家の空気を追い求めて・・・25年 (3)
・・・ 家の空気を追い求めて・・・25年(2)からつづく ・・・
新型コロナウイルス感染症で変わったこと
室内化学物質では基準値濃度、例えばホルムアルデヒド100㎍/㎥ トルエン260㎍/㎥というように、マイクログラム(1㎍は100万分の1g)単位の基準を1立方メートル当たりどのように減らすかの取り組みでした。
しかし新型コロナウイルス感染症では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) 0.05~0.2㎛、マイクロメートル(1000分の1㎜)と重さから大きさに単位が代わりました。
どちらも目に見えないことには変わりはありませんが、ウイルスを家の中でも対応しなければならなくなったことに驚きを覚えました。
しかし、考えてみればインフルエンザも同様です。
そしてまずは、部屋の空気中にどのようにウイルスが存在するのかを学術会議資料等で調べました。
部屋の空気で扱うのは飛沫感染(飛沫5㎛以上)・空気感染(飛沫核5㎛以下)そしてエアロゾル(空気中に漂う微細な粒子)中のウイルスの生存半減期(空気中の粒子のなくなる時間)であり、除去するためにはどのように考え対応するのかを整理することでした。
もちろん皆さまも対応なされたように、最重要対策は換気です。
そして改めて、換気について確認しました。
例えば病院の感染症の隔離室における換気回数は12回/時間、また空気の再循環を行う場合、全換気回数のうち2回/時間以上は外気による換気を行う必要があること。
建築基準法では住宅以外の換気量は、必要換気量=20Af÷N(Af:居室の床面積 N:一人当たりの占有面積 建物用途により異なる)、および部屋の用途により必要換気回数から求める方法。
事務所ビル等ではビル管理法でCO2濃度 (1000ppm)以下の基準を設定することで、必要換気量=30A・N(A:居室の床面積 N:居室の人員密度)などいろいろな計算方法と基準があります。
また、皆さまもご存じの様にコロナ過では、厚生労働省の推奨換気量として1人当たり30㎥/hは記憶に新しいと思います。
しかしながら、住宅では「シックハウス」対策として定められた換気量が基準で、1時間当たり部屋の体積の0.5回以上の換気量を24時間行うことです。
一般的な6帖の部屋では1時間当たり約12㎥ 8帖で約16㎥以上の換気量になります。
これは前記のコロナの推奨換気量30㎥/h・人(事務作業程度の換気量)と
一概に比較対象とはできませんが、新型コロナ・インフルエンザ等の感染症を考慮すると、換気扇だけでは換気量は少ない数値です。
なお、建築基準法では窓等の換気に有効な開口部(居室の床面積の1/20以上)が決められていますので、換気扇+マド換気の併設で30㎥を確保したのが現実であったと思います。
でも、夏の暑い時期や冬の寒い時期は、どうしても換気扇だけに頼る方が多かったように見受けられます。
また、換気扇の設置位置が各階で1か所(トイレ・洗面室・浴室等)の設置で各部屋はドアのアンダーカット(ドア下の隙間)から排気を行う方式が多く、ウイルスが家全体に拡散するリスクが見受けられました。
私が携わった建物では、部屋の空気の流れを考え一部屋ごとに換気扇を設置しているため、家族の一人が感染した時には部屋を隔離することにより、家全体へのウイルスの拡散リスクは少なかったと思われます。
しかし私も、コロナ前は部屋体積に対し1時間当たり1回以上の換気量を設定(シックハウスだけではなく花粉やハウスダウトを考慮)し、通常の規定0.5回の2倍の換気量を設定していましたが、それでも換気量については多少の見直しを行い、それと同時に省エネ対策も強化しました。
寝室のCO2濃度を考える
新築では、私の設計・監理を行っている住宅は基準よりも換気量は多く、部屋ごとに対応しているため、寝室での呼吸から排出される二酸化炭素(以下CO2と記載)濃度は当然1000ppm以下になることを前提としていました。
そして、リノベーション・リフォームについても、同様に換気量について配慮することにより、新築と同じレベルに近い空気の質をつくってきました。
このような経緯から、特に寝室のCO2濃度を意識することはありませんでした。
しかし、あるリフォームでお客様との雑談の中で、「朝起きたとき疲労感が残る」とのお話がありました。
寝室はリフォームを考えていないとの事でしたので見ていなかったのですが、改めて拝見すると綺麗なお部屋で空気清浄機はおいてありましたが、給気口も換気扇もない部屋でした。
2001年竣工した住宅(築23年)でしたので、その当時の標準的な内容です。
そこでCO2の濃度が気になりましたが、私の携わった建物では、一般の建物も住宅でも1000ppmを超えるという認識がなかったため、CO2の濃度測定器は持っていませんでした。
そこで改めて、想定計算をおこなってみることとしました。
前提となる計算根拠は寝室のため、安静時の呼吸中のCO2濃度10000ppm及び、1人の1日に呼吸する空気量20㎥、そして外気中のCO2濃度420ppm(2020年度の気象庁発表数値)部屋の体積として6帖約24㎥で、1人で就寝した場合の1000ppm(ビル管理法で規制値)を超える時間を計算しました。
給気口・換気扇がない状態の計算結果は、1.67時間で1000ppmを超えてしまいました。
また、8帖約32㎥で、2人で就寝した場合の1000ppmは、1.1時間でした。
なお、これは給気口・換気扇のない部屋での、あくまでも計算上の数値ですが、6帖1人で6時間後は約2900ppm、 8帖2人で6時間後は約4000ppmの可能性があり、睡眠に対する悪影響が懸念される内容だと思いました。
CO2に関しては、空気清浄機では軽減できないため、給気・換気による濃度低減が必要であり、特にリノベーション・リフォームに関しては寝室の空気に最大限の注意を払うべきだと改めて感じています。
そしてなにより、大切な睡眠のために、寝室の空気環境は重要であり寝ている間こそ、よりきれいな空気・より安全な空気をつくることを目指したいと思っています。
あとがき・・・
いつの間にか、健康を考え「室内空気環境」に取り組み25年経ちました。
「においのない安全な家をつくれますか?」との問いかけからスタートし
「誰もが同じ空間にいる限り空気は選択できない、だからこそ目に見えない空気の品質を上げてみたい」との思いを、持ちつづけた年月だったように思えます。
そしてこの事が、携わらせていただいたお客様の健康に少しでも寄与させていただいていれば、これほど嬉しいことはありません。
「安全な空気をつくる」それが私の役割だと今も思っています。
そしてそれは
「見えない空気に価値をつくる」ことなのかもしれません。