東-1 理性闘牌のアリュージョニスト

これはゆらぎの神話・アリュージョニスト・アリスピ Advent Calendar 2017の5日目の記事です。

「六王麻雀戦だ」
「なんだって?」
 トリシューラの突拍子もない発言に俺</アキラ>は眉をひそめた。麻雀。四者で四角形の卓を囲み、点棒を奪い合う、それは地球の遊戯の名前だ。
「アキラくん、きっと君は今様々な疑問を抱えていると思うけど、一旦今は全部横において。なんせほら、もう開局の時間だ。アキラくんが座らなかったら卓が割れちゃう」
 俺が目を一度瞬かせると、目の前には雀卓――点数計算まで全部やってくれるタイプのやつだ――があり、対面にはコルセスカ</ルウテト>が座っていた。上家にはマラード、下家にはルバーブが座っている。
 一種異様な光景に威圧された俺の前で、泰然とした様子のマラードが卓の中央に手を伸ばした。ダイスが回り、親が決められる。起家はルバーブだ。
「麻雀はラフディー的な競技ではない。球を否定するような四角で構成された卓と牌。だが我らラフディーの民はこのゲームを好んで遊ぶ。なぜだかわかるか、シナモリアキラ」
 マラードが口を開いているうちに、ルバーブが一打目を切る。河にこぼれ出たのは五索。ルバーブの暴打とも言える打牌を見て、美貌の王は何が気に入ったのか大きく頷く。
「わからないな。打ち慣れているようにも見えないが?」
 俺とて麻雀に明るいわけではないが、中張牌ほど"くっつき"やすいことくらいは知っている。自棄に見える打牌に理由などあるのか。俺は右端の白を切る。
「ポン。それはだ、ドンネルスタフ神のお導きを感じられるからだ。このようにな」
 俺の白を食いとったマラードは続けて四枚の手牌を開き、「カン」と告げる。絶対的な王権の宣言によるそれは四枚の九筒。王牌から一枚取り、そして。
「ツモ。倍満だ」
 ハクホンイツリンシャンツモ裏四。一巡目だというのに手牌の中はすべて筒子――球体で埋まっており。
「そして王は神子でもある。シナモリアキラよ、これがただのコンビ麻雀と思っていくれるなよ。これは六つの王権を争う、その代理戦争の一部だ」
 ガシャン、とすべての牌が卓の内側に落ちていき、中でぐるぐると回転する。円盤の回るその音がクラシックかなにかのようにマラードは楽しんでいる。こんな力を持つやつに麻雀で対抗することができるのか。そもそもいまのチリアットの身体では牌が持ちにくい。
「アキラ。マラードたちは強敵です。ですが、私達ならきっと勝てるはずです。なぜならば彼らには一つ弱点がある――!」
 対面のコルセスカから声がかかる。どうやら彼女には何か策があるようだ。ならば、俺もこんなところで諦めるわけにはいけない。
「東二だ。続けるぞ」
 上昇してくる手牌を前に、俺はサイバーカラテ道場を起動した。



 その後。サイバーカラテ道場とメンバーシューラによる打牌予測アプリの補助を受けながら完璧にデジタルな打牌を続けることで"筒子染め"以外では力の出せないラフディー組を破った俺達は、次なる六王との戦いに向けて結束を新たにするのだった。
 ところでこれコルセスカが麻雀打ちたかっただけだよね、とは言い出せない空気のまま、六王戦は続いていく――

続かない。


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