見出し画像

音の無い世界(5の12の番外編)

【この記事は、この読み物のテーマと直接、関係のない腕時計談義が延々と続きますので、番外編として取り扱わせて頂きます。息抜きにどうぞ。】


アリさんは、紆余曲折の果てに無事、ヨドバ○カメラの、だだっ広いフロア内にある腕時計売り場に到着した。
ブランド時計ごとに店舗は仕切られており、スタッフの人数も半端ではない盛況さである。店舗スタッフの名札には外国人(中国人らしき)の名前もあり、時世はグローバルに展開されつつある。
アリさんは、はじめに、腕時計の革バンド売り場に向かった。


穴田さんは言った。
「アリさんは、じつはひそかに、優雅な大人の貴族の『キング・オブ・イケオヂ族』※に憧れているのです。ゆえに、イケオヂにだけに似合う、イケオヂのために作られた、イケオヂ専用の革バンドをお買い求めしたくなったのです。」

(※イケオヂとは40代から60代のミドルエイジの世代であるという。)

智子@は、なんとなく言った。
「アリさんは、イケオヂの、イケオヂによる、イケオヂのための、ジェントルマンでダンディーな革バンドをお買い求めしたくなったのですね。」

穴田さんは言った。
「ただし、アリさんは、諭吉紙幣が必要な高価な『クロコダイル』の革バンドには全く興味ありません。」

智子@は納得したように言った。
「クロコダイルの革製の物がどうしても欲しい!なんて人が、この世の中に居るのでしょうか。
着け心地はお世辞にも良くなく、水の中に居る生き物のくせに水分に弱くて耐久性もなく、見た目もさほど綺麗でもない上に、開発途上国の貧困層の僅かな収益のために、無慈悲に乱獲されるだけだし。
今現代は、世界的な動物愛護のムーヴメントから、天然の毛皮はすでにダメな時代ですしね。
ひと昔前(バブルより前)は、フサフサとした天然のタヌキなどの、仰々しい(ぎょうぎょうしい)毛皮のコートを着た女性が街を闊歩していたそうですね。」

(※本当のことをいうと、アリさんは、腕時計のバンドはラバー製か、ナイロン製のNATOベルト派です。)


アリさんはいちばん安い値段の、光沢のある黒色の型押しレザー(人工的に蛇のウロコ状などに模様を付けたもの)の牛革製のバンドを、買おうかどうか、途方もない時間をかけて悩み、意を決して、手に取って精算に向かった。
その間に、パリッとした制服の警備員が、あっちから現れてはアリさんのそばを通り過ぎ、こっちから現れてはアリさんのそばを通り過ぎ、の無限ループを繰り返した。

穴田さんは言った。
「アリさんはたいてい、黒色のバンドを購入されます。汚れが目立たず長く使えることもありますが、大切な時計本体を最も際立たせる色は黒色です。
アリさんにはバンド一つをとっても、並々ならぬ、拘り(こだわり)があるのです。時計ひとつに、バンド(ベルト)を3つも4つも買ったりするのです。
気分に応じて、自分で工具を使って取り替えます。革製のバンドは、手首にフィットしなければ、自分で電動工具を使って、ドリルで穴を明けます。
また、メッキ加工されていない中古の時計で、使用によるスリ傷がたくさんあれば、ヤスリや研磨布で傷を目立たなくします。」

智子@は、なんとなく言った。
「アリさんの人生の大部分は、なんか拘る(こだわる)ところのポイントが微妙にズレているというか、抜けているというか、、、
そんな目立たないことに時間や労力、お金をかけるなら、メイド・イン・ジャパンの品のある、エレガントな革靴を一足、買われたほうがいいですね。」

穴田さんは言った。
「アリさんは、20年以上はヤフーオークションなどをしておりますが、今までに、腕時計(主に国産の物)を買ったり売ったりを繰り返した回数は、何十回という程度ではとどまりません。はたから見たら、何か商売をしている人に見えますが、違います。
アリさんは相場の底値でしか買いませんが、それを転売すると、トントンに持っていけたらいいほうで、手数料を払うと、たいてい微妙に赤字です。」

