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アルバムの中の誕生日

「Rさんって、確か今月が誕生日だったよね」
「うん、そうだけど」
「何日なの?」
「……もうねぇ、子供じゃないから、今更人から誕生日だからってお祝いしてもらっても、嬉しくも何ともないなぁ」
「……そうかなぁ」
「『嬉しい』ってのは、もう終わったよ」
「……」
「プレゼントなんか、いらないし、気持ちだけで充分だよ」


こんな会話をRさんとしたのは、もう5、6年前のことだった。
結局、Rさんの誕生日は分からないままだった。

それからも、何度も、Rさんとは会っている。
日帰りの旅行も、一緒に何度も行った。

だけど誕生日の話しは一度もなかった。
……あっ、一度はあった。

「あなたって、8月生まれだったっけ?」
とRさんが、私に聞いてきたことが、あった。
「違うよ」
「えっ、そうだった?なんか、ずっと、8月かと思っていたよ」
「……そういえば、他の人からも『8月が誕生日?』って聞かれたことがある。……何でだろう?」

私もRさんと同じで、その時、自分の誕生日は言わなかった。
Rさんも聞いてこなかった。

「何で、そうなるの?」って、そのことを人に聞かれたりしたら「別に……」って、素っ気なく答えるかもしれない。

本当、Rさんにとっても、私にとっても「別に」あまり深い意味なんて、無いことだから。

でも、あの5、6年前のRさんとの会話を、忘れていた訳でもなかった。
しっかり、覚えていた。

Rさんとは、小学一年のころからの友達だ。

だけど、他の女の子達がするような
「誕生日のプレゼント交換」なんか、一度もしたことが、なかった。

「別に、そんなこと、しなくても……」
と、子供の頃から、二人共そう思っていたのだろう。

あの5、6年前から、私はRさんの誕生日を調べよう、と思っていた。

Rさんの誕生日なら、小学生時代の「卒業アルバム」を見たら、すぐに分かる事ができる。

あれから、ずっと「卒業アルバム」で調べよう、って思っていた。

だけど、私にとって「卒業アルバム」を広げることはとても「しんどい」ことでもあった。

小学生時代、そりゃあ、いいこともあったけど、悪い思い出の方が、すごくあって……。
小学生時代、学校が嫌いだったからね。

だから、「卒業アルバム」なんか、なかなか見る気になれなかった。

そうしたら、嫌な思い出を、沢山、思い出してしまうから。

だから、「学校なんか嫌いだった」と書いている作家さんの本を読んだ時は、すごく救われたものだった。
その他の著名な方々の中にも「学校なんか嫌いだった」という人が、意外と多いと知った時も「私だけじゃないんだ」とわかって嬉くなったし、なぐさめられた。

「卒業アルバム」怖い存在だった。
今でも「怖い」と思っている。

何度も「捨ててしまおう」と思ったものだった。

けっこう、捨てている人って、多いかもしれない。

私は、今年こそはRさんの誕生日を調べよう!と思って、今年になってやっと「卒業アルバム」を出してきて広げた。

とても「勇気」のいることだった。
しんどいことだった。

もちろん、Rさんの誕生日は、すぐに分かった。

その他のページは広げず、すぐに私は「卒業アルバム」を閉じて、元の場所にしまった。

あぁ、怖かった。

でも、Rさんの誕生日がやっと、わかって良かった。

なので、今年こそRさんに「誕生日、おめでとう!」
と書いた手紙を書こう、と思っている。

Rさん、「今更…」と思うかな?
ちょっと、嬉しくなってくれたら、いいなって思います。
いずれにせよ、びっくりするだろうね!






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