夜の爆発

痩せたい、のに痩せない。とにかく太っている原因を考える。答えはシンプルだ。一日のうちに消費しているカロリーよりも、摂取しているカロリーが多いからである。筋トレと有酸素運動などを本格的にして、「食べても太らないカラダ」を作ることができればそれに越したことはない。しかし、、それができないからいまだに私はデブなのだ。そして、自分には奇妙な癖がある。もうずっと前から、一人暮らしを始めた頃、つまり6年以上前から、この現象は頻発していた。それは何かというと、「泥酔すると料理をせずにいられない」という現象だ。そして、泥酔度合いが酷ければ酷いほど、その料理は作ってすぐに腹の中に収めてしまう。腹がいっぱいになった頃には時計はだいたい23時を示しており、満腹満足状態で、ベッドに入ってしまうのだ。そんなことを繰り返しているのだから豚になるはずである。翌朝の寝起きは言うまでもなく最悪で、ベッドから起き上がってすぐに、ローテーブルの上に散乱する使用済みの食器類を発見して絶望する。食ってすぐ寝ているのだから、当然キッチンも使用済みの鍋や包丁やフライパンで溢れている。何が怖いかって言うと、これを見るまで昨日のことはきれいさっぱり忘れてしまっているのだ。私は生まれてこのかたどれだけ食べても胃もたれというものを経験したことがない強靭な胃の持ち主である。飲みすぎ、食べすぎで吐いたことはあるが、それは相当量摂取しない限り発生しない事象だ。つまり、大抵は摂取したものは外へと吐き出されず、血となり身となり肉となる。「痩せない痩せない」と嘆いている豚は鏡を覗けばいつだってこちらを醜く睨みつけているが、如何せんこの豚は自分に甘い。そう、すべては恐ろしいほどの自己管理能力の低さ、すなわち自分への甘さが原因である。自分に厳しい人間にデブはいない。自分を律せず、「食べたい」という欲望の赴くままに行動した結果が、この醜い身体である。そして昨日、私はまたしてもやってしまった。昨日は月一の外出日であり、お昼時間を含めて戻り時間を設定してボードに記入していくのであるが、雑貨屋や本屋に立ち寄っているうちに、昼食を摂る時間がなくなってしまった。「デブだし、昼食代も浮くし食べなくていいや」と、昼食を抜いた。これがそもそもの間違いだったのかもしれない。昼食を食べない分、外をウロウロと歩いたりしていたため、普段よりは運動しているせいか帰りの電車でもいつもより疲労を感じていた。そう、こういう時に、自分を律して、「今日はもう食べない」とか「野菜中心のヘルシーな夕飯にしよう」とかできればいいのであるが、それができないのがデブという生き物である。「食べなくていいから酒は飲みたい」。はい、出ました。お得意のデブ思考。そして私は行きつけのスーパーに寄って、やめときゃいいのにスパークリングワインを二本購入した。せめて一本にしとけばいいのだが、「足りなくなったら嫌だし」というこれまたアルコール依存の自分への激アマ思考が蛆虫のごとく沸いてきて、私の脳を支配した。家に帰ってTVerで今週見逃した番組を見ながら、ワインの線を抜く。ポン!という小気味よい音が狭い1Kの六畳間に響き渡る。氷をグラスに入れて、溢れないように注意しながらワインを注いだ。そして一気にそれを喉へと流し込む。旨い。酒は毎日のように飲んでいるけれど、やっぱり動き回った日の方が酒は何倍も旨い。あっという間に一本が空になった。やめときゃいいのに二本目を開けた。そして、記憶は飛んだ。風呂には勿論入っていないが、かろうじて化粧を落としたことは覚えているし、朝、起きて鏡に映った見慣れた顔は、むくんでブサイクではあったものの、濁りなくすっぴんであった。そのあとは、言うまでもなくいつものパターン。絶望の到来である。キッチンの残骸を見て、さらにゴミ箱を確認する。驚愕の事実がそこに隠されていた。なんと、私は昨日、最初に作ったであろう肉野菜炒めだけでは事足りず、しめに辛ラーメンを食べたらしい。最悪だ。体重計に乗りたくないけど乗らざるを得ない。恐ろしい数字が叩きだされているであろうことを予測し、心の準備をする。・・・・なんということでしょう(劇的ビフォーアフターのあの声で)。体重は、増えるどころか減っていた。考えられる原因があるとすれば、昨日、すごい歩き回ったこと。そして、昼食を抜いたことだ。つまり、摂取カロリーより消費カロリーが上回った?すごい。身体はなんと正直である。しかし、喜びも束の間、すぐに後悔が私を襲った。これで、昨日の夜食べてなかったら何キロまで落ちてたんだろう、と。夜の爆発を止めたい。止めるために、誰かと暮らしたいくらいだ(結局人任せデブ精神)。
―完―

2020.01.29

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