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かじかじ君

今日は、かじかじ君のお話を書いてみよう。


かじかじ君は脳梗塞で半身まひの80代ダンディー紳士でございます。


かじかじ君は一日中車いすに座らされていました。 暇で暇でしょうがなかったのでしょう。ちょっと、魔が差したのかもしれません。テーブルの上に置いてあった色鉛筆を一口かじってみたのでした。


なーーんてことでしょう。 (ビフォーアフターのサザエさん風に読んで下さい)


かじかじ。かじかじ。かじかじ。


色鉛筆は瞬殺でかじかじ君の胃袋の中に納まったのでした。 一本二本なら色鉛筆が消えていても誰も気が付かなかったでしょう。かじかじ君は思いあまって、24色すべてかじかじと食べてしまったのでした。


どうしてかじかじ君が犯人だとわかったかというと、ご飯時でもない、おやつ時でもないのに、口をもぐもぐさせていたからにほかなりません。


かじかじ君は介護士さんにほっぺたをむぎゅっとつかまれ、口の中から木片を指で掻きだされていました。


かじかじ君のもぐもぐは、ぎょうかいようごでいうと「いしょくこうい」といいます。 かじかじ君の「いしょくこうい」はこの日を境にどんどん、拍車がかかっていたのでした。 


あるひ、かじかじ君はいつも通りお口をもぐもぐさせていました。 


看護師さんや介護士さんたちがかじかじ君を警戒して、かじかじ君の周りには、何も置いていない状態でした。だけど、かじかじ君は今まさにかもぐもぐと何かを食べているのです。よーく、かじかじ君の口の周りを見ると、真みどり色になっていたのです。 あきらかに、食べ物の色ではありません。


「なんだ?今度は何喰ったんだ!!!!」 と看護師さんたちはあびきょうかんでございます。そんななか、しらぬぞんぜぬとかじかじくんはモグモグ。

 
看護師の一人がかじかじ君の口の中に手慣れた感じで、指を突っ込んだ。
かじかじ君の口の中からは、得体のしれないなぞの緑色の物体が出てきたのです。「これはなんだ!!!」とスタッフたちは頭を悩ませました。 


カチカチカチカチチーン!!(一休さんが閃いた時の音)


そのとき、一人のスタッフが大発見をしたのです。「花びんにあった、造花が全部なくなってる!!!!」 一同は花びんに目をやりました。 


花びんに刺さってあったはずの折り紙で制作した桔梗がすべてなくなっているではありませんか!!


しかも、桔梗をさすために花びんのそこに置いてあった、生け花用スポンジもなくなっていたのです。


一同の声が「あああああああ!!!」と、しめしあわせたようにそろったのでした。 


そうです。かじかじ君は折り紙と生け花用スポンジをすべて平らげていたのです。


早急に生け花用スポンジのメーカーに問い合わせると、間違って一度食べたぐらいなら、さほど害はないとのことでした。


私たちは、胸をなでおろしました。よかった、よかった。


さーーて、そこで終わればただの素人集団。ご家族と変わらない。


医師や看護師、理学療法士等々、我々専門職はプロの集団である。


プロはそこから対策を立てていくからプロなのでございます。


題して「かじかじ君会議」が清須会議の如くおごそかにとり行われたのでした。 けんけんがくがく、白熱した会議の結果 「かじかじ君が一日かけて食べつづけていてもいいものを探す」 という結論になったのです。 


どうです。プロっぽいでしょ(笑)(笑)(笑)(笑)(笑) 


そこで、白羽の矢が立ったのが、かじかじと言えば・・・。そうスルメ!!
50㎝ほどある特大スルメを家族さんに頼んで買ってきてもらった。さーこれでどうだ。 とばかりにかじかじ君にスルメを手渡した。 


かじかじ。かじかじ。かじかじ。かじかじ。 


かじかじ君はスルメを噛み始めた。 よしこれで、何時間もつかが勝負だ。
と、次の日。朝礼で看護師さんたちからの申し送り。 ドキドキワクワクしながらの結果発表!!ぱふぱふ!! 


「え~っと、かじかじ君のスルメですが、20分もしない間に一枚食べてしまい、家族さんに5枚買ってきてもらったのですが、昨日のうちになくなってしまいました。ご家族にまた買ってきて欲しいと頼んだところ、何千円もするので、そんなにしょっちゅう買えないとのことでした。」 


そこまで看護師が話すと隣で聞いていた医師が 「そんなペースで食べたら、塩分がね~」 とおっしゃりあそばされましたので、「スルメ大作戦」はたった一日で作戦失敗となったのでした。 


つぎに白羽の矢が立ったのが、スルメとくれば・・・・そう「昆布」ですね。 家族さんに「おしゃぶり昆布」を買ってきてもらう手はずとなった。これなら、スルメと比べて安価だし。いいだろう。おしゃぶり昆布を大量に家族さんに買ってきてもらった。 


袋を開けて・・・・・・・。 かじかじ君は、袋を開けずに小袋のパッケージのままおしゃぶり昆布を口に入れてしまった。 


慌てた一同は、袋から昆布を取り出し、かじかじ君の前にあるテーブルに紙を敷いてその上におしゃぶり昆布を山づみにしたのです。 さーどうぞ。 と、一同が手を差し出した直後。 かじかじ君は、昆布に敷いてあった紙をかじかじとかじり始めたのでした。その後お皿やタオルに昆布を載せてみたのですが、なぜかかじかじ君は昆布には目もくれず、お皿やタオルをかじるのでした。

昆布大作戦はわずか数秒で企画倒れとなってしまったのです。 すみません。すみません。と頭を下げて、大量のおしゃぶり昆布は家族さんに持って帰ってもらいました。 


そして、そんなこんな、紆余曲折、七転八倒、二転三転。いろいろあって、最終的には、少し厚めのお手拭き用のタオルをかじかじしてもらうことで、落ち着いたのでした。(かじかじ君は少し長めのタオルがお好みでした)
タオルをかじかじしていると、他のいしょくこういが、いっさいなくなったのです。これなら、カロリーや塩分の心配もない。異物を食べることもありません。 


対応としてはまさに  perfect !!


見た目がちょっと赤ちゃんみたいという難点はありましたが、しかーーーし。背に腹は代えられないのである。メリットとデメリットを鑑み、医療・介護のプロ集団が出した答えがタオル。大人的に言うと折り合いというやつです。


当の本人であるかじかじ君も幸せそうに機嫌よく朝から晩までかじかじしている。素敵なことだ。


医師のOKもちゃんといただきました。(コンプライアンス的にも完ぺき)
これにて一件落着。


かくして、かじかじ君大作戦は幕を閉じたのでした。 ちゃんちゃん(笑)

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