智子@は不憫そうに言った。
「ある意味、次から次へと生活が向上もしないような物にお金を投入して物欲を満たす行為というものは、時間と労力と金銭がただ無駄になるだけで、喜ぶのは、相場より安く買い取ることが出来た人と、ヤフオクのオーナーの孫正義さんと、その社員だけですね。
自己投資の仕方が間違っています。ほんとアリさんは、IQが低い人の見本のような人ですね。」

アリさんは、腕時計のバンドを購入してから、ウィンドウショッピングを始めた。もちろん、ロレックスやカルティエなどの超高級ブランドの時計はスルーである。
そのような高級ブランドのショーケースに立ち止まっていたら、ただですら煩わしい(わずらわしい)警備員の巡回がさらに険しく物々しくなるからである。

鬼頭魔蘭のイメージ

アリさんは『ハミルトン』の時計のショーケース前に立ち止まり、時計一つ一つを丹念に凝視し始めた。
ひとりの女性スタッフが、いつの間にかアリさんの目の前に居た。女性スタッフの胸に付けられている名札には『鬼頭魔蘭』と書かれてある。

魔蘭は、静穏な面持ちで言った。
「お客様、じつはお待ちしておりました。どうぞ、手に取って御覧になって下さい。
こちら、アメリカを代表するミリタリー(軍用)時計メーカーの、スイス製造のハミルトンの時計で御座います。ハミルトンという時計メーカーのルーツは、米軍への、過酷な現場に耐えうる堅牢な腕時計の供給でしたが、今現代は、ロックンロールの王様のエルヴィス・プレスリーが愛用されていたこともあり、アメリカ国民のアイコン時計となっております。
また、ハリウッド映画で最も採用されている時計であり、まさしく、アメリカの象徴ともいえる時計メーカーでしょう。」

ハミルトン ベンチュラ

アリさんは、『是非、試着して下さい』という魔蘭の身振りに促され、無意識に、お気に入りのカンパノラの時計を外し、ショーケース上に置いた。
魔蘭は、エルヴィス・プレスリーをファッション・アイコンとして展開されている『ベンチュラ』というモデルの最新作の機械式時計を、アリさんの目の前に差し出した。

アリさんは、蚊の哭くような声で値段を聞いた。
「ぉ値段ゎぉ幾らでしゅかっ?」

魔蘭は言った。
「税込¥280500円で御座います。
ですが、お金の問題ではありません。
このベンチュラの宇宙船のような時計が似合う人は、生まれながらの『スピリチュアリスト』の精神的指導者グル※であられる御方です。
私がお見受けする限り、お客様は稀(まれ)に居る真の『スピリチュアリスト』で、きっと【選ばれし人】ですね。
真の『スピリチュアリスト』にお金は不要です。

太古の昔、アンドロメダパイパン星人のアナンヌキは、地球人を遺伝子組み換えして作った創造神でありました。
あなたが生まれた、遠い、遠い、古(いにしえ)の記憶を今一度、呼び戻されて下さい。」

(※グルとは、スピリチュアル用語で、教師・指導者・導師などを意味するサンスクリット語(梵語)の単語のこと。)


アリさんは値段を聞いて、背中のうぶ毛をじっとりと冷や汗で濡らしながら、魔蘭の妖しく光る手で、宇宙船のようにキラキラするベンチュラの時計を試着した。

アリさんは、シチズンの『カンパノラ』ですら新品で買うことは出来ず、ヤフオクで中古で落札した、メッキが剥がれて傷だらけの物を着用して満足している。
(注:カンパノラは特殊なメッキを施されているので再研磨は出来ません。)

魔蘭は、手ぶらで帰るアリさんに言った。
「お客様、あなたのハートには【万華の精神】(敵に塩を送ることが出来る和心)と、
【ナイチンゲールの精神】(最前線の戦地で弾丸が飛び交う中、自己犠牲の精神で戦病者の看病が出来る精神)が、生まれながらに備わっています。
それを、忘れないで下さい。
どうも、ありがとうございました。また、お越し下さい。」

アリさんは、魔蘭の意味深な『慰めの言葉』と、宇宙船のようにキラキラするベンチュラの腕時計に触れたことで、なんとなく、『クンダリニー』※が上がり、お店を出た。

(※ヒンドゥーの伝統において、人体内に存在するとされる根源的な生命エネルギーを意味する言葉。wikipediaより)


