあまり体験しない異質に感じる香りもあります。もちろん、個々人で好きな香り、嫌いな香りも違いますし、同じ人でも、あるときは好きでも、別のときにはあまり好きではない、ということもあります。

それでも、天然100%の精油を薄めて活用するアロマテラピーで体験できる香りは、人工的に合成された香りよりも違和感が少なく、より人の心と体に寄り添いやすい香りなのだと感じます。

自然の中で季節とともに生きている草花や樹木の香りにはかないませんが、そんな植物が自らの体の中で育て育んだ精油(エッセンシャルオイル)は、私たちが体験できる香りの中でも、より生命に近い部分を感じさせてくれる香りです。

精油の物質としての働きを知り、役立てることも大切ですが、まずは、その香りの中にある、自然や生命の素朴な息吹を感じていただければと思います。

暮らしの中でさりげなく香り、寄り添う──アロマテラピーがみなさまにとってそんな存在でありますように、そして自然の恵みと力について少しでもお伝えできればと願っております。




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