老化現象

去年、左右のこめかみあたりに白髪を見つけた。このときのショックは忘れられない。もう5年も前になるが、30歳を目前にしたとき、周りがザワつきだした。20代のうちに結婚したい、子供を産みたいという友人たちの心の叫びが大半であったのだが、私としてはどこ吹く風という感覚であった。話を合わせるために、「結婚したーい」と軽率に盛り上がって酒を飲むことはしたけれど、正直まだまだ、そんな気はなかった。28歳くらいでバタバタっと友人が立て続けに結婚したときも、祝福する気持ちはあったが、自分も!という気持ちにはならなかった。そもそも、彼氏がいる状態で、「今の彼氏と結婚したい」と思う気持ちはわかるが、相手もいないのに「結婚したい」と言っている世の中の女性の気持ちは全く理解できない。どうして結婚という事象に対して、そんなに漠然とした希望を抱けるのだろう。結婚とは、他人と家族になり、生活を共にすることである以外に他ない。そして、他人と生活するというのは並大抵のストレスではない。特に私のように一人暮らしの楽さにすっかり慣れ切ってしまっている人間からしたら、想像するだけでしんどいものがある。しかし、しかしだ。去年、白髪を見つけたときに、「あ、私、確実に老いてきている」と実感せざるを得なかった。30歳になったときは、病院などで自分の年齢を記入しなければならない場面に遭遇したときに「あ、私もう20代じゃないのか」と実感するくらいで、30代になったからといっていきなり酒が弱くなるとか、オールできなくなるとか、胃もたれするとか、腰痛が起きるとか、そういうわかりやすい老化現象は突然起きたりしなかった。それは30歳から5年という年月をかけて、ゆるやかに、しかし確実に私を蝕んできた。まず、酒を飲んでから眠くなるまでの時間が早くなった。オールは耐えきれず、カラオケにいようが居酒屋にいようがバーにいようが所かまわず寝てしまう。相変わらず大食漢ではあるが、若い頃に比べるとだんだん脂っぽいものを受け付けなくなってきた。これは嬉しい変化ではあるが、しかし大して食べていないのに太りやすくなり、一旦肉がつくと多少食事制限したくらいじゃ体重は減らなくなってしまった。弛みっていう言葉なんて知らなかったよねと思わずキャンユーセレブレイトを熱唱したくなってしまうほど、弛みを実感するようになった。おっぱいの位置が下がった。枕の跡や、傷跡が治りにくくなった・・・。上げたらキリのない老化現象の数々。だかしかし、人生100年時代と囁かれている昨今。もう35歳であるが、まだ35歳とも言える。逆にこの年でこの現象は早過ぎやしないかと思ったのだが、周りの同年代女子たちに打ち明けると、みんな同じ現象に悩まされているということだった。こと白髪に関しては、早い子だと20代後半から出ているらしく、こまめにカラーリングをしているという。みんな顔で笑って心で泣いては、同じね・・・とか感慨深く浸っている時間などない。人生において、今、そう今!この瞬間が、悲しいかな一番若いのである。10年後、私は確実に45歳になり、20年後、私は確実に55歳になる。もちろん、病気や事故でその年齢を迎える前に天に召される可能性も十分にあるわけだが、まあ、何もなく生きていけたら確実に年をとっていく。はて・・・世の中の独身女子たちがなぜ、声高に「結婚したい!」と叫ぶのか、この年になって漸くわかったような気がする。みんな、自分がこの先老いていくということを知っていたのだ。私は知らなかった。10代の頃は永遠に10代な気がしていたし、20代の頃は永遠に20代のような気がしていた。30歳になった頃から「あれ・・・」と時が他の人間たちと平等に自分にも流れているんだということを実感し始め、そして35歳になった現在、やっとわかった。私は確実に老化している、と。この先、若返るということは一生ない。もちろん、ダイエットや整形をして、外面的に若返り美しくなるということは努力と根性と金があれば十分に可能であるが、しかし内臓は確実に実年齢と比例して老いていく。妊娠はしにくくなっていくし、出産もリスクを伴うものになっていく。というか、なった。35歳はもう立派な高齢出産の年齢だからである。気づくのが遅すぎたと思うか、まだ間に合うと思うかも結局は全て自分次第であるが、好きな人も彼氏もいない現在、やはりむやみに結婚したい!とは相変わらず思えないから、結婚商談所にもマッチングアプリにも登録していないし、この先もすることはないだろう。世の中はクリスマスムード一色に染まるこの時期。街中は「自分たちが世界一幸せ!」というオーラをこれでもかと振りまいて堂々と闊歩するカップルで溢れ返る。そんな中、私は一人、明日、無事に「彼氏いない歴1年」という記念日を更新する。これからますます増えていく白髪とシミと皺と弛みと共に私は「来年の明日、どうか2回目の更新はしないで済みますように」と神に祈るばかりだ。
ー完ー

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