オフィスビル型飛行船内に居る、智子@は言った。
「あれ!? あの店舗スタッフさんは、鬼頭魔蘭さんですね!?」

同じく、オフィスビル型飛行船内に居る、穴田さんは言った。
「アリさんの亡き祖父は、日本最高級のグレードのグランド・セイコーの時計(当時の最高級のグレード)を所有しておりましたが、孫のアリさんはこれから先、日本文学の登竜門の『尚樹賞』にでも受賞しない限りは、到底、そのような時計は買えそうにありません。
アリさんは、ハミルトンの時計(新品)を買うだけでも、清水の舞台から飛び降りるほどの大変な思いをするのです。」

智子@は呆れて言った。
「日本は、ほんとうに落ちぶれたものですね。
アリさんみたいな『不妊の階級』※の貧乏人が、日本国中に大量に溢れつつあるのは、亡国の危機です。」

(※ハチやアリなどの社会性昆虫などに見られる。動物の示す社会性のうち高度に分化が進んだもので、集団の中に不妊の階級を持つことを特徴とする。wikipediaより)


穴田さんはアリさんを庇う(かばう)ように言った。
「いいえ、ひと昔前は、ハミルトンの時計は、高校生がお小遣いを一生懸命、貯めて買うような時計のイメージがありましたが、今は違います。
日本経済は物価高で、今や社会人が一生懸命、お小遣いを貯めて買う高級時計に分類されます。」

智子@は、なんとなく言った。
「余計に、宜しくありませんね...。」

アンドロメダ銀河

穴田さんは、アリさんの思念を読み取り、イタコのように『腕時計魂』を熱く語り出した。
「アリさんの理想の時計は、万華鏡のように煌びやか(きらびやか)にキラキラする、唯一無二の、豪華絢爛な時計です。そこに、アリさんのロマンが全て詰まっているのです。
アリさんは、万華(和心の象徴)を見たいと渇望しているのです。」

智子@は、なんとなく言った。
「そういえばですが、日本の時計メーカーが拘る(こだわる)ポイントと、一般のユーザーの人が拘る(こだわる)ポイントが明らかに違うのです。
今現代においては、機械式時計(高級時計では、ほぼ採用されているゼンマイで動く時計)は、工業製品ではなく、アクセサリーの一種の『工芸品』です。
一ヶ月に何分も狂うような機械式時計に精度なぞ、誰も求めていません。日差1分でもいいいので、精度を追求するコストを、文字盤やムーヴメントの装飾に投入して欲しいところですね。」

穴田さんは言った。
「海外の腕時計メーカーは、そういうポイントをよく心得ているのです。
日本のメーカーは技術はあるけど、センスが無いのです。だから、凡庸な丸い形状のケースと、文字盤と針の色だけを替えただけのような、似たような形状の時計ばかり、アホの一つ覚えみたいに量産し続けるのです。」

智子@は納得して言った。
「日本のメーカーの時計のデザインは、まとまりはあるものの、突き抜けたデザインのものが、からっきし無いですね。
まとまりの良い優等生なデザインなのですが、突き抜けていないのです。
ハミルトンのベンチュラの時計なんて、まるで変態的なデザインで、突き抜けてますよね。これは、欲しくなります。」

穴田さんは、苦言のように言った。
「アリさんが愛用するカンパノラにしてもそうです。
せっかくのキラキラがなんとなく小さく収まっていて、中途半端なのです。
ハッキリ言って、腕時計に興味が無い人が見たら、値段が10分の1以下のG-SHOCKのほうが、豪華にすら見えてしまいそうです。
カンパノラは、日本古来の伝統工芸の金箔や漆塗りや、プラネタリウムのようなアンドロメダ銀河が見れる星座盤のコンセプトは素晴らしいのです。
でも、なぜか、地味なのです。
もっと派手に、キラキラが煌びやか(きらびやか)に見えるよう、時計本体・文字盤を、G-SHOCKに負けないほどに、もっと大胆に大きくして、突き抜けてしまいましょう。
そうすれば、アリさんをさらに『慰めること』※が出来るでしょう。」

(※『慰め』という言葉は、聖書でよく用いられます。)




※重要:このシリーズの記事は、ほぼ全ての記事が現在進行形の【書きかけの状態の記事】であり、大幅な書き足しや文章の削除修正は大いにあります。
(幾つもの記事を並行して書いています。公開してありますが、ほとんど、メモ状態の記事さえもあり得ます。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?